パフェ
「ご注文承りました。結構がっつり食べるんですね。太りません?」
深夜のとある喫茶店、店員のあまりにも失礼すぎる発言に、女性客は顔を上げる。
というよりも、その声でその人物が誰なのか分かっていた。
「やぁやぁ」
にやにやと笑っているその店員は、市川陽だった。
その女性客、片瀬彩花は苦い顔をしてから疑問の表情を浮かべる。
それも当然だ。
時刻はゼロ時を過ぎたころ、深夜に喫茶店で食事をするという学生にとっては夢のようなドキドキするイベントを過ごそうとしていたら、その喫茶店の店員が同級生だったのだ。
「少々お待ちください」
そう言って、市川はキッチンの方へと戻っていく。
しばらくするとまた市川がやってきて、片瀬が注文した料理を運んできた。
さらにしばらくして、片瀬が料理を食べ終えそうになったころ、両手にパプェを持った市川が三度片瀬のテーブルへと減ってきた。
「……頼んでないんですけど」
「サービスですよ。今ならおまけにイケメンなクラスメイト付きですよ?」
「結構です」
「まぁまぁそんなこと言わずに」
「そんなの食べたら太るし」
「さっきまでオムライス食べてた人が何言ってんだか」
そう言って、市川はテーブルの片瀬の向かい側の席に座る。
「んー!うまうま」
一口美味しそうにパフェを頬張って、幸せそうに感想を漏らす市川。その声は、片瀬と二人だけの店内でしんとよく聞こえた。
「……どうしたの?こんな深夜に?」
市川はそう片瀬に問いかける。
片瀬の頭の中は混乱していた。
むしろ聞きたいことがあるのはこっちだと。
うちの高校はバイト禁止なのになんでここで働いているのか、とか。未成年が22時以降に働いていいのか、とか。そもそもなんでバイトなんてしているか、とか。
しかし話の主導権を握っているのは市川だ。
片瀬は困惑しつつも応える。
「急にお腹すいちゃってさ。好きなんだよね、深夜に外食するの」
「へぇ、じゃああの時もそうだったの?」
『あの時』。
市川が指すあの時、というのは、片瀬が市川の自殺を止めた時だ。
あの時の今日と同じく深夜だった。
「まぁね、たまにだよ。たまーに」
落ち着かない様子で片瀬は返す。緊張しているのだろうか。
片瀬はつんつんとパフェのクリームをスプーンで突っついて、口に頬張った。
市川とは違い、オーバーリアクションでおいしそうな反応は見せないが、深夜に食べるパフェがまずいわけがない。
「おいしい?」
落川がそう尋ねると、片瀬は少し照れて答える。
「うん。おいし」
その返答に市川はにこっと優しく笑って、柔らかな口調で言った。
「それ、バイトの事の口止め料ね。また君との秘密ができちゃったねぇ」
この作品が少しでもいいなと思ったら★★★★★と感想ブックマークをよろしくお願いします




