王女モドキが読んだ景色~落ちたカラス~
彼はカラスです。彼は、傷だらけの情けないカラスです。
彼は、周りのほとんどのことを嫌っています。
同じカラスの仲間、人間の作った街、雨や寒さ、夜さえも嫌いでした。
彼はとても嫌いなことの多いそんな鳥でした。そしてその中で、一番嫌いなことは、知らないことでした。
自分が知らない物を見た時、とても怖くて不安なのです。
仲間のカラス達は、知らない物を見た時、知れるまで努力しました。
仲間に聞いてみたり。
つついてみたり。
落としてみたり。
人間に触らせてみたりしました。
でも、彼、ほとんどのことを嫌っているカラスは、その努力すら嫌いでした。
仲間にも、気を許していない彼は、仲間にも聞かず。
つついてみたりせず。
つついて触らないので、落としてみたりもせず。
人間にも近づきませんでした。
結果、彼の嫌いなものは、減ることは、ありませんでした。
いつまでも……
時がたち、世界は、少しずつ変化していきます。
少しずつ……
結果、知らない物が、知らないことが、あれ、増えている?
時が経って知らないことが増える、その事に気づくと、彼は、泣き叫びました。
そして、カラスは、飛び上がりました。知っているものをなるべく見ようと。
これは、知っている。
あれは、知っている。
それは、知っている。
あそこに見えている物は、知ら……ない……
怖い! 彼は、目を閉じました。知らないものが、怖くて、不安で、目を閉じて飛んでいると
いくつもの冷たい雨が、心の中で降り、凍えてしまいそうでした。
その時、知らない内に作られていた。彼のいつも飛んでいる高さに届く。
高い建物に、目を閉じたまま、ぶつかって彼は、落ちて行きました。
おしまい。