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新婚旅行編 1

番外編をスタートします。

マリーナとラファイルさんの新婚旅行編です!

というわけでR15が予告なく出てきますので、好きでない方はご注意ください。

◆本作は異世界の話ですが、あらすじにありますように、多少のロシア要素を含んでいます。抵抗のある方は閲覧をお控えください。


「準備できた?マルーシャ」

「うん……多分」


私は部屋を出た。

そこには、正装したラファイルさんが。

堂々としてかっこよくて、私は少しの間見とれていた。


「マルーシャ……かわいい」

「ちょっ、キスはだめ、お化粧が取れちゃう」

「じゃ、こっちに」


ラファイルさんは、私の手をさっと取って口付けた。

うわぁぁ。

メイドさん後ろにいるんですけど。


「もー何してんですか人前で……」

「マルーシャがかわいいから」

「〜〜〜……」


ラファイルさんは、この隣国の別邸に来てから、ずっとこんな感じだ。

これが俗に言う新婚ホヤホヤというやつか。

先日の結婚後は、式の日と翌日以外はあまり日常と変わらなくてーーというか一緒にいるのに仕事が忙しくてほとんど変わりようがなかったーー新婚旅行を兼ねている出張に来てから急にラファイルさんが甘々になりだしたのだ。


顔が火照って、背中に汗をかきそうだ、せっかくドレスアップしてるのに。

この人は割と恥ずかしげもなく、こういう口説き文句?を言ってくる、そもそもプロポーズからして会場一杯のオーディエンスの前でだったし……


「さ、いってらっしゃいませ、奥様。旦那様の贈られたドレス、よくお似合いです。会場の視線をさらってしまうこと間違いありませんわ」

「……そんな注目浴びるの困ります……いってきます……」


今回、こういった身支度のために、オストロフスキー家のもう一人のメイドさん、ヤーナさんが一緒に来てくれている。

しかし先日までマリーナさんと呼ばれていたのに、奥様と呼ばれるのが、くすぐったい心地がして慣れない。


…………

…………


私はラファイルさんにエスコートされ、屋敷を出て馬車に乗り込んだ。

今日はこれから、ここタニエツク国の王宮へ参上するのだ。


毎年、こちらの王立学校の音楽講師として夏季の一週間だけ出張に来ていたラファイルさんだが、今年は講師の仕事に加え、国王陛下ご夫妻のプライベートサロンで演奏する仕事も舞い込んだ。

それもあって、今年は初めて王宮主催の夜会で国王陛下にご挨拶をすることにしたのだ。


挨拶だけしたらすぐ帰るから、踊る必要はないと言われているが、日本の平民の私に王宮の夜会なんて恐怖でしかない。

なんだかんだでラファイルさんは根っからのお貴族様だし、普段から自国ムズィカンスクの国王陛下に謁見する機会も多いから、何とも思っていないみたいだけど。

私を陛下に見せに行きたいから夜会に行くとか、気軽に言うのやめてほしい……

ライブより全然緊張するんですけど……


ちらっとラファイルさんの横顔を伺うと、穏やかで、なんだかとても嬉しそうだ。

いや、こんないい顔は、私は嬉しいんですけどね。

それこそ一年前、私がこの世界に来てラファイルさんに出会った頃、ラファイルさんはとにかく無愛想でしかなかったのだ。

だんだん私にいろんな顔を見せてくれるようになって、ノンナさんもヴァシリーさんも、楽団のみなさんも、ラファイルさんが随分穏やかになって余裕ができたと口を揃えて言っていた。


笑えるというのは余裕があるってことだよね。

最初に比べて、笑うこともずっと増えたと思う。


「マルーセニカ」


不意にラファイルさんが私の方を向いてきた。


「ん、ラーファ……シュカ、どうしたの」

「かわいい」


顎を軽く捉えられて、表面を当てるだけのキスをされた。

何ですかそのなんかプレイボーイっぽい振る舞いは。


「……口紅ついちゃいますよ」

「ん。いいよ」


んーなんか照れ隠しでこういう現実的なこと言っちゃうんだよなぁ、私、かわいくないわ……

ラーファシュカって呼んで、と言われてるけど、それもなんだか気恥ずかしくて、なかなか呼べていない。

下手したら今までのクセで、ついラファイルさんと呼び敬語で接してしまうこともしばしば。

というか、呼び名のラーファより、親しい人だけが呼べるラーファシュカの方が長いってどういうこと……習慣だから仕方ないけど。


ラファイルさんは私の腕を取って、体を密着させてくる。

結婚前も私を抱き枕にしていたし、触れ合ってはいたが、結婚後は遠慮しなくてよくなったとばかりにそれはもうベタベタやってくる。

嬉しいのだが、私はまだ照れ臭さが勝ってしまう……


ただ結婚してから、触れ合うのが自然、という感覚を初めて持った。

多分、いわゆる夫婦関係になったからだと思うのだが、ラファイルさんに触れられてもちょっとした緊張とか何か抵抗のようなものがなくなり、私も何も気にすることなくラファイルさんに触れることができる。

距離感がなくなったというのか。

ラファイルさんとだけ感じられる、不思議な感覚だ。


私はラファイルさんに、頭をもたせかけた。


ラファイルさんも、顔を寄せてくる。


「ラーファシュカ。……好き、ですよ」

「ん。俺も好き、マルーセニカ」


***


仕事では夜会に来たことはあるが、参加するのは初めてだ。しかも隣国の。


きらびやかな男女が数多く集まっていて、私なんか完全に見劣りしてしまう。

男女ともに目の保養にはなるけど、いたらいるだけ消耗してしまいそうだ。


しかも私はともかく、ラファイルさんは黒髪のままだ。

こちらの国でもやっぱり公の場には金髪で来るものらしく、暗い髪色の人はいない。


「おや、オストロフスキー先生!いらっしゃったのですか」

「クルィシャエフ教授。一年ぶりですね。奥様も、ご機嫌麗しゅう」

「主人がいつもお世話になっておりますわ」


イケてるおじさまが声をかけてきて、ラファイルさんも挨拶を返す。

教授、ということは、出張先の学校の先生だろうか。


「今年も学生たちが楽しみにしておりますよ。どうぞよろしくお願いします」

「こちらこそ、お世話になります」

「お連れ様には、初めてお目にかかりますな」

「ええ、私の妻です。

マリーナ、こちらの音楽学校で教授をしていらっしゃる、クルィシャエフ教授だ」

「マリーナ・オストロフスカヤと申します、夫がお世話になっております」

「なんと、ご結婚を!おめでとうございます」


そのまましばらく、そこで立ち話になってしまった。

やっぱりというか、先生ご夫妻はまだ二十歳なのに結婚したラファイルさんに驚いていた。

だが音楽の話になると、なんだか納得したようになり、お似合いだと言ってくださったのは決して社交辞令だけではないと思う。

奥様は途中でお友達に声をかけられ、話しに行ってしまったが、私たちは音楽の専門的な話を続けた。

音楽の話になると周りが見えなくなるラファイルさんだが、私には話を振ってくれるようになったのだ。

一プロとして認めてくれているからこそで、ラファイルさんの話に加われるというのは嬉しいし誇らしい。


そうこうしていたらクルィシャエフ先生の奥様が戻ってこられ、いつまでおしゃべりしているの、そういう話は今度学校でなさい、とご主人を怒っていた。

いつの間にか夜会は始まり、人々はダンスを始めていたのだ。

国王陛下ご夫妻も、もういらしていた。

国王陛下のお成りにも気付かないとか、どれだけ周りを見ずに喋っていたんだろう私たち……


「陛下にご挨拶に行こう、今日の目的はそれだけだ。

こんなとこに長居する必要はない」

「はい」

「……目と鼻がつらい……」

「大丈夫ですか?」

()()()()()()のと匂いがキツい、予想はしてたけど」


そうだった。

ラファイルさんは、着飾ってきらびやかな人の集団を見るのが苦手なのだ。

目がチカチカしてくるらしい。

装飾品とかより、目鼻立ちをはっきりさせる濃い化粧が「目にうるさい」そうだ。私は地味顔だし、化粧映えもしないから大丈夫とのこと、黒い髪なのもラファイルさんの目には優しいみたいだ。

モノは「うるさくない」という、私のドレスにも宝石が縫い付けられてたりするし、第一金管楽器は光を反射してキラキラするがまったく平気だから。


それと、ラファイルさんは香水も苦手だった。

この世界の人、というか、多分元の世界でも欧米の人は日本人よりも香水をつける習慣がより一般的と私は思っているのだが、この世界でも同様の印象だった。

我が家には私が来る前から普通にお風呂があったわけで、昔の貴族は風呂に入らなかったとかいう話とはまた異なりそうだが。

とにかく夜会の場はみんな派手に着飾ってくるからか香水くさくて、香水の習慣がない私にも少々キツいものがある。


ラファイルさんは、他の人の挨拶を受けられている国王陛下ご夫妻の近くまで、気持ち足早にやってきた。

こちらから陛下にお声がけすることはできないから、陛下か、あるいはお付きの方が気づいてくれるのを待つしかない。


こちらの国王陛下は、我が国の王妃さまの伯父上でいらっしゃって、芸術分野にも知見が広いという。

まあ、ラファイルさんを招聘するということは音楽はよく分かっていらっしゃるということだ、流行りだからとかの理由ではなく。


「まぁ、黒い髪のままで参上するなんて」

「あの方はオストロフスキー卿だよ、ムズィカンスク王国から招待されているんだ、陛下が許可なさっているんだろう」

「お連れの方は異邦人のようね」


そんな声が近くから聞こえて、ドキッとしてしまった。

あれ聞こえよがしに言ってるよね?

(元)平民の私が言うのもなんだが、そういう噂話はする人の品格を落とすから、やめた方がいいと思う。


「オストロフスキー卿。一年ぶりだね」


目の前に誰か来たと思うと、ラファイルさんがお辞儀をし、私も慌ててラファイルさんに倣った。

国王陛下ご夫妻がいらっしゃったのだ。


「今年もきみの姿を見ることができて嬉しく思うよ」

「お招きいただき、光栄でございます」


さすがラファイルさん、国王陛下を前にしても堂々としていて、いい意味で二十歳とはとても思えない。しかも陛下相手にかしこまりすぎないのがまたすごい……

陛下とは事前にやり取りをしていたようで、陛下は私たちの結婚を既にご存じだった。

祝福していただき、音楽の話を少しして、私たちは引き下がった。

プライベートサロンの話は当然、不特定多数のいるこの場ではしない。


サロンではラファイルさんをベースに、この国のトップクラスの演奏家と要するにコラボするということで、特別に優秀な学生さんも一人参加すると聞いている。


……それでその場のアンコールで『マルーセニカ』を私と一緒にするって言われたんだけど……

いくら私もプロデビューしたからってハードル高すぎるよ!

と言っても、ラファイルさんは大丈夫の一点張りだった。

デビュー戦でしたので十分だからだって……

本番までに練習やりまくらなきゃ……


もはや新婚旅行じゃない気がするんですけど……


でもまぁラファイルさんは常にこんなんだ。今後もこんな感じなんだろう。

私もプロだと腹を括るしかない。


「帰って練習しましょう?ラファイルさん」

「うん。……一晩中」

「その言い方、なんか含みがあるんですよねぇ」

「なんで?どこが?」

「……いえ別に」


新婚で一晩中といえば、その次に来る単語は愛し合うだと連想してしまう私は実は痴女なのかもしれない。

ラファイルさん、そっちの体力はあんまりないから、一晩中とはならないんだけどね。

私もそれで十分満足している。


というかラファイルさんはガチで一晩中練習するつもりなのだ。

裏の意味とか言葉に含めない人である。


さて帰ろう、と会場を抜けかけたとき。


「オストロフスキー先生。お久しぶりですわね」


ラファイルさんが言うところの「目と鼻がツラい」女性が、ラファイルさんに微笑みかけてきたのだった。


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