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93:再会、再開

ラストスパートにつきいろいろ盛り込んでしまいました。

長めです。


ロシアに到着し、空港でラファイルさんと再会を果たしてすぐ実家に連れて行ってもらって、プローシャさんと感動の再会を果たした。

改めてご家族に紹介してもらい、私は温かく受け入れてもらった。

お母様は穏やかな方で、気が合いそうで安心した。あの世界でもこんな感じの方だったんだろうか。

そして話に聞いてはいたが、お兄様とお父様がここでは本当に優しくて、びっくりしてしまった。ちょっと不思議がられたかもしれない。あの世界のことを知るラファイルさんとプローシャさんと、後でその話で盛り上がった。


ラファイルさんの中では結婚式はもう済ませているから、今更なと言っていたのだが、ご両親にとっては初めての我が子の結婚である、しないわけにもいかず、式とパーティーの話もした。

私の方は、親も来ないし、日本の友達を呼ぶのは無理なので、身内で小ぢんまりにしようかということになった。ヴァシリーさんやノンナさんたち、友達はいるし。多分前とあまり変わらなそうだ。


今は実家暮らしのラファイルさんだが、新居も既に目星をつけていて、見学に行った。

モスクワなんて家賃高そうだ。

あの世界と違って貴族でもなければ、プロとはいえまだ駆け出しである、そんなに贅沢もできないだろうと思ったが、学生時代にも既に仕事は始めていたから、既にひと財産あるそうだ。

うんやっぱりこの人チートだわ。

指輪をぽーんと買ってくるくらいだしねぇ。



滞在中、ラファイルさんは仕事の日もあって、私は現場によってはアシスタント(仮)として連れて行かれたときもあった。

プロのスタジオに入るのは初めてである、ものすごく貴重な経験だった。


あの世界とやることは違うが、助手感がすごく懐かしくてしっくりくる。

ラファイルさんも、私を引き連れている方が馴染んでいると言って、今後ラファイルさんの仕事の一部に携われるよう、こちらに拠点を移してからいろいろ教えてくれることになった。


内容はギターのセッティングから、レコーディング機材の使い方とかミキシング、打ち込みの仕方など多岐に渡り、機械はちょっと苦手だから正直あの世界の仕事よりハードだった……

ラファイルさんのための仕事だからかなり頑張ったけど。


同行できない仕事の日は、プローシャさんと外出を楽しんだり、ヴァシリーさんやノンナさんとも再会した。

この二人が、もうしゃべるしゃべる。あの世界と全く変わらない。今は付き合っていて、もうしばらくしたら結婚しようか、と言っているらしい。

ブラック・コンダクターも再開してライブもしよう、と話を進めて、ソージロの行方は?という話になった。

私も、あの世界に行くまでの山形氏の情報がほとんどなくて、名前で検索に引っかからないからどこから探せばいいのか分からないと伝えた。山形氏が見つけてくれるのを待つしかないのかな、という結論しか出せない。


別の日にはラファイルさんも交えて4人で会い、当然のように音合わせをした。

やっぱりどこにいようと私たちは音楽バカなのだ。

あの世界に戻ったみたいで、最高に楽しかった。

セッションの様子をそれぞれSNSにアップして、その中でダメ元で山形氏に呼びかけもしてみた。もちろん私が日本語で。彼はあの世界の言葉を少ししか勉強してないから、多分ロシア語はわからないと思う。

もし日本人の視聴者の中に山形氏を知っている人がいれば、山形氏に伝えてくれるかもしれない、と期待して。

さらに日本にいるとも限らないな、ということで、念のために英語でも呼びかけてみた。


***


ラファイルさんとのしあわせな時間を過ごして、私は一旦帰国。

仕事は6月末までで、7月に入ったらラファイルさんがまた来日して、親に挨拶をしてそのまま一緒にロシアへ帰る段取りだ。


結婚式の日取りも決まったし、付き合いのある地元の友達に順番に会いに行って、結婚とロシア移住のことを伝えていく。

必要な手続きも、日本で必要なことは済ませ、平日に有給を取って実家に行き、父のいない間に自分の持ち物の整理をする。大事なCDコレクションなんかは既にラファイルさんちにひとまず置かせてもらっている。


母には先に、ロシアで暮らすことを伝えた。

母からは、父には何も言えない、と言われた、父はずっと怒っているそうだ。

ロシアなんて伝えたら、人身売買組織かスパイに騙されているとか思いそうだ。

それに加え職業がミュージシャンとくれば、絶対チャラいと断じそうである。

お前は不幸になるの連呼になるに違いない。


ずっと俯くようにしている母と、お茶をする。


母は、父にいつも逆らわずについていく。

お見合い結婚だったのは知っているが、これまでの人生、どうだったんだろうと思って聞いてみた。


案の定、それモラハラだよ、と思うことがいくつも出てきた。

食わせてやってるという言葉が出てきたらもう確定だ。

あとは、お前の育て方が悪いとか、主婦は楽なんだから家事を完璧にしろとか。

あーもうザ・モラハラだったわ。

父は私が出て行ってから一層、母にきつくあたるらしい。

お父さんは寂しいのよ、と母は言うが、だからって母があたられるのを我慢する必要なんかどこにもないと思う。

それは父の、母への甘えだ。

タチの悪い甘え。


お父さんと、一緒にいたい?と聞いてみた。

母は、口籠もったきり、何も言えないようだった。


夫婦にはいろいろある。

好きか嫌いかだけでは動けないことも。

母は、自分で選択するという力を持たずにやってきたのかもしれない。

専業主婦だから、父に従うしか生きる術もなかったのか。

自分で働いてやるというタイプではないから。


「……何をしても、今更だし」


母は、そう呟いた。

諦めのような、希望を無くしたような、なんだかとても寂しく虚しい感じがした。


だが私が帰る時、言った。


「満里ちゃんは、後悔しないように生きてね」


母は、私の選択を支持してくれていたのだ。

母自身の成しえなかった、自分で選ぶ人生を、私に託したのだろうかと思う。


ラファイルさんが来るときには、私の部屋で顔合わせをしようということにした、

父には内緒で。


…………

…………


それからいろいろとあった。


父のコネで入社した会社だから、父の知り合いがいるわけで、その人(直属の上司ではないが上役)から結婚や退職について一度聞かれた。

父の差し金だろうが暗に結婚をやめたらと言われたので、論破した。


部署の上司や先輩方には、どこからか結婚話が伝わっていて(多分その上役から)、だがこちらでは退職のとき食事会を開いてくれてサプライズで祝って頂いた。


そしてラファイルさんが、再来日までのひと月ちょっとで、親に挨拶するために日本語を勉強してくれていた。


その挨拶のとき、母に、あと父は会うのを拒否したために面と向かっては言えなかったが、玄関先から、

「お嬢さんは私が責任をもって幸せにします」

と日本語で(私の添削付きだが)言ってくれて、台詞を予め知っていても感動した。

ロシアの人ってやっぱり言語能力高いと思うんだ。


母とは私の部屋で和やかに顔合わせをした。


母は、娘をよろしくお願いします、とラファイルさんに頭を下げたのだ。


「お父さんに逆らえなくて、ずっと満里ちゃんの味方ができなくてごめんね。

せめてこれだけは、お父さんに何を言われてもお祝いするね」


母は、母方の祖母から受け継いだ真珠のネックレスや指輪など一式を、私に譲ってくれた。

あの世界ではもっとすごいジュエリーを身に付けていたけれど、それにも決して劣らない、私のルーツが詰まった大事な大事なものだった。

母をあの父の元に置いていくのが心苦しくなったが、母は、満里ちゃんが元気でいてくれたら頑張れるから、と初めて明るく言った。

ラファイルさんが、ときどき日本に帰ってきます、と言ってくれ、私たちは母に送り出してもらうようにして、日本を離れるべく出発した。


マンションを引き払って、出国までの間、数日東京でホテル暮らしをしている間、

大学のサークルの友達が東京に集合してくれ、ラファイルさんも交えてごはんに行こうと誘ってくれた。

予約時間にそのレストランへ行ってみたら、なんと私たちへのサプライズパーティー会場になっていて文字通り驚いたが、日本では結婚式ができないから、ものすごく嬉しかった。



こうしてなにかと多忙なそしてゴタゴタな日々を乗り切り、私は7月、ラファイルさんと改めて結婚した。


***


数年後ーー


「ブラック・コンダクターでした!ありがとう!」


ラファイルさんがそう叫んだところで、私はラストの曲のドラムイントロを入れた。

ギター二台、ラファイルさんと山形氏、そしてヴァシリーさんが音と共にヘドバンを決めている。


歌が入る少し前にノンナさんがステージ袖から登場して、マイクの前で構える。

会場は熱気に満ちていて、私もテンションが上がって渾身のソロを決める。


ノンナさんの歌う間、ステージ上手にいるラファイルさんは、ドラムの側までやってきて私と目を合わせながらバッキングをしている。

時折微笑んできたり。

ほぼ一曲に一度はこうやって私のところにやってくる。あの世界ではピアノだったから動きようがなかったけど、今はギターだから好きに移動できる。

もっともピアノのときも、私の方をよく向いて視線を合わせてきたっけ。うんやっぱり変わらなかった。


サビで盛り上がるところは、ラファイルさんも前に出て、かっこよく弾いてみせる。


この世界ではそんなに人嫌いではなくなっていたラファイルさんだが、一緒にステージをやったりラファイルさんの活動を見たりしていると、なんかナルシストっぽい感じがすごくする。いいんだけどね。私は好きだよ。

プロがやると様になるし。存分にかっこつけてくださいな。そんなラファイルさんの後ろ姿をドラムから眺められて、私は常に眼福なのである。


今度は山形氏とフロントに出てギターユニゾン。

漫画の「ゴオオオ」みたいな擬態語が浮かびそうな勢いである。


そう山形氏も見つかったのだ。彼はこの世界に戻った後、やっぱり私と同様に絶望していたそうだ。彼は私が動画を作り出す前に日本を出て、ヨーロッパ〜ロシア付近を放浪しており、その間で私たち4人が彼を探しているという情報を人づてに得て、最終的にロシアで再会したのだった。SNSの威力すごい。

そしてあの世界で一緒になった奥様を無事に見つけ、そのままロシアに住みつき、ブラック・コンダクターは再開できることになったのだ。


アルバムも出しライブにツアーもやっている。

ラファイルさん、ヴァシリーさん、ノンナさんは、それぞれの仕事をこなしながらバンド活動をやっているが、そのバンドも知名度が上がりみんな忙しくなってきているところだ。日本人二人がメンバーという珍しさも、知名度に一役買っている。

ロシアに来るまで知らなかったが、思いの外ロシアの一般の人たちは親日的なことが多い。

そしてたまーに日本語ができる人がいて、しかも大体上手い。不思議だ。


この世界では、ブラックを強調する必要は特にないのだが、思い入れもあるし、かっこいい感じもあるので引き続き使っている。

メタル系バンドなんて黒がデフォルトのようなもんだし。

この世界ではバンド名の由来はきちんと説明できない。あからさまな金髪優位という価値観が存在しないので、見かけがどうのという主張があまり響かないのだ。多分ちょっと前の日本なら流行ったかもしれないけど。

それにこっちの世界でブラックというと、アフリカ系の意味合いの方を連想する人が多そうだから、あまりブラックを掲げるとややこしいことになりかねない。


ただ黒はかっこいいというフレーズは使えるので、それは掲げている。私たちは事実そう思っているし。ノンナさんも、このバンドのときは黒いウィッグを今でもかぶっている。


ギターバトルで盛り上がったところで、ノンナさんが入り曲はクライマックスを迎える、みんなで上り詰めていき、私も体全体でドラムを鳴らす。


曲が終わると、会場は歓声に包まれた。


次回でラストです!

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