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7:この国についてです


準備していただいた食事はとても美味しかった。

フルコースとかではなくて、もうちょっと気楽な西洋料理という感じ。


アーリャさんに改めて、ラファイルさんの苗字を聞いてみたところ、

オストロフスキーさんとおっしゃるのだそうだ。

なんとかフスキーってロシアっぽいから、ピロシキとかボルシチとか出るのかなと思っていたが、日本で普通にありそうな洋食だった。


アーリャさんたちメイドさんや執事さんは、もう済ませたらしい。


そう、このお屋敷には執事さんもいた。

やっぱりガチのお貴族さまのお屋敷だ。


あとは、40くらいのメイドさんと料理人さん、庭師さん、馬車の御者さんがいて、ここには私をのぞいて7人が暮らしている。

加えて、定期的に屋敷の美化のために臨時雇いの使用人さんも入るとのこと。

そりゃそうだ、こんな広いお屋敷を掃除するのにラファイルさん除く6人では足りないだろう。


ラファイルさんのご家族について聞いてみると、王都内にご実家があるそうだ。

ここはラファイルさんが独り立ちして購入したお屋敷……


って、どんだけお金持ちなんですかっ!?

維持費もこれ莫大じゃないですか!?



なんとラファイルさんは、学生ではなく王立学校の音楽教授でいらっしゃった。


天才らしく、飛び級して、17歳の卒業と同時に同職に就かれたそうだ。

すでに在学中から作曲や編曲、指導者として収入があり、音楽にしかお金を使わないから大して借金もなくこんな豪邸を買ったというから、ますます私は居心地が悪くなった。


いや、とっても素敵な場所なんだけど、身分不相応すぎて。



王立学校ということは、ここは王国なわけだ。

ムズィカンスク王国、という国らしい。

なんでこの国は国名も苗字も長いんだろう。一発で覚えられなかった。


国王を戴く国は元の世界でもあったけど、先進国はまず立憲君主制だ。


だがここでは王政が敷かれていた。


何時代と捉えたら分かりやすいのだろうか。



さらに、ラファイルさんにはお兄様とお姉様がいらっしゃって、

お兄様は王国騎士団の副団長、お姉様は同じ騎士団のうち、重要人警護となる隊にお勤めだそうだ。


一気に中世ヨーロッパな雰囲気になった。

そして三兄弟、エリートすぎる。



あれ、でも、電気があるのに騎士団って成立するの??


電気より鉄砲が先だよね?せめて騎士じゃなくて銃士じゃない?


何だか設定がちぐはぐな気がする。


でもこの世界は戦いなどなく平和で、災害も起こらないし、アーリャさんの話から、騎士団の仕事は日本で言うところの警察と消防とレスキューと自衛隊とSPを合わせたようなものだという認識に至った。


そしてラファイルさんは、王立楽団の総監督までも兼任しているのだった。


すごすぎて、ああ〜そうなんですかぁ〜みたいな返事しかもうできなかった。


国の行事、王宮での夜会、パレードその他、楽団が関わるところには全てラファイルさんの采配があるのだ。



……うん、私の知識を伝え終わったら、出て行った方がよさそうだ。

メイドさんがたのお買い物とかに付き添わせていただいて、外の世界を見て私が一人で生きていけそうなところを探してみよう。


あんな人の元にいては気が休まらない。

向こうだってすぐに私の知識を吸収するだろうし、どうせ私の知識など底が浅い、彼の興味を惹き続けることもないだろう。

自分の実力に見合ったレベルの世界で生きていくのがベストだと思った。


***


私があの音楽室に来て、二日間誰も来なかったことについても、初めて聞いた。


ラファイルさんはあのとき、出張で家を空けていた。


ラファイルさんは家を空けるとき、あの部屋には必ず鍵をかけていて、使用人さんたちであっても立ち入らないようにしているそうだ。

それにラファイルさん以外にあそこに用がある人もいないので、誰も来なかったのだ。


あの音楽室は、大胆な造りだ。


もとはどこぞの貴族さまのお屋敷だったここは、コの字型の建物で左翼と右翼、二つの棟があり、

二つをつなげている部分が正面玄関、上の階はホールになっている。


右翼を居住スペースにしていて、左翼の方が音楽室のある方なのだが、


私が最初にいた広い部屋は、なんと一階から三階まであったのをすべてぶち抜いて、左翼の棟の半分までを一つの広い部屋にしたのだそう。


あそこは小規模ならオーケストラも入れるほどで、アンサンブルの練習やリハーサルもできる。


私が取り調べを受けた部屋のさらに隣には個別練習室がいくつかあって、2階はラファイルさんの部屋と資料室、さらに3階には、ここに練習に来た楽団員たちが休息を取る部屋があるそうだ。探検してみたい。


ラファイルさんは仕事に出ないときは基本音楽室に篭りっぱなしで、ピアノだけではなくありとあらゆる楽器を練習し続け、ひどいときには一日食事も忘れて没頭するらしい。



そりゃあ、あのレベルのピアノだって毎日何時間って練習しないと到達も維持もできないだろうし、

他の楽器もやるとなったら、ラファイルさんのことだからどれもプロ級なのだろう、

ご飯なんか食べてる暇はないって感じっぽい。


……お風呂もご飯も忘れてピアノに没頭する音大生の漫画を思い出した。

多分、そういう系の人なのだ。



「……あの、私の食事、明日から残ったものだけにしてくださいませんか?

ほんと、賄いで構いませんから。こんな立派なお料理、私にはとても」


あまりに居た堪れなくなって、思わずアーリャさんに申し出た。

だがアーリャさんは、意外にも、ころころと笑って返したのだ、


「あらやだ、そんな遠慮はご不要ですよ、マリーナさん。

坊っちゃまだけが特別な食事をしているわけではありませんの、私たち使用人も、同じものを頂いているのよ、坊っちゃまの言いつけでね。

確かに賄いを食事にするお屋敷も少なくないけれど、坊っちゃまは私たち使用人も、家族の一員のように扱ってくださるんですよ」


「そうなんですか……本当に、ありがたくて、私どうしたらいいか……」


「坊っちゃまは、マリーナさんのこれからについて、何かおっしゃっていましたか?」

「……えと、私の音楽の知識を教えてくれ、と。生活の面倒は見てくださる、とおっしゃって……」

「そうですか。ならそれでいいじゃありませんか、マリーナさんさえよければ」

「私はもちろん、ありがたくて……

でも本当にいいんでしょうか……」

「坊っちゃまがいいとおっしゃることは、いいんですよ。

坊っちゃまは、特に家では、嫌なことは絶対に嫌と表明する方ですからね。だから心配なさらずにいらっしゃい」


確かに、ラファイルさんは、行き先がないから面倒を見ようなんて同情してくれるような感じでは全然なかった。

最初気付いたとき、大丈夫かの一言もなかったと思う。


だからアーリャさんの言う通り、居ていいと言ってくれるなら、期間限定かもしれないが、とりあえず当面居てよさそうだ。


アーリャさんは優しくて、ぶっきらぼうなラファイルさんと比べて安心して話がしやすかった。

食べ終わって、お皿を自分で洗いますと持って行こうとしたら、私の仕事ですからいいんですよ、と持っていかれてしまった。


いいのかな、これ。


まだ私はここでどう振る舞えばいいのか、よく分からなかった。

私が滞在する部屋には、間に合わせで悪いけれどと言われ既に女性用の簡単なワンピースが準備されていて、今日もそれを着ていたのだ。

メイド服じゃなくてよかったんだろうか。


とりあえず休もう。

明日はどんな一日になるんだろう。


まだまだ不安の方が勝る状態で、私は部屋へ向かった。


>食事もお風呂も忘れてピアノに没頭する音大生の漫画


10年以上前の作品にはなりますがあの漫画です。クラシックの話です。

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