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71:バンド始動計画中


練習をどこでいつしようとか、ライブをやろうとかいう話をしたのだが、私は正直それどころではなかった。

まずはこのバンドにおいてだけでもプロでやれるようにしなければならないのだ、当然ながら。

みんな超絶技巧で、私はついていけるんだろうか。不安ばかりが襲ってきた。


ラファイルさんは夢中で話し込んでいる。

こういうときは他のことなど一切忘れているのはよくわかっている。

「マリーナはどう思う」

「えっ?」

「今の話」

「すみません……頭に入ってなくて」

「だから、この辺に拠点を構えて、ライブをときどきやってちょっとずつ知名度を上げようって話」

「……いいんじゃ、ないでしょうか……」


すみません今私はそこまで頭が回ってない。


「マリーナもメンバーなんだから真剣に考えてよ」

「わかってます、わかってますけど、ちょっとみなさんのレベルが高すぎて躊躇してるんですよ……」

私は縮こまりながら言った。


「練習してる感じから言って、悪くはない。だから心配するな」

「そう、ですか……?」

「前にも言ったけど、俺たちと同じレベルである必要はない。今のまま堂々とやればいい」

「はい……」


はいと言ったものの、内心は複雑だった。

確かにラファイルさんには、彼のサポートの役目もあるからそこまでガチでやらなくていいと言われた。王立楽団員のレベルでなくていいと。

でも一方で、音楽的に下に見られている気もしてしまうし、事実そうなのだ。

完全にアマチュアであればそれも当然と思えるが、一緒にやろうというのにそんなレベルに甘んじさせていていいのだろうか。

ラファイルさんは完璧主義だと思っていたが、うぬぼれてセミプロレベルの私で、本当に満足できる音楽はできるのか。

これが元の世界で、仮にラファイルさんが同じようにいたとしたら、当然プロドラマーを使うだろう、聴く方もそれでないと納得しない。


なんだかもやもやした。


私のレベルで仕方ないのは分かっていて、私も実力をわきまえてはいと言わなければよかったのかもしれない。

でもラファイルさんが言ってくれたから、受けたのだ。私からやらせてと言ったわけでは決してない。ならファンとしては、はいと言ってしまうのもまた仕方ないじゃないか。

音楽でも側にいたいと思ってしまうのは楽器をやるファンとしては当然だと思うけど……

普通は遠慮するものだろうか……

うんでも最低限の水準はあるからやろうって言ってくれた、はず……


ともかくラファイルさんはいいと言ってくれたけど、それに甘えていてはいけない。

何としてもこの天才たちに追いつけるように頑張らなきゃ。


……ラファイルさんと同じ時間練習、が既に無理ゲーだけど……


***


私の不安をよそに、当面ラファイルさんのお屋敷で定期的に練習して、こちらで演奏できる場所も準備して、王宮も学校も休みとなる夏の時期にデビューしようという方向でまとまった。


バンド名を決めようと山形氏が言い出して、この世界ではそういう概念に乏しいのでラファイルさんもヴァシリーさんも「?」状態だった。


「ブラック・クルセイダーズとかどうよ」


黒色騎士団。いいんじゃないでしょうか。

このメンバーに騎士いないけど。私が一番剣が使えるっていう。


「やっぱさー、黒を出して勝負したくない?」

「うん、それがいい」

「オレも全然問題なし」

「いいんですか、ラファイルさんもヴァシリーさんも」


ご実家との兼ね合いもちょっと気になる。特にラファイルさんは、お兄様と、おそらくお父様もあんな感じだし……

黒髪の勢力による活動は潰されてきたとプローシャさんは言っていた。

だから異端訊問みたいなことをやったりしないだろうかと、私はちょっと心配だった。


「別に誰も禁止してないんだぜ。カツラはただのマナーだし、ここもうちも、必要ないだろ。糾弾される謂れはない」

「問題なければ、いいんですけど……

でも騎士って言葉は、変に反応する貴族とかいたら困るかなと思ったり」

「あー。可能性としてはあるな。

念を入れて、何か対策した方がいいかもな、考えとく」

「え、なんか問題アリ?」

「うん、うちの頭の固い兄がなんかちょっかい出してきたら困るから、対策は施しとかないとなと。

第二騎士団副団長っていうめんどい役柄なんだ」

「えーマジで、すげくね」

「肩書きだけな」

「仲悪いの?」

「向こうが一方的に俺を黒髪だからって文句言ってるだけだ」

「そっかー、家族だからって仲いいわけじゃないよなー」


山形氏も優しい人格なのだろう、ラファイルさんの話をちゃんと受け止めてくれている。


「その辺の対策はオレも力になるよ」

出た公爵令息のヴァシリーさん。お家柄ってこういうときあると助けになる。

「ノーナにも協力を仰ごうか」

「えぇそれはやりすぎじゃ……」

「ノーナって?」

「王立楽団のトップバイオリニストで公爵令嬢」

「うぉぉマジでか」


いやいやいやノンナさん巻き込んじゃだめでしょう。なんでノンナさんの名前が出るんですか。


「彼女なら味方になってくれるし、パトロンにもなってくれるよ」

「ええぇだめでしょうそういう巻き込み方」

「貴族社会だって味方につけとくに越したことはないよ。彼女の後ろ盾があれば抵抗勢力が出たとしてもそんなに大っぴらに叩けないだろうね。

それもなんだけど、彼女をゲストにしてもいいと、オレは思うんだけど」

「そりゃあ音楽的には全く問題ないでしょうけど……」

「彼女をゲストヴォーカルとかどうかな?合いそうな気がする」

「あいつ歌やんの?」


ラファイルさんが不意に聞いてきた。ということはヴァシリーさんしか知らないのか。私も初耳だ。


「ん、たまにねストレス発散に、一人で歌ってるね。

でも彼女地声で歌うんだよ。音程は問題ないけど、それこそクラシックがだめなオレと同じでさ、クラシックの歌には無理だね。

逆にオレたちの音楽なら合うと思う」

「へー、それ興味あるな。会ってみたい」

「うちにはすぐ呼べるぜ」

「メンバーにしちゃう?」

「さすがに王立楽団でメインで活動してるから難しくないですか……?」

「黒いカツラでもかぶせようぜ」

「そんなもの売ってるんですか」

「あんたの髪、伸ばして作ればいいじゃん」

「ええぇぇぇアリなんですかそれ」

「カツラってそうやって作るだろ?美しい金髪ほど高値がつく」


そうか……まさかファイバー素材なんてないもんな……人毛ですよねー。

でも悲しいかな私はくせっ毛で美しい髪とは言い難い。ノンナさんのサラサラストレートブロンドにくせっ毛を被せるのはなんか申し訳ない。


確かにノンナさんがついてれば何かと心強い。きっとエドゥアルド様にも負けないだろう。

ノンナさんのご両親も、ロック系を受け入れてくれるかはわからないにしても、反対はなさらないんじゃないかなと思う。それだけで貴族の敵を減らすことはできる。

戦略もちゃんと立てておかないと、ただ楽しくやるだけでは存続の危機があり得るというあたり、日本とは状況が違うと思い知らされる。


それにしても、ヴァシリーさんはノンナさんとかなり仲がいいように思える。

ヴァシリーさんは誰とでも気さくに話をするけど、ノンナさんと連れ立ってうちに来たり、さっきみたいに私もラファイルさんも知らない歌というものを知っていたり。

一人で歌うってそれいつ聞いたんですか。

ノンナさんは付き合ってる人は今いないっていってたけど、ヴァシリーさんとどうなんだろう、とふと思った。



バンド名は結局、ブラックという言葉を入れたいと山形氏が言うので、


ブラック・コンダクター


に決定した。


この世界にとっての初めての音楽の、指揮をとる、案内人となる、という意味を乗せて。


ラファイルさんもヴァシリーさんも、気に入ってくれ、流石に明け方に差し掛かってきたので仮眠しようということになった。


「満里那ちゃん、俺のベッドで寝ていいよ、俺はこっちで寝るから」

「だめマリーナを他の男のベッドで寝させるか」


山形氏が多分単なるごろ寝よりはと思って言ってくれたのだろうが、ラファイルさんが即否定した。


「ラーファ、女の子をごろ寝させるわけにいかんでしょ」

「マリーナは大丈夫」

「あのこういう人なんで私は大丈夫です全然」


山形氏もヴァシリーさんも苦笑していた。


みんなそれぞれに寝転がり、私はラファイルさんに抱き寄せられて、腕枕をされた。

腕を取られて、ラファイルさんの体に回すように導かれる。

向き合って抱き合っている状態である、掛け布団をかぶっているとはいえ人様のお宅でこれはかなり恥ずかしい。

ラファイルさんはそういうことを一向に気にしない人で、おやすみと言って額にキスまで落としてくる始末。

しかも一度で収まらず、私が寝入ろうと目を閉じているのに、髪を撫でられ頬にキスされ挙句には鼻先から唇にまで。


「ちょっとちょっとキミたち、一人モンの横でイチャつくのやめてよ」


ほらーヴァシリーさんに聞こえてるし!

暗がりで見えないが、私の顔は真っ赤に違いない。


「やっぱ満里那ちゃんベッド行きなよ」

「うるせぇ絶対嫌だ」

「ははは、すげーなラーファ」

「見せつけてくれちゃってまぁ」

「ラファイルさんいい加減にしてください」

「ごめん」


そうやってふざけながらも、誰からともなく寝入り、私もいつの間にかラファイルさんの腕の中で眠りについたのだった。


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