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68:いつもと違う夜

甘め回です。


朝方近くになりそうな時間まで練習して、私はようやくシャワーをしてベッドに入った。

ラファイルさんとヴァシリーさんは今日も徹夜だろうか。


ベッドが温まるのをじっと待っていると、部屋のドアが開いて、私は驚いて起き上がった。


「俺も寝る」


もうシャワーも済ませたらしいラファイルさんだった。

ベッドにそのまま乗り上げてくる。


よかったこれであったかく寝れる。

そう思った私だったが、ラファイルさんは私の肩に手をかけて、突然押し倒してきた。


「キスしていい?」

「あ、はい……」


律儀に同意を取ってくれるのはありがたいが、いつもと雰囲気が違って戸惑う。

ラファイルさんは私の上にのしかかり、キスをしてきた。


どうしたの……?


いつものキスより深い気がする、と思ったのだが、次第に気のせいではなく、本当に深いものになってきた……


これは、とどめた方がいいんだろうか。

ラファイルさんは、何のつもりで。


戸惑うが、嫌なわけでもなく、されるがままにしていた。


上半身はラファイルさんに乗られて、とてもではないが動かせない。


嬉しいといえば嬉しいが、ラファイルさんが何をしてくるのか、場合によってはノーの意思表示もした方が、と考えてもいて、身を委ね没頭することはできない。


口が塞がれたままでなんとか鼻で息をするものの、ちょっと苦しくなってきた頃。


ラファイルさんは、長いキスからようやく解放してくれた。


「マリーナ……」

「はい……」

「俺のこと好き?」

「はい」

「どのくらい?」

「えっと……どのくらいって……」


何を言い出すのだろう。

どう答えたらいいのか、すぐには出てこない。


「何か、不安なんですか……?」

上手い答えが見つからなくて、聞き返した。


「……別に」


ラファイルさんは私の上からどけて、私に背を向けてベッドに横になった。


何だったんだろう。


ラファイルさんの行動の意図が読めなくて、釈然としなかった。


さっきのようなキスも。

いつもみたいに抱き枕にしてこないことも。

好きかどうか確かめるようだったことも。

それにヴァシリーさんがいるのにわざわざ私の部屋に寝に来るのも。


ラファイルさんの背中に、そっと触れてみた。

反応がないみたいだから、そのまま顔を寄せてみる。


いつもと逆で、私がラファイルさんを抱き枕にするみたいに、ひっついた。


「……マリーナ?」


まだ起きていた。


「……いいですか?くっついてても」

「うん……」


ラファイルさんが振り返って、手を、と言うので、ラファイルさんに背中から腕を回した。

その手を捕まえられ、私は完全にラファイルさんの背中に密着している、体ごと。


あれかな。山形氏に会いに行くってこと、やっぱり不安だったのかな。


「ラファイルさん……あの」

「うん?」


「好き、ですよ。

ずっと前から。

それこそ、今まで大好きになったアーティストも合わせて、どんな人よりも……一番、好きです」


私はとっさの切り返しは苦手だが、考える時間があれば、こうやって言葉も出てくる。

これまでの経験から、思ったことはなんでも早めに伝えるに越したことはないと学んだ。


ラファイルさんは、手を離してこちらを向いてきた。


「ほんとに……?マリーナ」

「うん、ほんとに」


返事の代わりのように、ラファイルさんは顔を近づけてきて、またキスをしてきた。

今度はそこまで深くない、いつもするキスだった。


顔周りにもキスをして、ラファイルさんは私の体に腕を回し、胸の辺りに顔を埋めてきた。


「……マリーナから来てくれるの、初めてだった」

「そう、ですか?」

「離れないのに、近づいてもこないから」

「……近づきたかったですよ?最初から」

「そんなわけない」

「なんでラファイルさんが否定するんですか……ほんとは近づきたかったです。

でも私はラファイルさんに、何もかも釣り合わないから……」

「そんなもの、どうでもいいよ」

「こっちは気にしちゃいます。

ラファイルさんはかっこいいし家柄もいいし能力に溢れてるけど、私はそこまでできないし美しくもないし気品もないし……」

「なんで?かわいいのに」

「そんなわけないです」

「俺がかわいいって思ってんのに否定するな」

「え?……でも」


日本人としても、私の容貌は多く見積もって中の中〜下といったところだと思っている。

いや、もちろんかわいいと言われて嬉しくないわけはないが。

モテたことのない私は本当に自信がないのだ。みんな私よりかわいく見えるし、何よりこの世界は美女が圧倒的に多い。


「美人って言われてる人って目にうるさい感じがするから無理」


ラファイルさんはそう言った。

目にうるさい。

うん、なんとなく言いたいことは分かるような。


私はうるさくない、つまり美人ではないということだが、ラファイルさんは全く気づいていない。

いいんだけどね事実だし。

ラファイルさんは聴覚が人の何倍も優れている分、対人もだけど視覚からの刺激が苦手なんじゃないかなと思った。


「俺をかっこいいっていうあんたのほうが希少だよ。

俺よりかっこいい男なんかそれこそいっぱいいるのに……」


確かにアジア系よりヨーロッパ系をかっこいいと思う私は、みんな外見はかっこいいと思う、

ヴァシリーさんもエリクさんも、エフレムさんも、ハリトンさんとかかなり。あれ私年上オジサン好き?

でもラファイルさんが一番かっこいい。

黒髪に黒目、文句なしにかっこいい。

年下だけど全然かっこいい。


「かっこいい即好きじゃ、ありませんから。

他の人には見せられないラファイルさんも含めて、全部好きですよ」


ラファイルさんが体を起こして、再び私の上にのしかかってきた。

顔を手で挟まれ、深いキスを注がれる。

あまり刺激してしまっても困るから、応えるのは控えめにしたけれど。

早く、全力で応えられるようになりたい。


キスの合間の息が少し荒いから、ラファイルさんはちょっと興奮気味かもしれない。

そっと押しとどめようとした。

だがその前に、ラファイルさんは私の首筋に強く吸い付いてきた、それも、何箇所も。


「待って、ラファイルさん、今は……」

「わかってる、ここまでにするから」


そう言いながらも、首筋から鎖骨、肩の辺りまで、露出しているところほとんどにキスを落とされた。

吐息が妙に色っぽい気がする。

男性のこんな様子は初めて見るが、私も知識としては皆無ではないし、なんとなく察しはつく。


これ以上は……

ラファイルさんの肩に手をかけて、少しだけ力を込めて押し戻した。


「……ごめん。頭冷やしてくる」


ラファイルさんはいきなり起き上がって、さっとベッドを降りてバスルームに行ってしまった。


私はベッドの中で、ほっとひと息つく。


嫌ではないが、関係が深くなってしまうことに、今はまだ抵抗がある。

私にとって未知のことだし、それに結婚前の貞操というものが建前上とはいえ常識である社会だから。

一緒に住んでいるとしても何もない、と堂々と言えるようでなければ、狡猾な貴族たちの出入りする場で、付け入る隙を与えてしまう可能性がある。



私は毛布にぎゅっとくるまった。

プローシャさんの忠告が頭を巡る。


今に、もっと触れ合うようになって、私もきっと我を忘れて応えてしまう。

そうなる前に、本当のところは結婚してほしい。

でもそれは、私から言うわけにはいかない。ラファイルさんの準備ができるまで。



ラファイルさんが戻ってきたとき、私はまだ眠りに落ちることができていなかったが、寝ているふりをしていた。


ラファイルさんはベッドに潜り込んでくると、後ろから私に腕を回して、いつものように抱き枕にしてきた。


すごく嬉しいけど、嬉しさに完全に身を委ねきれない。

心に抱えているものに蓋をして、眠りにつこうと努めた。


***


翌日、朝ゆっくりめに起き出して、また3人で練習して。

昼過ぎにヴァシリーさんは帰っていった。


帰り際、ヴァシリーさんはなんとなく気まずそうに、私たちを見てきた。


「……明日は髪下ろして来なね、マーニャちゃん」


ちょっと苦笑されたみたいで、私の頭上には?が浮かんでいたと思う。


「ラーファ、だめだよ、早まっちゃ」

「…………」

「ま、その辺りはよく、話し合ってだね」


ラファイルさんも微妙に気まずそうだった。

一緒に寝てるの、ヴァシリーさんにはわかるんだろうか。


と思ったら、ヴァシリーさんが私の耳元に顔を近づけてきて、囁いてーー



私は恥ずかしさが爆発した。



「ラファイルさんっ!!なんてことしてくれたんですかっ!!」


顔から火が出そう。思わずラファイルさんに叫んでしまった。


「なんだよ、落ち着け」

「それどころじゃないっ!もう最悪!」

「ちょ、マリーナ」


恥ずかしさと勢い余ったのとで、思わず涙がこぼれた。

驚いたラファイルさんが抱き寄せてきて、私はラファイルさんに顔を押し付けてついでにその薄い胸板をぺしぺし叩いた。


ヴァシリーさんがいつの間にかそっと帰っていたのには、しばらく気づかなかった。



ヴァシリーさんは私に、首元にキスマークついてる、と囁いたのだ。



室内だから首元まで隠す服装じゃなかったからだ。

気まずそうだったのはそれでか。

今朝方の、あれだよもう……!

絶対やったって思われたでしょ……!


ラファイルさんのバカーー!!


「どうしてくれるんですか恥ずかしすぎるんですけど」

「ヴァーシャならバレてもいいよ」

「よくない!気にします」


バレてもいいくらいヴァシリーさんを信頼していて、いいことなんだけどこちらは恥ずかしい……私たちのことが全部筒抜けになるってことじゃん!

ラファイルさんはその辺ほんと疎い。


ただまだ深入りはしていないことは言ったらしい。

ていうか言ったんかい。


ヴァシリーさん他の人に喋んないよね……?

その辺空気読んでくれると思いたい。今度こっそり念押ししておこう……


ラファイルさんにも、ヴァシリーさん以外には私たちのあれこれを喋らないようにお願いしたのだが……


「エリには多少言った」


とのこと……

初めて知ったが、家族持ちのエリクさんにもときどき話をしているらしい。

既婚者の話を参考にするのは、一応そういう方向を頭には入れてくれているということで、嬉しいことではあるけど……


誕生日来たから、20歳かぁ。

まだまだ若い。

何年くらい、待つだろうな。


「マリーナ、真っ赤。

かわいい」


不意にラファイルさんがそう言って、頬にキスを落としてきた。


「ひゃ、いきなり何するんですか」

「練習の続き、しよう」

「は、はい」


ラファイルさんは今度は私の唇の端にキスをして、音楽室に戻っていく。

私は火照る顔を押さえながら、後を追った。


マリーナより訂正:ヴァシリーさんは20代ですお兄さんです!

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