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67:音楽バカトリオ、特訓中

後書きに解説あり。


次の週末は久々に、ヴァシリーさんを招いての練習である。


ラファイルさんに頼まれた通り、私はヴァシリーさんのジャズベースの進捗具合を見ることになった。


……いやこれ私がどうこう言えるレベルじゃないでしょう。


さすが弦のプロ。バイオリンをベース(コントラバス)に持ち替えても、存分にテクニックを発揮している。

なんとなくジャズのグルーヴぽくなっているし、私としては、それっぽい!という感じ。

どこをどうすればよりいいのかと言われると……

私もベースは見よう見まねだから、ちゃんとしたアドバイスなんかできないんだよねぇ。

なんちゃってでもこの世界ではこれがジャズだ!と押し切るしかないかなぁ。


「3人でブルースやりませんか?合わせてみたいです」

「おう、じゃあそれで」


そしてブルースのジャムセッションが始まった。


うわぁトリオなんていつぶり!嬉しい!

ラファイルさんと二人だと、何かの楽器が足りない感じがしていたのだ。

いや、デュオはデュオでいいんだけど、やっぱりベースがいるとそれっぽいっていうか……!


プロ同士ならデュオでも素晴らしいものができるけど、如何せん私の技量ではデュオだと隙間があるというか。安定しきらないのである……


さて合わせた感じだが、お二人の長年かつ高度なクラシックの経験値のためなのか、こう、レイドバックが!と言いたくなった。

ラファイルさんはそれなりにレイドバックしてくれるのだが、なんかヴァシリーさんがそれに引っ張られている感じだ。

違うんですもうちょっと前を歩いてほしい。


そういうときの練習として、メトロノームに合わせてでお二人で曲をやってみてもらった。


「……あー……ほんとだオレここでズレてんだ」

「俺これでテンポ通りで行ってんだよ」


何やら分析して、その後何度も挑戦。慣れるにはもう少し時間がかかるかもしれない。

今までは、グルーヴよりも使う音について主に説明していたとラファイルさんは言った。その甲斐あって、ベースラインはとてもいい感じに仕上がっている。

ラファイルさんとヴァシリーさんとで、いろんな音遣いを試しもした結果、私がすっかり忘れていたスケールなんかも発見していたから少々驚いた。

少々というのは、この二人ならそんな発見をしてもおかしくないと前々から思っていたからである。

ラファイルさんはもちろん、ヴァシリーさんも私の練習を聞きかじっただけでそれっぽいフレーズを獲得していたくらいだから。


私とヴァシリーさん二人でメトロノームに合わせてやるという練習もした。

私はメトロノームからずれないように必死である。ベースが聴こえているとメトロノームだけに集中するのが難しく、不安定になってしまう。

こんなんでプロいけないでしょ……!ちょっとやばいわ、これは相当やらないと。

昔教わった、一つのテンポで1時間ビートを刻み続けるというのを個人練でやることにした。


ヴァシリーさんも、ドラムとメトロノームを聴きながら、気持ち前に音を置くという感覚を掴もうと試行錯誤している。二人とも互いに試行錯誤しているから当然、ドラムとベースのコンビネーションとしてはバラバラだ。

とラファイルさんに言われて自覚する。


私が絶対的にテンポが揺れなければいいんだけど。

分かっているがまだそこに到達していない。

凡人なので特訓するしかない。


…………

…………


やることは山積みなのだが、私はそれでもやってみたいことがあって、休憩中にラファイルさんとヴァシリーさんに持ちかけた。


「あの、変拍子の曲もやってみたいんです。

こっちは何もすぐ人前でってつもりはないんですけど、いずれ」

「変拍子?」

「5拍子7拍子とか、とりあえず4つで割れなそうな拍子です」

「なにそれ……」


ラファイルさんは既に私から聞いて知っているが、ヴァシリーさんは初耳である。


「私もまだドラムでなかなか再現できないんですけど」

「いやいや奇数の拍子ってなによ」

「3+2、4+3、みたいに数えるんですよ。

8+7なら15拍子とかもいけますよ」

「えーなんだそれ……やっぱマーニャちゃん普通じゃないわ。ラーファの相手が務まるってこういうことだよね」


ヴァシリーさんにドン引きされた。

クラシックがだめなヴァシリーさんが何をおっしゃいますか。自由にいかないと。


「慣れたら結構クセになるぞ」

「あ、ラーファもうそっち行っちゃった?」

「いくらでも自由にできるってことだ」

「まぁ、そうかー。え、まってどんな感じなの」


こうして今回はさらに、予定外の変拍子のレクチャーとなった。

何だかんだ言いながらもちゃんと付いてくるヴァシリーさんはさすが音楽バカである。



そのまま夜中までやり続け、さてそういうフュージョンやプログレ系に欲しいのは、スラップという奏法。

親指で弦を叩くようにしていて、低音がビシバシいう超絶カッコいい音が出る。

私はスラップベースを聴くと、テンションがダダ上がりしてしまう。

エレキベースの奏者が主にする奏法だが、ジャズのベーシストがコントラバスでスラップ奏法をやっているのも見たことがある。



私はそこで、あの山形氏を思い出した。

彼はスラップ奏法ができるし、変拍子のバンドがそろって好きだった。

彼もプロだし、彼に指導を仰いでもいいのでは?と。


ラファイルさんがどう反応するか気にはなるものの、その話を持ちかけてみた……


***


「嫌だ」


その話題になったとたん、ラファイルさんが見事なまでに不機嫌になった。


「却下却下!そいつの助けなんか必要ない」

「でも私より上ですよ?」

「そんなことどうでもいい俺がカバーする」


あぁ……そですか……


「何でそんなに嫌なんですか……?もしかしたらラファイルさんも音楽聴いたら気にいるかもしれないのに」

「そんなわけあるか。絶対嫌だ」


うーん。

会ってもいないのに完全に敵認定してしまっている。

山形氏、完全にとばっちりだなぁ、ごめんなさい。


「会うだけ会ってみたら?面白い感じがするけどな〜」

「面白くない」

「せっかくマーニャちゃんが良かれと思って……ラーファって大人げないねぇ?」

「ですよねー。面白いと思ったのに……」

「マーニャちゃんの前でどんどんボロが出てんじゃん、ラーファ」

「うるせぇ」

「でもマーニャちゃんって引かないでしょ、そういうことあっても。だから大丈夫だよ。

オレはそのスラップってやつをやってみたいんだよね」


私ではスラップの仕組みがいまいち分からず、やり方は教えられなかったのだ。

だがフュージョンやロックをやるには私としては必須と思っているから、ぜひ身につけていただきたい。

ヴァシリーさんその調子。言って言って!


「ラーファが目新しい奏法に飛びつかないなんて珍しいねぇ。かっこいいやつなんでしょ?」

「それはもう!ラファイルさんもスラップやってくれたら絶対かっこいいです」


む、とラファイルさんが視線を上げた。

ちょっと興味出てくれた?


「ほらほらかっこいいってよラーファ。マーニャちゃんはラーファにやってほしいんだよ〜?

もったいないなーマーニャちゃんがせっかくそう言ってくれてるのに……」


ヴァシリーさん、やっぱりあんまり煽らないで……この人機嫌がどっちに転ぶか私もまだ把握しきれていない。余計頑なになりやしないかちょっと心配になった。


「ラーファはその異邦人がマーニャちゃんにわざわざ手紙寄越したのが気に食わないんだよ。マーニャちゃんのこと気にしてるように取れるからさ。

そんな心配いらないって、ドゥナエフやエドゥアルド殿になびかないマーニャちゃんだよ?」


「例の異邦人の方は、拾ってくれた女性の方にお世話になってるそうですよ。

普通考えたら良い仲じゃないですか?だから心配いりませんって、それにラファイルさんの方が断然かっこいいですから、ね?」


「ヒョーウ!言うねマーニャちゃん!ほんとよかったよねラーファ」


ヴァシリーさんにいじられたが、ラファイルさんがかっこいいと思うのはお世辞ではなく本当にそう思っているのだ。大袈裟でもなんでもない。


ラファイルさんはまた俯いて、


「その奏法教わるだけだぞ」


とぼそっと呟いた。


早速今夜、食事代わりにバーに行ってみようかとヴァシリーさんが言ったのだが、ラファイルさんはまだ渋って、来週末にバーに行ってみることにようやくひとまず決定したのだった。


・ブルース:12小節で構成される曲。ジャズでもロックでも使われます。

基本のコード進行が決まっていて、メロディを知らなくても合わせられるので、軽く手合わせとかウォーミングアップとして使いやすいのです。

・レイドバック(久々に出たので一応再掲):リラックスして、という意味合いで、後ろにという意味は入っていないようですが、作者は個人的な感じ方として、一部の音を、楽譜より気持ち後ろに置く感じでやってます。

・スラップ奏法:親指で弦を叩くようにしてはじくのと、人差し指で弦を引っ張ってはじく組み合わせですが、現時点マリーナはそこまで知らないです。ちなみに正しくはエレキベースのない時代既に、音量を出すためにジャズバンド(つまりウッドベース)でスラップ奏法が使われていたよう。

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