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59:ノンナさんと行くセレブな世界


「今日はノンナさんとお約束してるので、街へ出かけてきますね」

「そうなんだ、行ってらっしゃい〜」


明るく答えてくれたのはヴァシリーさんだ。この週末もこの屋敷に入り浸っての特訓である。


ラファイルさんはというと、私が外出するのが相当意外だったらしく、戸惑うような表情を見せた。

「……おう、遅くなるなよ」

「分かりました」


まさか門限ありとか言わないでしょうね?と密かに思ってしまった。


私は馬車に乗り込み、ノンナさんとの待ち合わせの場所へと向かった。


街中を訪れるのは、以前ラファイルさんがケーキを買ってくれて以来の二度目だ。

しかもあのときはケーキ屋しか行ってなかったから、街を歩くとなると初めてである。


王宮と学校の間くらいにある街に、私は初めて降り立った。


…………

…………


ノンナさんが連れて行ってくれたのは、貴族向けエリアにある商店街みたいな所だった。

このエリアは入場にパスがいって、パスのあるノンナさんの連れということで私も入れるという仕組みだった。

元の世界でいうテーマパークの有料会員みたいなものか。

だが入場者がほぼ貴族に限られ、身元も保証されている人ばかりだから、治安もよく貴族令嬢が供なしでも、例えば一人ででも歩けるのだ。


その代わり高級店ばかりである。

いまだ庶民感覚の私には、入るのをためらう店ばかりだった。


「そういえば、今月ラーファの誕生日あるよ、知ってた?」

「え、そうなの?知らなかった」

「ちょうどいいじゃん、プレゼントリサーチしようよ」

「何がいいんだろ……?」


ラファイルさんは楽器以外にこだわりがない気がするから、何が好きなのか実は知らない。


「結局マーニャちゃんの誕生日には何かくれたの?」

「曲をもらったよ」

「マジで。引くわ」

「えっ、そう?」

「いやマーニャちゃんがいいならいいんだよ。ラーファらしいっていうか……」

「私が遊びで弾いてた音を、すごく素敵な曲に昇華してくれた」

「……そっかぁ、うん、マーニャちゃんがいいならよかったね」


私がいいならと強調された。

普通の女性は引くものなのか。あ、確かにアマチュア同士でもらっても引くかも。

でも超絶プロに曲をもらうなんて、しかもその人のファンな場合、これは嬉しくないわけがない。

ノンナさんはご自分もプロだから、人から曲をもらってもすごくも何ともないのだろう。



通りをぶらぶら歩いて、ウィンドウショッピングをしながらプレゼントを考える。


だめだ何が好きなのかさっぱり分からない。


ノンナさんにも聞いてみたが、私の方が知ってるでしょ?と返された。


でも悲しいかな本当に知らないのだ。


私たちは雑談というものをあまりしないし、食事も朝しか共にしない。

家と職場しかほとんど行かない。


「ならラーファに聞けばいいんじゃない?何かほしいものあるって」

「そうだよね……別に、て言われそう」


家で着る服なんてまったく気を遣ってないし、多分アクセサリー類は演奏の邪魔とか言いそうだ。


音楽関連で何か面白いものがあったらいいかもなぁ。

そんなのあるかなぁ。


ひと通り見て回ったがピンと来るものがなく、私たちは一旦休憩することにした。

ノンナさんが好んでときどき行く上品なカフェに連れて行ってもらった。


「この後は服とか見に行こうよ!あたしもちょっと久しぶりなんだ、新作入ってるかなぁ」

「うん、行こう」

アフタヌーンティーみたいな感じでお茶とお菓子を味わう。

庶民感覚の私にはちょっとお高めだが、もう数ヶ月お給金を頂いたのにほとんど使うことがなく、実は金銭的余裕が結構ある。

たまには使うことがあってもいいよね。


と思ったらノンナさんは、()()()()()()()公爵家に請求を回すように店員さんに伝えた。

ええー何それ。

今日お会計しないの。何それ。


「ノーナ、私自分の払うから」

「いーのいーの。別にマーニャちゃんに奢ってあげるなんて上から目線じゃないよ。

いつも働いてくれるマーニャちゃんに、あたしからご馳走!」


「……ありがとう。

でも悪いよ、私はいつもノーナに助けてもらってるのに」

「そんなの気にしないで。

マーニャちゃん来てから、ラーファとも仕事しやすくなったし、楽団の雰囲気も確実に前より良くなった。マーニャちゃんは癒しの女神だね」

「そうなの?」

「そうだよ。だってラーファが一番変わったよ。

前は、正論をぶわーってぶちまける感じだったけど、今はみんなと一体化してきてるっていうか。

ラーファの言うことって正しいから、反論するほどのことでもなかったんだけど、やっぱ人間感情の揺れとか、正しいかどうかだけじゃ割り切れない部分あるじゃん?

そういうアソビがなかったのはちょっと窮屈だったね。

でも今はラーファもそういうあたりが感じれるようになってきたのかなぁ」

「人と衝突じゃないけど折り合いの問題とかありそう、って確かに最初は思った」

「あー、やっぱりそう思った?」

「初対面のとき、怖かったもん。私ラファイルさんのピアノ勝手に弾いてたし。

私が音楽やってなかったら絶対叩き出されたと思う」

「やりかねないね」


私に音楽があって本当によかったと今でも思う。


…………

…………


今日は晴れているが、まだまだ厳冬期で店には冬物が並んでいる。

というか日本の新作のタイミングが早すぎると思う。


「マーニャちゃんこれなんかいいんじゃない?」


私服もおしゃれなノンナさんは、ぱっと服を取っては私に当ててくるが、それが狙ったようにかわいくてびっくりした。

貴族令嬢の社交というものを基本しないノンナさんは、ドレスでなくワンピースや、トップスとスカートという装いが標準である。


「これはカッコいい系。

うん、いいねー」


私はファッションには疎く、何が自分に合うのかもよく分かっていないレベルである。

元の世界でも大体無難なものしか着てこなかった。

ちなみに今着ているものは、日本で言うところの通販で買(ってもら)ったものだ。

これも異邦人が伝えたやり方なのだろうか。

ラファイルさんのお屋敷のお抱え呉服商が発行したカタログがあって、それで注文し、商品を家に持ってきてもらって買う仕組みだった。

私はなんでも選べと言われたものの畏れ多くて、最低限で華美でないものを選んでいた。


でもやっぱり、こうやって直接店に来る方が、種類も豊富で流行の先端!的な感じがする。


「これなんか仕事着にもなりそうだね。でもカワイイ」


お値段トップス一着、5万くらいして、0一個多くない!?と思ってしまった。

いやいやいや!

庶民がこんなもの買えますか!


安くて1万くらいである、ちょっと手が出ない。


これいいなー、とノンナさんが買ったのは何と7万もするではないか!

しかも普段着用だそう……!


そしてここは特別に高級店でもないそうである……

ちょっとどーなってんの!セレブってこういうの普通なの?


演奏用衣装になると、20万くらい普通にするそうで、

演奏家の殆どが貴族という意味もよーく理解した。


楽器や学費だけじゃない、演奏家として活動するのにまでお金がかかるのだ。

音楽家になっても最初は利益になりやしない。

実家の財産をあてにできる人しか基本音楽を続けられないのだ。



そしてこういうのも準備しといた方がいいよと言われて入ったのは、ランジェリーショップだった……

うん女子同士じゃないと行けないね。

でもちょっと待って刺激が強すぎるよ。

それはもうキワドいランジェリーの数々。

私はこういうのも無頓着である……


それに一つ問題だったのは、大きいのが標準で、私の板のような体など想定していない点である。

つまり適度なサイズがない。

上だけでなく、腰回りについてもそうなのである……

ティーンズ用っぽいのまで私より大きいわ……!


「でもこういうのは一枚あっていいんじゃない?

夏場はこれ一枚で寝れるよ」


と言われて当てられたのは、ナイトドレス……だと思うけど、あの、透け感ありすぎなんですけどっ!


これ一枚って!

この国の女性はそうやって寝るんですかっ!?


だめだカルチャーギャップについていけない。


残念ながら私は退散である。


ノンナさんはそんな感じのめちゃセクシーなナイトドレスをサラッとお買い上げになった(やはり公爵家への請求だった)。

こういうのが似合う人は、いいよねぇ。


あとここもお勧め!と言われたのは、ジュエリーショップである。

お手頃なジュエリーが売っていると言われてみれば、何のことはない普通に30万50万のジュエリーがごろごろ、

ハイジュエリーも扱っていて、そちらは軽く100万越え。

手頃ってなんやねん。

またも出身地でもない関西調になってしまった。


ただ私はジュエリーは単純に好きである。

目の保養とばかりにあれこれ見て回った。


「エンゲージリングはこんなのどう?」

そんな気の早いことを言われて見にいけば、5カラットと表示されたでかいダイヤモンドリング。

いやぁ5カラットなんて初めて見ました。

デザインはこれが好き、とか、ゴールドもいいとかやっぱりプラチナとか、ジュエリーはそこそこついていける。


ノンナさんの好きなジュエリーは、ルビーだった。

元気なイメージそのままだ。

私は、サファイヤ。青系が好きなのもあって、一番好きだ。


「ルビーとサファイヤって兄弟みたいなもんだもんね。マーニャちゃんとお揃いで嬉しい!」

「うん、私も」

思ったことをストレートに表現するノンナさんは、一緒にいてとても楽しくて、なのに疲れなくて落ち着く。

性格は私とはかなり違うと思うのに、感覚がどことなく似ているからだろうか。


いや、ノンナさんは、自分がこんな人だったらいいのに、と思う人物像なのだ。

快活で美女。ストイックで才能もセンスもある。

セレブでモテる。


「ノーナって、悩みとかあるの?」

「ん?まぁそりゃー、人生いろいろあるからねぇ。

あたしも悩むよ。でもそれならどう行動したいか、いつも考えてる。

悩む事態に直面して、そこからどうするか自分で選べば、いつしか状況は進んでるから」


「かっこよすぎる。惚れそう!」

「だめだよ〜マーニャちゃん浮気は!」


そう言って笑いあうが、本当にノンナさんの生き方はカッコいい。


私も、そうありたい。

どうするか、自分で選ぶ、か。意識してみよう。


***


楽しい時間は過ぎ、そろそろ帰ることにした。

私はちょっと頑張ってプチプラ(セレブ基準)の服を一着買ってみた一方、ノンナさんは軽く20万くらいの買い物をしていた。


いろいろと羨ましいが、それでも初めて見るセレブな世界は純粋に楽しかった。

庶民だけど、私はベルサイユ宮殿とかに憧れるタイプの人だから。

(でも社交は嫌い)


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