55:プローシャさんとガールズトーク
深く考えずラファイルさんの部屋で過ごしていてプローシャさんに咎められたことを、ラファイルさんに責任を押し付けてしまったような気がして、私はプローシャさんに、私自身の思慮の浅さを詫びた。明日ラファイルさんにも謝るつもりだ。
プローシャさんは、笑って気にするなと言ってくれたが、私の知らない男という生き物について語ってくれた。
「19なんて一番盛りの頃だぞ。お前が病み上がりだったから無事だったんだろうよ。10代男子の煩悩を舐めちゃいかんよ」
「でもそそられないって言ってたんですよ」
「ごまかしだごまかし。興味ないふりをしてるだけだ。
大体あいつはお前を囲い込んでおこうと必死になってるじゃないか。ほんとにお前に関心がないならともかく、関心どころか執心してるのに、そそられないとかあり得ない」
執心?
してます?
「あいつの話を聞くに、最初はほんとにお前の音楽に興味を強く引かれたんだろう。
だが音楽を合わせてみて合うわ、話は合うわ、家に置いておいても違和感がないし、一緒に過ごしても無理にならないし、ドレスを準備してみても何もねだらないし、金髪の男たちになびくこともしないしで、そりゃあ褒めてたぞ。王宮で立ち話するとき、大半お前の話だった」
あ、そですか……
「やっぱり異邦人ってのは目を引くからな。
お前を気にする男どもが少なからずいるから、気が気じゃないだろう」
「私の感覚ではこちらのお顔立ちのほうが美人に思えますけどねぇ……
私の世界なら、プローシャさん、世界レベルの女優さんかモデルさんになれますよ」
何を美しいと思うかは人それぞれだが、私は西洋系の顔立ちを美しく思う人である。
中学生のころはそれはもうミーハーで、日本のアイドルよりも金髪碧眼の外人俳優さんとかにキャーキャー言ってみたりもしたものだ……(黒歴史)
「ところで、ラファイルさんって、私に敬語使わせてるって……そうなんですか?」
さっきプローシャさんの言ったことが気になっていたのだ。
「親しくしたいなら言葉も崩せばいい。
なのにあいつ、いつまでもマーニャにラファイルって呼ばすし、明らかに目上であろうとしてるだろ?
余裕がないんだよ。
お前に対して優位でいて、取り込んでおきたいんだ。
小さい男だねぇ」
「私は……ラファイルさんには憧れてますし、年下でも尊敬してます。
だから敬語でも全く問題に思ってないんです」
「マーニャ、その盲信ぶりも少々危なっかしい。
あいつは無理難題は言わないと思うが、これから共にありたいなら、あいつを見上げていてはいけない。
仕事中はともかく、家では敬語はとれるようにしないと。
遠慮なくあいつに言えるようにならないと、また今回みたいに倒れるぞ」
「ですよね……」
何となく思い当たる節はある。
ラファイルさんの邪魔にならないように、と言いたいことの10分の1も伝えていなかった分が、私の中で蓄積され、行き場を失っていたのかもしれない。
ラファイルさんの態度が気になるあまり、緊張感もとれていなかったし。
「親しくなるほど、あいつはお前に甘えてくると思う。
全て受け止めていてはお前が潰れるぞ。
受け止めるにしても、きちんと受け止めるか、あるいは軽くあしらいながら受け止めるのかでも気楽さは変わる。
抜くところは抜かないと、もたないぞ」
「なるほど……でもね、嫌われないようにって思っちゃうんです」
「溜め込んで爆発するほうが危ない。不満は小出しにしないとな」
「それは聞いたことあります……でも不満ってないんですよ」
「不満が出るほど互いに入り込んでないだろう?関係性が変わればその辺も変わるよ」
「そうですね……」
プローシャさんのアドバイスはとても心強い。
私にとっても姉みたいで、この世界で身内のいない私はつい安心してしまう。
騎士とはいえ貴族のお嬢様が恋愛経験豊富ではないよなと思ったのだが、入団後数年は女性を主に対象とする取り調べや聴取等の部署にいたという。
たしかにさまざまな人生模様が見られそうだ。
そうした経験からすると、私のような、男性に従うタイプの女性は、相手が悪いと搾取され虐げられる傾向にあるということだ……
だが、私がお兄様のダンスの誘いに応じなかったのは褒めてくださった。
「兄上は確かに名誉欲も上昇欲も強い。プライドで生きてるような人だ。実績を上げて第一騎士団に異動したいようだが、うちは実績より人柄と信頼がものを言うからな。
マーニャ、お前が両陛下と面会を許可されたのも、ラーファの口利きによるものだけじゃない。
お前の人となりが回り回って陛下周辺の人間に認知されているからだ」
ひぇぇいつのまにか側近のどなたかに私は見られていたということですか。
王室のスパイですかそれ。
……でも王室を守るためにはありか。
「あんな兄と、似たような父を持つ私やラーファが王室に関われるのも、表面的なものより内面が重視されるからだよ」
「……逆に、不思議ですね。
この国では、一般的に地位や見かけを重視すると思っていたんですけど……
王室には黒髪のラファイルさんが受け入れられるのに、演奏家としては黒髪だと評価されないなんて。
陛下がラファイルさんを気に入ってくださってるなら、そんな評価法を撤廃するよう打ち出してくださったらいいのに」
「長年の慣習を変えるのは簡単じゃないんだよ。世間の価値観というものもな。
上から触れがあっても人々の意識は簡単には変わらない。特に、今まで最高とされてきた金髪のものは、激しく反発するだろう、自分たちの地位が脅かされるから」
「うーん、それは確かにあるでしょうね……」
「過去にも黒髪のものたちによる地位向上の運動はあるにはあったが、金髪が多数派だからな、そんな勢力は簡単に潰されてしまう。先代や今代国王下では発生していないが、歴史がそう語っている。それに当事者も、味方も少ない状態で命をかけるほどのことでもない、となってしまうんだろうな。
ラーファは、価値観に楯突くことはなく、自分の世界を最優先にしているから、そういった文句を聞いたことはない」
「そっか……
でもこの前、以前は自分のほうがいい演奏ができるのにって思うから他人の公演は観に行かなかったって言ってました。
やっぱり自分が表舞台に立てないのは、悔しいんですよ、いくら自分の世界があっても」
「そうか……
お前には、そういうことも語ってくれたのか。
お前にだいぶ甘えられることもできているみたいだな」
「年が明けたら、一緒にバンドを始動しようって話をしてたんです。
反発勢力もきっとあるけど、ここからやり続けようって。
黒はカッコいいんですよ。
成し遂げるなんて大きいことは言わないですけど、かっこいいって思ってくれる人が周りに増えてくれたらいいなって思います、楽観的ですけど」
プローシャさんは、少し驚いたようだったが、私の肩を抱いてくれた。
「マーニャ。お前は思っていたよりずっと強いな。
ラーファの救いになってると思う。それに、私たちの母上にとってもきっと……
お前には、ラーファのことといい、心から感謝するよ」
「お母様?」
「……いずれ、ラーファから聞くといい」
プローシャさんは、お母様のことについてはそれ以上言わなかった。
私も、自ら掘り出すようなことはしない。ラファイルさんが話してくれるときでいいと思っている。
私がプローシャさんの言うように、お母様のなんらかのためになっているのなら、それは嬉しいことだ。
私は別に強くなんかない。
それどころかビビリの弱気だ、どの辺が強いのか、よく分からないが、騎士のプローシャさんが言うのだからそういう部分もあるのだろう。
「ま、まずはそういう活動ができるためにも、元気にならなきゃな。
男っていうのはな、マーニャ、いつでも捨ててやるくらいの気持ちがないと、調子に乗って甘えてくるぞ」
「だってラファイルさんより素敵な人なんていそうにないです……」
「大丈夫、お前ならいくらでも王室勤めの男を紹介できるから」
「ええ〜そんなモテませんて私……音楽バカなんてみんな引きますよ」
「大丈夫だって、そのくらい許容してくれる器の広い男はいくらでもいるぞ?王室に関わる人間は内面が重要って言っただろ?」
「もう〜冗談やめてくださいよ〜プローシャさん」
本当に鞍替えしようという魂胆が私にないから、プローシャさんもこんな冗談を言ってくる。
でも、万が一ラファイルさんが私を離すようなことがあれば、そういうツテがあると思えば、一応気が楽になるといえば楽になる。
ラファイルさんがいないと生活面で生きていけないという恐れから、ラファイルさんに気を遣いすぎている部分は、確かにあるから。
ラファイルさんが私を離さない限りは、関係ないことだけど。
その後、私たちはもう少し踏み込んだ際どい女子トークを、遅くまで楽しんだ。
マリーナは男性の生態をよく知らないです。




