54:年末年始はゆっくりします
この国では、新年は各家で友人を招いてプライベートパーティーをしながら祝うのが一般的だそうだ。
日本の感覚のおめでたいというよりは、イベントという意味合いのほうが大きい感じだ。
ちなみにラファイルさんは今まで、やっぱりそういうパーティーに行くこともなく練習して過ごしてきたらしい。
練習にならない、あるいは質が落ちるからとお酒も一切やらないし、音楽に関係ないこと、必要ないことは、容赦なく削ってきた人だった。
でも今年は、今お屋敷にいるラファイルさんと私、アーリャさんとサーニャさん、そして休暇で屋敷を訪ねてきたプローシャさんとで食卓を囲んだ。
私は数日かけてようやく起きて生活できるようになったところで、楽しみにしていた練習も剣の訓練もお預けになってしまったが、
私とアーリャさんとで簡単にご飯を作ってみんなで一緒に食べるというそれだけで、年末年始は十分に特別な日々になった。
そう私も台所に立ったのである。
一応包丁くらい使えますよ。
ただ昼食の一品レベルの料理しかできなくて、和食でさえ(むしろ和食の方が)煮込み料理とか味付けをどうしたらいいのかわからない。
アーリャさんの指示通りに下ごしらえをさせていただいた。
料理は一般的に、料理人や使用人の仕事であり、貴族の女性は家事をしないのが普通だそうだ。
私は庶民だし、まぁ日本の一般女性というのは、男の胃袋をつかめ!みたいに料理ができるのはステータスのような集合意識下で過ごすから、料理がうまい人はすごいと思うし見下すなんてとんでもない。
料理人さんが休暇中の現在、アーリャさんが全員の食事を一手に引き受けている状態だから、私も何か力になりたかった。
日本人の感覚として、一人に任せてのんびりしているわけにはいかないのだ。
アーリャさんもラファイルさんも、私が台所に立つことにびっくりしていたが、アーリャさんは恐縮し、ラファイルさんはアーリャを気遣ってくれてありがとうと言ってくださった。
病み上がりだから無理はするなとはしつこいくらい言われたが……
改めて、使用人の仕事とされていることを私がするのを、そんな風に受け止めてくれるラファイルさんでよかった、と思った。
ラファイルさんは、使用人さんたちもその仕事も尊重していて、見下すようなことを絶対にしないのだ。
そうして、アーリャさんお手製の、お祝いの日に平民の食卓にあがるような食事が出来上がった。
いい匂いですごくおいしそう。
***
いつも練習でいないラファイルさんが夕食の場にいるだけでも珍しかったのだが、プローシャさんも、貴族らしい食事ではないにもかかわらず、家族っぽくていいと嬉しそうにしてくださった。
ーーご実家では、豪華なディナーをいただいていても、こういう温かい雰囲気が味わえないのだそうだ。
「ラーファもちょっとは角が取れたか?
音楽に人生を注ぎ込んで、生き急いでる感じがしていたが、それがかなりなくなったな。
やっぱりマーニャが隣にいるからなんだろう」
「そうですねぇ、マリーナさんがいらしてから、だいぶ変わられましたよ」
身近な人にとっても、ラファイルさんは変わってきているようだ。
それもいい方向に。
私の存在がその手助けになっているのなら、何よりの栄誉だ。
私がこの世界に来て4か月ほどで、思いがけずいろんな出来事に見舞われたが、ラファイルさんと一緒に乗り切ってきた。
これからもそうしていけたらいいな、と思う。
プローシャさんは、二日この屋敷に泊まって王宮へ戻るということで、
私はプローシャさんとガールズトークをやってそのまま一緒に寝ようという話になった。
するとラファイルさんが愚痴り出したーー
「マリーナがいないと安眠できない」
ちょっラファイルさん!
お姉様の前でそういうこと言います!?
私が青くなる一方、プローシャさんの顔が、ちょっと鋭くなった。
「ラーファ……お前、マーニャを部屋に連れ込んでるのか?」
「いえっ、私がこの前うなされたことがあって、お側についてくださるだけで!
変なことは一切してません!」
なぜ私が言い訳しなきゃいけないんだ……
実はあれからずっと、私たちは一緒に眠っている。
活動するのはまだしんどくて、ラファイルさんの部屋のピアノを少し弾いたりはしつつも横になっている時間も多い。
ラファイルさんは相変わらず部屋に楽器を持ち込んだままで、少しは一緒に合わせたりもしながら、私が横になっている間もBGM役になってくれている。
そんなこんなで私はラファイルさんの部屋で生活している……
だがラファイルさんは毎日夜中まで練習していて、私は先に眠っているから、変な空気になることもない。
ただ、朝気付いたらいつも私のお腹にはラファイルさんの腕が巻きついていて、抱き枕にされている感が盛大にするのだが……
(ラファイルさんの名誉のために言うとダッチワイフ的意味合いは皆無である)
今までいつも眠りが浅かったのに、私といるとぐっすり眠れるらしい。
そう聞くと、ラファイルさんの快眠の役に立っていることだし、と私も自分の部屋に帰るとは言い出しにくかったのだ……
私も私で、ラファイルさんにひっつかれていると温かくて心地いいし、何よりファンやってる人が抱きしめて寝てくれるとか、あり得ないレベルの幸せを味わっているところなのだ。
そんな状況で自分の部屋に帰りますとは、もったいなくてとても言えたものではなかった。
ラファイルさんはそそられないって言ってたから、そういう空気を気にしたこともなかった。
あれから顔まわりにライトなキスはときどきしてくるけど。
恋人扱いなのかどうかいまいちわからないのだが、親愛の念はあるということで、それはもちろん嬉しいし。
「だからそういう心配はいらないって、姉上」
「まあそういうんじゃないんなら咎め立てはしないが、だが褒められたものではないぞ。
スキャンダルを利用して揚げ足取りを狙う輩はいるからな。
けじめはきちんとつけておいたほうがいいし、今身を固めることができないのなら、過度な触れ合いはやめておけ、遠からずその先まで行くことになるぞ。
自分は大丈夫だと思っていても、魔が差すということは往々にしてあることだ。
そうなったとき不利になるのは大抵の場合、女側だからな。
マーニャもはっきり突っぱねられるタチじゃあるまい?
ラーファ、お前はそこまで分かってやってるのか?」
「「…………」」
「まったく、ラーファは女を知らないし、マーニャは男を知らないってわけか。
悪いことは言わない、今はそこで止めておけ。
深く関わるにつれ、衝突も出てくるだろう。
そのとき仕事に持ち込まずに、一緒にやれるか?
お前たちはまだ互いに何も分かっちゃいないよ。
マーニャは遠慮した結果今回の状態だろう?
もっと互いに心のうちをさらけ出してからだ、いろいろと。
マーニャは辛抱強いと思っているが、家庭でそれをやっても誰も幸せにはならん。
大体ラーファ、お前、マーニャに敬語を使わせてる時点で、相当余裕がないってことだぞ?
そのくせマーニャをものにしようだなんて10年早い!」
プローシャさんの鋭い声が飛んで、私は思わずビクッとしてしまった。
現役騎士、凄みがやばい。
圧が。
圧がちょっと。
なんかすみません。
ついそう思ってしまった。
ラファイルさんはというと……
気まずいのか図星なのか、落ち着かない様子でしきりに髪をいじり、あークソ、と悪態をついて席を立った。
「俺の変な話するなよ、姉上?
そういうのは……いずれ俺からマリーナに言うから……」
それだけいい置いて、部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ、世話のやける弟だ」
プローシャさんは厳しい顔を緩め、ラファイルさんの出て行った扉から私へと目を向けてきた。
「さっ、ここからは女同士、楽しむぞ」
ラファイルさんがハミにされてちょっと気の毒だが、でもあの人はとりあえず練習してくるだろう。
プローシャさんは、手土産に買ってきてくれたクッキーやクラッカーなどのお菓子を大皿に盛り、お茶の準備も整えて私の部屋へと運んだ。
今晩はこれからガールズトークの時間だ。
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