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46:謁見しました


なぜだか私たちは陛下にお茶をご馳走になり、歓談するという状況になっていた。


ラファイルさんはふっつーにーーさすがに言葉は丁寧だがーーお茶を飲んで笑顔でお話ししている。

私はラファイルさんと同じタイミングでお茶に口をつけるので精一杯である。

とりあえず今まで教わったマナーでいいのかな。てかそれしか知らないし。


何度かは、ラファイルさんに促されて、私は自ら両陛下のご質問にお答えした。

といっても音楽の話ばかりで、答えられることばかりだった。


両陛下とも音楽がお好きなのが、会話の中からなんとなくわかった。

そりゃあラファイルさん作曲のものをファーストダンスの曲として指定するくらいだもんねぇ。


だが陛下が、思いがけないことをおっしゃったのだ。


「先日の夜会では、きみは素晴らしい働きをしていたね、ラーファ」

「……お気づき、でしたか?」

「あれだけ楽器に囲まれていればね。

それにきみが金髪だったのもなんとなく察しがついたよ」

「……お恥ずかしゅうございます」

「安心したまえ、気づいたのは我々と、きみの多才ぶりを知るごく僅かな者だけだ。

結果として素晴らしい演奏になったのだから、きみの底力にはいつも驚嘆するばかりだな。

きみの姉上でさえ、気づいてはいなかったよ、

もっとも任務中によそ見もできなかっただろうがね」

「実はあの後、激しく拒否反応が体に出てしまって。

やはり、私は表舞台には立てそうにありませんね」

「おお、医師団からの報告を聞いている。

助手の女性が鎮めたということだが、それがマリーナ嬢だね?」

「左様でございます。

彼女がいなければ、私は危なかったでしょう」

「マリーナ嬢、ラーファは我が国の音楽界に欠かせない、大事な人材でね。

そのラーファを助けてくれたこと、大変立派な働きだよ。

きみの願いが何かあれば、褒美として聞き届けようと思い、こうしてラーファに連れてきてもらったわけなのだがね。

今回の、ラーファへの褒美と合わせても構わないかな?」


褒美。

なんですかそれ。

いやいやいや。

そんなことのためにやってません……!


「へ、陛下の、ご都合のよろしいように、お願い申し上げます」


そういうのが精一杯……


「ではラーファ、きみの願いは確かに受け取った。今後は二人とも、安心して過ごすとよい。

マリーナ嬢の人柄もよく分かった。

きみが側に置くのも納得したよ。

これ以上はマリーナ嬢も疲れてしまうだろう、下がってゆっくりするとよい。

また、遊びに来てくれたまえ」


「お心遣い、恐悦至極に存じます。

また予定通りに参上いたします」

「うん、よろしく頼んだよ」


ラファイルさんが立ち上がったので、私も立ち上がり、

ラファイルさんに合わせて頭を下げた。


国王ご夫妻は、部屋から退出なさったようで、

ラファイルさんがつついてくれて頭を上げた。


「戻るぞ」

「あ、はい」


***


ここへ来るとき、他言無用と言われてはいたが、

王室専用の廊下から一般用の区域に出る前、ラファイルさんは、王族エリアに立ち入ったことは極秘だと私に改めて念押しした。


その後王宮ではまったくそのことには触れず過ごし、

帰ってから、音楽室でなくラファイルさんの私室に呼ばれた。


ラファイルさんはほとんど常に音楽室にいるから、実は私室にお邪魔したのは初めてである。

使用人さんが整えてくれるから、きちんと整っている部屋だ。

それにこの部屋で寝ることも少ないんじゃないだろうか。



声をひそめるためなのだろうか、ラファイルさんは、私をソファーに案内し、私にくっつくように座ってきた。


そして、ラファイルさんから、

国王ご夫妻お抱えの演奏の仕事も持っていることと、

国王陛下と王子様の音楽教師でもあることを、聞いた。


王子様は偶然ラファイルさんとよく似た名前であることから、ラファイルさんにもよく懐いて、音楽の時間が大好きだそうだ。


ラファイルさんは各種リハーサルやご自身の作曲作業などで、事務室に長時間いないこともよくあるから、私もヴァシリーさんも気にしたことがなかったが、そのうちの何度かは今回のように王族エリアに赴いていたということだ。

これは楽団員の誰も知らない。

王族エリアに立ち入れる人しか知らないことで、立ち入る資格を持てるのは、王族警護担当の第一騎士団員及び王族専任の文官・侍者のみである。



つまりエドゥアルド殿は、王族エリアに入れない、格としてはラファイルさんに劣るということになる。

王族エリアは名実ともに敷居が高く、周辺を選任職員で固めており、だからこそそのポストには希少価値がつくのだ。



今回、ラファイルさんは、その立場を利用して、私の身分が王室の許可なく変えられないようにしてくださったのだった。

私は王室の許可なく雇ったりもできないし、結婚もできない。

貴族の身分にはならないけれど、かわりに貴族に準ずる身分を保障されることになった。

加えて、第二騎士団に、私への干渉を禁ずる通知を出してくださった。


なんともありがたい話だ。

すべてラファイルさんのおかげだ。


本当は、ラファイルさんと結婚となれば、身分は貴族になるし権利はラファイルさんとほぼ同等になるのだが、ラファイルさんが今すぐが難しいため、今回の形を手配してくださったのだ。


ラファイルさんも、なかなかに職権濫用している気がしないでもない……


うんでも結果良ければすべてよしということで。


「兄上が職権濫用したから俺も同様にしただけだ、しかも、正当にな。

俺の方が結果として上のつながりがあるだけだ。


兄上はほんとは第一騎士団を希望してるけど、あれで第一は無理だ。

人ひとり困らすような人格では、役不足なんだ。

だって兄上がそんな権限持ったら、陛下に許可を取り付けて、あんたを妻にするぜ?

そういった人間性も十分考慮して、王族の部署は厳選されてるんだ」


そういう機能があってほんとによかった。


そして、ラファイルさんの存在を感じさせることなく王室からお兄様の願望をとどめるというやり方はすごかった。

ラファイルさんは、あのお兄様のプライドを折らないように、王室エリアに出入りできることは実家のご家族にさえ秘密にしているそうだ。

知られると何かと厄介だからだそう。

利権とか主にそういうことで。


プローシャさんは騎士団にいる以上、配属先がどうしても知られてしまうので、なるべくご実家ともお兄様とも距離を置いている。


だがいずれは向き合わなければならなくなるかも、とは、二人とも感じているそうだ。

そしてお兄様だけの問題ではなく、お父様の問題でもある、らしく。


いわゆる保守的な頭の固い種類のお父様らしい。


だから、ラファイルさんとしても、結婚の話を実家にしにくくて、

行事も重なる今は、そちらに気を回すのが難しい、と言われた。



「……ごめんな。不甲斐なくて」


近距離でそんなことを言われると、それより脳内フィーバーである。

それに。


「いいんです。

分かりますから、私も。


……うちの父も、多分同じタイプですから。


すんなり賛成されるなんて、思っていませんし、急いでもいいことにはなりませんよ」


別に実家の反対を受けても、独立しているラファイルさんは結婚できはするのだが、

さすがに黙って結婚するのでは貴族としてはあまりよろしくないのだろう。

実家とごちゃごちゃするのも煩わしいことだし、とりあえずラファイルさんの仕事とやりたいこととがひと段落ついて、余裕ができるまでは、保留である。


それに19歳でまだそんな本気で考えなくてもいいと思うから。


「今は、ラファイルさんの一番やりたいこと、やりましょう?

私はお側についていますから、ラファイルさんが必要としてくださる限り」


「うん。

必要だからな。絶対にいろよ」


「はい、もちろん」


ラファイルさんに言われても、囲い込まれていると思わないから不思議だ。

だって私の方がついて行きたかったのだし。


音楽バカな私たちは、その後また夜が更けるまで、一緒に練習して過ごした。


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