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45:ラファイルさんについて行った先


数日後の王宮の出勤日、私はラファイルさんに呼ばれ、ラファイルさんの後をついていった。


初めて歩く回廊を進んでいる。


方向的に、なんとなく、これは王宮中央部に向かっているのかな、という気がした。



しばらく歩いて階段を上り、裏口っぽい扉の前に着くと、そこにはいかつい門番のような騎士さんが二人。

迫力があってこちらは縮こまってしまう……


ラファイルさんは随分慣れた様子で、胸ポケットからなにか鑑札のようなものを取り出して、騎士さんたちの前に掲げた。

騎士さんはそれを見ると、両端によけて、扉を開けてくれた。


「どうぞ、オストロフスキー殿。

こちらが貴殿の助手でいらっしゃいますか」

「左様でございます」


ラファイルさんがいつもより丁寧な言葉遣いだった。

ここは、どこ。



扉をくぐるとすぐに別の騎士さんに案内される。

入ってすぐの小さい部屋で、待機を命じられた。


しゃべるのも憚られて、ラファイルさんにここはどこなのか聞きたかったが、黙っていた。


少しすると、誰かが部屋に入ってきたーー


「おっ、マーニャ。ようやく連れてきてもらったか?」

「えっ、プローシャさん?」


現れたのは、何とお姉様のプローシャさんだった。

プローシャさんは、女性王族の警護を担当する第一騎士団、ということはーー


「すまん、きみらには必要ないのは分かっているが、規則でな。

身体検査をさせてもらう」


プローシャさんは、私とラファイルさんの服の上から手を当てて、テレビでよく見るような身体検査をした。

隣にもう一人男性騎士さんがいて、その様子はきちんと確認されている。


「よし、入館を許可する」


プローシャさんは、私たちに向かって微笑んでくれた。


「入館有資格者一名、入館許可済希望者一名、異常なし、入館を許可した」

「はっ!」


うわぁプローシャさんかっこよすぎる。

ってラファイルさん、入館有資格者……?


なんとなくこの場がどういうところか検討がついて、質問の一つも私語をしてはいけない気がして、いろいろ聞きたくなったが黙ってラファイルさんの後に続いた。


あまりキョロキョロしないように心がけたが、視界に入ってくる廊下の感じは、一際洗練されていて、高級感が漂っている。


巡回の騎士さんも何人もいるし、入館時のセキュリティーチェックの感じからして……


「あっ、らーふぁ!」


突然子どもの声がして、びっくりしてしまった。

廊下の曲がり角から現れたのは、つやつやでさらさらの美しい金髪の、そして極上の美形の男の子。

ラファイルさんは、このお子さんに対して一礼すると身をかがめ、視線を合わせた。私も合わせて一礼した。


「きょうは、ピアノのひ?」

「ラファエル殿下。ピアノは、もう少し後ですよ。

ばあやはどちらですか?」


ラファエル殿下。


え。

待って。


殿下、って……


でラファイルさん、面識あり……?


すぐに、曲がり角の向こうから中年くらいだが実に上品な女性が急足でやってきた。


「まあまあ殿下、本当におみ足がお速くて。

おやオストロフスキー先生、ごきげんよう」

「ご機嫌麗しゅう、ヤネンコヴァ夫人」


ラファイルさんやっぱりいつもより丁寧だ。

それがすごくスマートな印象で、これはかなりカッコいい。

というか普段がぶっきらぼうで、結構なギャップである。

それもそれでいいんだけど。ギャップ萌えだわ。


「さあ殿下、先生はお父さまとお母さまに御用事でいらっしゃいますからね。

お部屋で遊びましょうね」

「らーふぁ、このひとだれ」

「私の仕事をお手伝いしてくれるひとですよ。マリーナ、という名前です」

「まりーなも、ピアノをひくの」

「ええ、上手にひきますよ。

お父さまとお母さまが許してくださったら、いっしょにあそびましょうね」

「えへへ」


やばいここに天使がいます。


殿下ってつまり、王子様だ。


なんでラファイルさん知り合いなんですか……


私は今見たものが信じられなくて、思考停止中である。


ちらっと王子様が私に視線を向けたので、とりあえず笑顔だけは頑張った。


王子様、はにかんで笑ってくれた、かわいい……!


「さあ殿下、先生は御用事ですから、さよならいたしましょう」

「さよなら、らーふぁ」

「失礼いたします、殿下。ヤネンコヴァ夫人」

「失礼いたしますわ、オストロフスキー先生、マリーナさん」


ひぃなぜか私まで名前を呼ばれてしまった。

必死でラファイルさんの後ろで頭を下げた。



王子様を見送って、ラファイルさんは再び廊下を進んだ。

多分この先は。


ラファイルさんがある一室の前で、警備の騎士さんと言葉を交わし、

こちらでお待ちをと言われ、部屋に案内された。


大きくはなかったが、まるで超高級ホテルのラウンジみたいである、行ったことないけど。


ラファイルさんに促されて、一緒にソファーに腰掛けたが、落ち着かない。


大丈夫、とラファイルさんが囁くように言ってくださったのだが。


ラファイルさんは何も気負っていないようだ。



少し待って、奥にあった扉が開いて、案内の方が姿を見せた。


「どうぞ、オストロフスキー先生。

そちらがお連れの方ですか」

「恐れ入ります。ええ、彼女がそうです」

「どうぞ」


ラファイルさんは、臆する様子もなくさっさと入っていく。

急いで……はダメな気がして、できるだけ静かに、だが必死にラファイルさんの背を追って部屋に入った。


***


「オストロフスキー先生。そちらにかけたまえ。

助手の方も一緒に」


男性の声がして、そしてラファイルさんが、一緒に来るよう手で合図してくださり、

私はラファイルさんの隣に促されるまま腰を下ろした。


怖くて視線が上げられない。


多分、目の前にいらっしゃるのはーー


「助手の方は、名前を何と言ったかな」

「マリーナ・オーヤと申す者です」

「マリーナ殿。そう、硬くならずともよろしい、顔を上げられよ」


恐る恐る視線を上げると、超絶美男美女が穏やかに微笑んで、こちらを見ている……


「マリーナ。

ムィズカンスク国王・王后両陛下でいらっしゃる、ご挨拶を」


「は……え、と、……

お、オストロフスキー先生の助手を務めさせていただいております、マリーナ・オーヤと申します。あの、お、お目にかかれて、大変光栄でございます」


噛んだ。めっちゃ噛んだ。きっとダメだ。でも思考も口も回らなかった。


「そんなに緊張なさらないでくださいな、マリーナさん」

「申し訳、ございませんっ」


おおお王妃様。できたら話しかけないでいただけたほうが平和です……

返事もどうしたらいいのか分からない。


というかなぜ私が国王ご夫妻にお目通りさせていただいているんでしょうか。

理解が追いついていません。


「陛下、マリーナには急なことで、失礼ながら謁見のための作法も教えておりませんでしたので、私が代わりにお答えしてようございますか?」

「構わぬよ、それに今は私的な場だ、作法など気にせず普段通りに話してくれてよいぞ、ラーファ」


陛下にラーファって呼ばれるラファイルさんて一体……!


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