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43:貧相なのが気になります

再開です。


パレードと夜会の後一週間、私はラファイルさんから休暇を言い渡された。

確かにあの一日で私は消耗しきっていて、仕事がとてもではないが無理なくらい、疲れていた。


もともと王宮の方は向こう一週間、事務所を休室としており、実際私が休んだのは学校の仕事だけだったが。

学校も、国の行事であるパレード翌日は振替休日だった。


ラファイルさんは翌日は楽器の片付けに追われ、その後はいつも通り練習で音楽室に閉じこもっていた。

私はこの日は練習もできず、自室のベッドでほぼ一日横になっていたのだが、夜に一度ラファイルさんが部屋をのぞいてくださった。

ゆっくり休むように言って、頬に触れてくれる。

ごく自然にそうしてくれるから、前より、距離は縮まっているように感じた。


ラファイルさんの蕁麻疹も、家に戻って日常の練習ができているためか、引いてきている。

明後日の学校の仕事までにはそれほど目立たなくなるだろう。


「おやすみ、マリーナ」

「おやすみなさい、ラファイルさん」


ラファイルさんが出て行った後、私はまたベッドに横になり、ぼんやり考えていた。


ラファイルさんは、私のことを変わらず、マリーナと呼ぶ。


だから私もラファイルさんと呼んでいる。


ラファイルさんは仕事の上で上司に当たるし、私は使用人の体でいたため、敬語で接しており、ラファイルさんがタメ口でいいと言ってくださってからそうすることに決めている。


とはいえタメ口でいいというヴァシリーさんにもノンナさんにも、まだ敬語は取れないのだが……


だが結婚というワードまで出てきているのに、呼び方が変わらないのは、何か意味でもあるんだろうか。

……いや、貴族って、妻でも夫に対して敬語なイメージだわそういえば。

多分深い意味はないと思う。

でもいつかは、家でだけでもラーファと呼べる間柄になりたい気持ちは、ある。


これまで通りでいいと思っているのは本当だが、片想い感は結構あって、関係性を進めたくなる自分もいる。


でも、ラファイルさんの邪魔にだけは、ならないように。

私はそっと、自分本位な心を押さえ込んだ。


***


数日間おとなしく過ごしていたおかげで、週の後半はだいぶ元気を取り戻してきた。


なんだか練習が久しぶりのような気がする。

ラファイルさんは多分ずっと練習していたのだろうが、それがプロの強さというものなのだろうか。

ご自身をひ弱と評するが、だが音楽のプロは実は結構体力勝負なところがあると思っている。


訓練しなければ3時間もぶっ続けで楽器など演奏できない。

筋トレと同様に、地道に楽器用の筋肉を鍛えていかなければ腕や指やらがバテてしまう。


ラファイルさんは、演奏用の体力と筋力はかなり鍛えてあると思う。


体つきは……細っこかったけどねぇ。



ひどい痒みのためと内からの衝動とで、脳のストッパーが外れたラファイルさんは、シャツも下着も破いてしまったと後で聞いた。

まぁ男の人が上半身裸を見られたからといって、なんということもないのだろうけど……


ラファイルさんの胸板は言っては悪いが薄いし、本当に、痩せ型だ。

お兄様と正反対で、血が繋がっているのが不思議なほど。

お兄様は本職騎士だから、そりゃあ体つきはよかった、夜会でほんのちょっと見ただけだけど。

ちなみにドゥナエフ氏も体格はいい。だからこそモテるんだろう。


だがラファイルさんが、体格を気にしているとは、私は思いもよらなかった。


…………

…………


私も体力をつけなきゃと思って、元気になった週末、私はプローシャさんにいただいた剣を腰に下げて、少し庭を歩き、注意しながら素振りをしていた。

素振りは何回かプローシャさんに見ていただいて、合格をもらっている。


普段はインドアだけど、たまには体を動かすのもいいし、

それに護身用としても上達させたいのだ。


ドラムでスティックを思い切り振り下ろすのと、感覚が似てるかも。


ドラムを叩く時、実はスティックはかなり緩く握っている。

体を動かすから、激しいとか速い曲の後は疲れるけど、握りは緩くてスティックのあそび部分を確保している。


体の使い方って、結構何にでも共通してる気がする。


初めて剣を持った時よりは慣れてきて、「操る」感覚をちょっとだけ掴めたような気はしている。

最初は剣に振り回されるかと思って怖かったほどだったから、少しでも自分に主導権が感じられるのは、楽しかった。



「マリーナ……何やってんの?」


ラファイルさんの声がして、振り返った。


今日は学校と王宮両方の仕事の日だが、王宮の方は今週いっぱい休みなので、昼間に帰ってきたのだ。


「おかえりなさい。

ご覧の通り、剣の訓練です!」

「ガチでやってたんだ」

「プローシャさん直伝ですよ、ちょっと慣れてきたところです」

「姉上みたいに筋肉バカはやめてくれよ?俺が惨めになるから」

「惨め?って何ですか?」

「あー……いや、そのさ。

俺貧相だから」

「それが何か……」

「だって女はたくましいのが好きっていうだろ」

「人それぞれじゃないですか?私は別に……」


私はマッチョをかっこいいと思う人ではあるが、別にマッチョに抱かれたいだとかそんな願望はないし、ラファイルさんについては何一つ気にしていない。

というか第一に音楽バカの私は、ラファイルさんの音が何よりの好物なのだから。


「……もしかして、気になさってるんですか?ラファイルさん」

「いやっ、別に?全然」


ラファイルさんは、ふいっと顔を逸らしてしまった。


これは、気にしてるのかな?

この人は結構、素直じゃないから。

ていうか何で体つきをラファイルさんが気にするのだ。脱ぐわけじゃあるまいし。

それ言ったら私だって結構な貧相なんですが。


「……兄上も姉上もたくましいのに……

俺ほんとに似てねぇんだよ。せめてもうちょっと上背があれば……」


「私は何も気にならないんですけど、問題でも……?」

「別にあんたに問題がなきゃ問題はない。

でも気になるんだよ……分かっちゃいるんだけど……」


おや気になると今言いましたね。


「私だって貧相だから、ラファイルさんを満足させられないかもしれませんよ?」


ちょっと意地悪を言ってみた。

貧相というのは、私のお胸の話である。

こういう話は今までしたことがなかったから、どういう反応をするのかもちょっと知りたかったのだ。


「はっ!?別に興味ねーし!

俺そういうのそそられないから貧相とか気にするな!?」


いや慌ててませんか。

興味ない……ことはないでしょう、10代男子でそれはないでしょう。


「すみませんでした、こういう話題はやめますね」


さっさとこの話題は打ち切る。

そっち方面を期待されていると思われたくない。

煩悩が邪魔して音楽の妨げになってもだめだ。


「別に……何だってあんたの方が余裕なんだよ俺立場ねーじゃねーか……」


ラファイルさんは、ぶつぶつ言いながら去っていってしまった。


すみません。

動揺させちゃったかも。

でもなんか、気にするなって言ってくれたのは嬉しかった。

こればかりは上達……がんばっても発達するものでもないから。


それにやっぱりというべきか、こちらはまぁ基本谷間のハッキリできる豊かな方ばかりなのである。

全員というわけではないけれど。

私はそれにはどうにも勝ち目はないのだ。

しかも国柄なのか、みなさん結構見せますよね……

この前の夜会でも、ドレスはもちろんそうなっているが、演奏側だって女性団員さんの多くが当たり前のように谷間の見える演奏用衣装を着ていた。

谷間ができるに至らない私はそりゃあもう、どうしようと思いますよ。


ラファイルさんそそられないってほんとかな……いやでも、んー。そんな男ってあり得るのか。


自分で振った話題でちょっともやもやしてしまった。

しかしこういうことも、相手がどう思っているのか気になるわけです……

難しいなぁ、こういう確かめ合い……


…………

…………


だが後日、私がサブ練習室で一人で練習していたとき、ラファイルさんがいきなりやってきて、すごいことを言い出したのだったーー


「あんたさ、二人きりで男と寝たことはないって、前言ったよな」

「……ないですけど……」


はい。

ないです。


「よかった。ならいい」


ラファイルさんはそれだけ聞いて、去っていった。


ええぇー何その質問は!

何でそんなこと聞きにきたんですか!

しかも用件それだけ!!


ドギマギして、私はこの日それ以上練習にならなかった……


あれだわ思い付いたことポンポン言ってみる人だったわこの人……



しかしこういう話題が出始めるというのは、いずれそういう……に行く方向と考えていいんだろうか。

距離が縮まっていると捉えていいのか。


そういう意識をし出してしまって、私はなんだか落ち着いて生活できなくなってしまった。


いやいやまだ彼氏でさえないのに。


そうやって自分を戒めるものの、ラファイルさんの声かけひとつひとつが嬉しくて、頭の中はフィーバー状態である。今まで通り、には私の方ができていない。

ラファイルさんの邪魔になってもいけないので、こちらから声をかけるのは再び用件のみに自粛した。


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