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3:黒髪の青年は不機嫌なようです


……痛ったいっ……!!


私の意識は急に覚醒した。


何か人の話し声が聞こえるが、よく聞き取れない。


「おっ、気づいたようじゃな。やっぱり注射は痛かったか」


何とか目が開いた、その先には、柔和な顔の老人が。


今注射って言ったこの人……?


何をされたんだろうか。


不安に思ったそのとき、左腕に違和感を覚えた。


老人から目線を少しずらすと、老人よりもっと近いところに、黒髪の青年が。


確か、あの音楽室に入ってきた人だ。


で、その人が、私の左腕をがっちりベッドに押さえつけている。


その左腕が痛いから、今注射を打たれているのだ。


「お嬢ちゃん、心配はいらん、栄養剤を打っとるだけじゃよ。

何日も食事をしていなかったようだったのでな」


老人の穏やかな声に、私は少しだけ安堵した。

この人は、お医者さんかな。


「よし……もういいぞ、針を抜くから。

ラーファ、腕を離してやってくれ」


青年が私の腕を離した。

無言で。


また訳がわからない事態になっているが、多分この青年があの部屋の所有者だろう。

倒れたから看病してくれたのだろうか。

まぁあそこで死なれても困るから、誰でもとりあえず医者は呼ぶだろう。


無言だから、多分彼は怒っているのだ。

こんな厄介者を抱え込んでしまって、と、


申し訳ない気持ちになるが、今はとにかく動けないし、ものを考えることも上手くできない。


大事な楽器を勝手に弾かれて、腹が立たないわけがないもの、

素人の私だって分かる。

あとで精一杯お詫びはして、……いや、謝るだけは今でも。


「……すみません、でした……」

「ん?いやいや、病気ではない、心配はいらんよ」


私の目線の先にいたのは老医師の方だったので、自分に向けられたと思ったのだろう。

……すみません私はこっちの彼に謝りたかった。


だが顔を動かすのも、ままならない。


「数日は消化のしやすいものを食べさせてやるようにな。

変わったことがあったら、また呼んでくれたらいい」


老医師が片付けを終えて、立ち上がる。


「ありがとうございました、先生」


青年も立ち上がって、医師を送るため、部屋から出て行った。


…………

…………


「とりあえず回復が先だ。後で話してもらう」


青年は私の枕元に戻ってくるなり、そう告げた。


「はい……」


「簡単なものを持って来させるから、いいときに食べるといい」


「すみません……ご迷惑を……」


「全くだ。まぁ警備隊に突き出すようなことはしないからひとまず安心しろ」


胸を突かれたような気分になった。

それはそうだ、迷惑に決まっている。

だがこんなにはっきり迷惑と言われると、事実なのだが、辛い。


しかも彼は、かなりぶっきらぼうな話し方だ。


こういう男性は、私は苦手だ。


私は基本ビビリで、キツい話し方をする人が全般苦手なのだ。

男性の方が怖さを増すから、優しい男性でないと打ち解けられない。

そういう男性と話さなければいけないことも、仕事が苦痛な理由の一つだ。


……ん?


……あれ?


警備隊、って言った……?


警察、じゃない……?


なんだろう、近現代から一気に、中世から近世のような印象になった。


まだ意識がはっきりしきらなくて、青年の方を見ることもできない。


どんな服装なんだろう、と思ったのだが。


「名前くらいは聞いておこう」


「……大矢、満里那、です……」


「オーヤ・マリナ……

名はマリナか?」


「ああ、はい……」


そうか、西洋文化圏なら、そういう疑問が出るよね。


そういえば私、日本語で普通に会話できてる。


相手の言うことは、言葉は違うのに、意味は分かるという、


あーこれって異世界あるあるかなぁ。


異世界召喚とかは漫画で馴染みがあるし、なんなら自分でも現実逃避のために、主人公が別世界に行った物語を書いたことがある、中学生の頃。


そんな空想でしかない出来事がまさか自分の身に起こるなんてまだ夢としか思えないんだけど。


「俺はラファイルという。


ラファイル・スヴャトスラヴォヴィチ・……」


待って。

ちょ待って。


ラファイルの部分しか分からなかった。


ミドルネームが長すぎてえげつない。覚えられなかった。でもってファミリーネームは完全に右から左へ聞き流してしまった。


「用があれば……そうだな、うちのものによくなるまでは側についていてもらうから、彼女に頼むといい。

とりあえずジュースをここに置いてるから。

また、様子を見に来る」


「あ、あの……」


お礼を言う前に、青年はさっさと部屋を出て行ってしまった。


ご家族の方が来てくださるのかな。

こんな得体の知れない女がいて、どう思われるんだろう。

ほんとに、申し訳ない、ここにいるのは私のせいではない……と思うけれど、でも手間をかけさせてしまうのは事実で。


それにしても、ベッドはふかふかだし、広い。


……え、これ、天蓋ってやつ?


ひょっとしてかなり豪華なベッド……?


あれだけ楽器もあったし、セレブのお宅なんだろうか、うん、どう考えてもセレブだ。


夢だ。

目が覚めたらきっと病院か家だ、これは。


戻りたい訳じゃないけど、夢なら早く醒めたほうがいろいろとがっかりしなくて済むと思う。


早く寝て目覚めてしまおう……


部屋は昼間なのか明るかったのだが、私は必死で眠りにつこうと、布団を頭からかぶって目を閉じた。


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