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34:あなたの成果ですから


ひと月も経つと、かなり冷え込むようになってきていた。

ここは私のいたところより寒いらしい、寒がりの私にはちょっとつらい。

真冬がどうなるのか今から不安だ。


だがこの日は、早朝こそ冷え込んだものの、すっきりとした秋晴れの天気で、昼間は気温も上がりそうだ。


まさにパレード日和である。


ラファイルさんと私は今日は王宮へ朝から行き、パレードの最終リハーサルを行う。

いつも朝ゆっくりな団員さんたちが、なんだか気だるそうにホールへ集まってきている。

職業柄、ほとんどの人が夜型なのだ。


そんな中ヴァシリーさんだけはいつものテンションである。

この人は基本常に元気だし、王宮も学校も朝からの仕事だから、いつもと変わらないだけなのだが。


「はいーみんなテンション上げてこー!そんな寝ぼけ眼でどーすんの!

ドゥナエフ君、黄色い声援いっぱいもぎとってきてよ、みんなそれで多分目が覚めるからね!頼んだよ〜きみなら楽勝っしょ!」


そう笑ってドゥナエフ氏の背中をバンバン叩いている。


あれだなみんなイラッとして目が覚めるんだわ。


ドゥナエフ氏はといえばまんざらでもない顔をしている。

そんなにモテて嬉しいものなのか。

モテ男の気持ちはわかんない。



そこへ騎士団ドラム隊のみなさんが到着した。


騎士の正装で、本番さながらの雰囲気である、

おおぉカッコいい!

ちょっと目がキラキラしたかもしれない。


ドゥナエフ氏の指揮でみなさんが隊列を組み、さわりを演奏する。


ラファイルさんは端でじっとその様子を見守るだけだ。


リハーサルはもう十分しているから、直すところは既に直してある。


ラファイルさんが特に指摘することもなく、リハーサルは終了となった。


みなさんもだいぶ目が覚めてきたようだ。


…………

…………


スタンバイ時間が迫り、団員のみなさんは、楽器を持って移動を始めた。


カッコいいなぁ……!


「じゃあ行ってくるねー」

「頑張ってください!」

「見守ってっからねー」


ラファイルさんと私、ヴァシリーさんを残してみなさんは出て行った。


それを見届けて、ラファイルさんはさっさと事務室に戻っていく。私たちも後に続いた。


「俺は夜会組のリハまで練習室にいる。

それまで自由にしてていいぞ」

「ラーファ、やっぱり今年も見に行かないの?」

「俺の役目は済んだ、必要ない」

「そーか……ま、仕方ないね。

ノーナがパレード本番に合わせて来るはずだから、そしたらマーニャちゃん一緒に見に行こ?」

「あ、はい。ありがとうございます」


ラファイルさんは早々と練習室に行ってしまった。


ヴァシリーさんは、その背中を見送ってため息をつく。


「ラーファってば、こういうときほんとコンプレックスの塊になるよねぇ」

「コンプレックス、なんですか?」

「うん、だって注目を浴びるみんなを見れないってことだからね。

あいつだってほんとは、正当に人前に出て評価されたいんだと思うよ。髪の色さえなければね」

「やっぱり……そうですよね」

「え、やっぱりって?

あいつマーニャちゃんに何か言ってた?」

「言ったというか、私には、楽しいから見てくればいいっておっしゃって……

でもラファイルさんは全然楽しそうじゃなくて、目を背けたいように感じて。

それって、ご自分が表に出れなくて悔しいからじゃないかな、て思ったんです。

私も、ラファイルさんとは比べ物にならないですけど、友達がうまいバンドに誘われて注目を浴びてるの、素直に見れませんでしたもん、

ラファイルさんのなさってることからしたら、そりゃあ見ない方がご本人のためかな、と思って」

「そっかぁ……

そーだよね。オレはもともとが落ちこぼれ評価だったし、自分でもクラシックはできないって諦めてたから、人の見ても気にしようがなかったけど……

ラーファは、ずっとそうやって、実力と関係ないところで負けてきたんだもんな……」

「楽団の音は、それでもラファイルさんの作品なんだから、誇りに思っていいと思うんですけどね。

でも私なんかが偉そうに言えることじゃないですね」

「それ、ラーファに言ってあげなよ」

「あ、分かりました、またそのうち」

「今言うんだよ、マーニャちゃん言いたいこと言わずにそのままにするでしょ?」

「うわぁ今は無理です!練習の邪魔になりますから!」


「おはよー、何騒いでんのー?」


ちょうどノンナさんがやってきた。パレードを見るために、リハーサルより前に来たのだ。

ノンナさんは、私とヴァシリーさんの話の概要を聞くとーー


「じゃあダメ元でラーファに出て来るよう言ってみる?

あたしがヘルプしたげるからさ」


…………

…………


「……だから俺はいいって」

「ラーファ、そうやっていっつも目を背けてるけど、楽団の音はラーファの作品なんだよ。

本番を見届けてこそ役目が終わるんだし、この音を自分が作ってるって、もっと誇ればいいんだよ?」

「…………」

「ってマーニャちゃんが言ってた」


ちょっそこで私出しますか!?


だがラファイルさんは、ちょっと意外なように私の方を見てきた。


「楽団への賞賛は、そのままラファイルさんへの賞賛でしょう?名前こそ言われなくても。

プロでもない私が言っても説得力はないですけど、これはラファイルさんが作り上げたものだって、私は知ってます。

それが国の真ん中で流れるんですよ、そんなすごいこと、ラファイルさんだからできるんじゃないですか。

その、見なきゃいけないとは思ってないですけど、もっと堂々となさってればと思って……

すみません差し出た真似を」


上手くは言えなかったし、最後の方は尻すぼみになってしまったが、夢中で言い切った。


ラファイルさんはまた顔を背けたが、ややあって、ピアノから立ち上がった。


「……マリーナがそこまで言うなら、ちょっとだけ」


「「……ぉぉ!」」

後ろでヴァシリーさんとノンナさんが感嘆の声を上げた。


「すごい人混みだから、ちゃんとマーニャちゃんエスコートしてあげてね、ラーファ」

「そのくらいわかってる」


ラファイルさんは、エスコートのため、私に腕を貸してくれた。

エスコートについて、習いはしたが実践はもちろん初めてだ。

緊張と、ファンである人を前にしたせいで、ドキドキしながらその腕を取る。


「あんたに、俺のやり遂げたことを見てもらうんなら……悪くない、かもな」

「……光栄です。見せてくださるなんて」


いつもはラファイルさんは学校でも王宮でも私の前をさっさと歩き、私は一生懸命についていくのだが、

今は私の歩調に合わせてくださっている。

やっぱり、この人は本質的に優しいんだ。

すごく、嬉しいひとときだった。


***


王宮周辺はものすごい人混みで、王都中の人が集まっている感じがする。

見える場所を確保したときには、広場での演奏は既に始まっていた。


貴族にはゆったり見られる特別席が設られているのだが、ちょっと見るつもりだけのラファイルさんは、一般の人に混じって見るという。

ノンナさんもヴァシリーさんも、貴賓席には行かず、私たちの近くで見ることにしたようだ。


王宮のバルコニーには国王陛下と王后陛下がいらっしゃって、上からパフォーマンスをご覧になっているところだ。

初めて国王ご夫妻のお顔を拝見したが、見事な美男美女でいらっしゃった。


ノンナさんから、国王陛下がラファイルさんの音楽を気に入っておられて、何かと重宝してくれると聞いたことがある。

どこまでもすごいわ、この人は。


「ママ、あの人たちかっこいいねぇ!僕も大きくなったら楽団に入る!」

「そうねぇ、入れるといいわねぇ」

「曲かっこいい!」

「作った人はすごいわね」


近くでそんなやりとりが聞こえて、ラファイルさんがちらっと私の方を見てきた。

よかったですね、という思いを込めて、微笑み返した。


パフォーマンスが終わりを迎え、国王ご夫妻の準備が整い次第、パレードが開始される。

パレード開始を待っている間にも、沿道の人の数はさらに増えてきた。


「はぐれるといけないから」

そう言ってラファイルさんは、その腕をとっていた私の手に、指を絡ませて握ってきた。


うわぁぁ。


完全に、手繋いじゃってます……!


嬉しいよ、嬉しい。

ものすごい嬉しい。


でもそんなつもりなのかどうかが分からない……!

ラファイルさん恋人繋ぎとか知ってるのかな……?

知らない可能性もありそうな……


知っててやっているか知らずにやっているかでかなり意味は変わってくるのだがその辺どうなんだろう。

ていうかいいんですかこの神の手を私なんかに。


改めて感じるけど、身長差がそこまでないのに、手は大きくて、包まれてる感じがする。

これは降参してしまいそうだ。

好きになっちゃって、いいかな、もう?


私は一人脳内で、理性と煩悩の間で揺れていた。というかかなり煩悩が勝っていた。


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