21:ラーファ支部のみなさん
既に音楽室では、王立楽団の団員さんたちによる音出しと練習が始まっていた。
うわぁぁプロたちの音だ。
腰が引けてしまう。
バイオリンにチェロ、フルート、トランペット……
いろんな楽器の人が来ているようだ。
「来週からあんたにも来てもらうから、一足先に俺と同類の奴らにあんたを紹介しとこうと思って、声かけたんだ。あんたの話はみんな知ってるから心配するな」
えっ、私のため?
「ちょっとは顔知っといた方があんたも仕事しやすいだろ。ほら王宮とか怖いって言うからさ」
何とほんとに私のために集めてくださったらしい。
なんかすいません。
ラファイルさんは颯爽と音楽室の扉を開けて入っていく。
うぁぁ心の準備が……!
「おーいマリーナ」
入室をためらっていると、ラファイルさんが戻ってきて、いきなり私の手を引いた。
えぇうわぁぁ人前!ちょっ人前でそれはその気がなくてもマズイよ!
「俺の助手のマリーナだ。人見知りだからあんまり刺激するなよ」
「す、すみません、助手をさせていただいておりますマリーナと申します」
人見知りと言ってくれたのはありがたい。
緊張しすぎて言葉少なに最低限の挨拶をするのが精一杯だ。
「来週から来るんだよねー。ようこそ王立楽団、ラーファ支部へ!」
「よろしくねマリーナさん」
「ラーファが連れてきたんなら間違いないな。よろしく頼むよ」
「マリーナさんも音楽バカだってラーファが言ってたけどそうなの?せっかくだからなんかアンサンブルしよーぜ」
みなさんから温かい言葉をいただいて、私はホッとした。
よろしくお願いします!と必死に礼をして、改めて顔を上げてみれば。
なんとみなさん見事に美形・美人さんばかりではないか。
ラファイルさんが髪の色のことを言っていたからついそちらも意識してしまうが、みんな明るい暗いはあれど金髪だ。ウィッグの人、いるのかな?
いや私完全に浮いてるわ。
日本人顔にしてもパリコレモデルさんレベル(よく知らないけど)じゃないとこの場にいるのは無理がある。
全員で7人、うち女性が2人。
イケメンよりも美しい女性の方に目がいってしまった。そっちの趣味は全くないけど。
ストレートロングの、透き通ってキラキラしてそうな金髪の女性は、超絶かわいい。バイオリン担当。お名前は、ノンナさん。
もう一人はロングの金髪に緩くウェーブがかかっていて、超絶美しい。フルート担当。お名前はオレーシャさん。
美人なのにとても感じのいい方たちだ。
ラファイルさんが仲間と呼ぶ方たちだから、性格悪いはずはないと思う。
男性陣は、トランペットのマトヴェイさん、チェロのフリストフォルさん、ホルンのアラムさん、オーボエのジェニスさん。
そしてマーチングバンドの打楽器担当のエリクさんだ。
王立楽団は常勤非常勤含めて総勢100余名の大所帯なのだが、室内楽、コンサートなどを担当するクラシック部と、パレードや式典、野外イベントなど外での演奏を担当する吹奏部とがあるそうだ。
ラファイルさんは楽団の総監督だから、両方を受け持っている、忙しいはずだ。
今日はクラシック・吹奏両部から、ラーファ支部と呼ばれる(本人は否定した)ラファイルさんと個人的に親しい楽団員の方々が来てくれたのだ。
「ご挨拶に一曲やろーか。ラーファピアノでやってよ。オーリャ、あれやろ」
バイオリンのノンナさんがさっと楽器を構えて、あっという間に指示を出す。
オレーシャさんがフルートを構え、ラファイルさんはピアノに座った。
3人の目配せで、曲が始まる。室内楽というやつか。実は初めて聞いた。
曲自体はこっちの世界のものだから、当然初めて聴く。
なんというおしゃれ。
これは高級ホテルのラウンジに流れてるような音楽だ……!
高級ホテル行ったことないからイメージだけど。
クラシックって深く聴いたことがないから、新鮮だ。
ノンナさんのバイオリンはとても鮮やか。ご本人の周囲にラメ効果が見える気がする。
プロだなぁ。当たり前だけどすごいわ。
オレーシャさんのフルートもとても澄んで美しい。音の存在感と安定感ハンパない……!
そしてラファイルさんのピアノ。
毎日聴いてるのに、毎日感動する。
今初めて、他の楽器とのアンサンブルを聴いているから、いつもと違った感動がある。
ラファイルさんは本当に、音色を使い分けることができていると感じる。
リード楽器があるから裏方に徹していて、土台がしっかりしているというか。
私と一緒にしているときは、私は自分の演奏でいっぱいいっぱいで、聴くように心がけはするがなかなかラファイルさんの音を拾えない。
今ようやく、アンサンブルでラファイルさんがどう振る舞っているのか、観察することができている。
聴き惚れているうちに曲が終わった。
贅沢な時間だった。
みんなで拍手を送る。
なんとこれはラファイルさんが作曲したのだった。
なんというか、きめ細かい装飾品のように繊細だ。
神だ神。
細かいフレーズも多用しているのに難しく聞こえず、とても耳あたりがいい。
しかしそれを涼しい顔でやってのけるノンナさんとオレーシャさんも大概だ。
もう、大変な耳の保養をさせていただきました。
***
軽く雑談をしたが、おしゃべりよりもみんなすぐに楽器を触りたがるあたり、確かにラファイルさんと同類だなという感じがした。
ラファイルさんがおもむろに楽譜をみなさんに配り始める。
おや、それは先日私がラファイルさんに言われて譜面に起こした曲だ。
ラファイルさんと初めて一緒に合わせて感動して泣いたやつだ。
あのときはイントロの2コードを繰り返しただけだったが、その後曲全体と、メロディーも加えて譜面にした。
「今日はこれをやる。マリーナとやってみせるから感じを掴むように」
はいぃ!?
プロ集団の前でやれと……?
なんの晒し者ですか私。
ラファイルさんはギターを持ってきて、ピアノの横に椅子を持ってきて座り、もう準備を完了した。
「ほらマリーナ、いつも通りだ。俺の音だけ聞け」
「は、はい」
そうは言われても怖いよぅ。
プロたちがガン見してる前で平常心でいられるアマチュアがどれだけいるんだっての。
地元のジャズフェスのステージとは訳が違うんだよぅ。
ラファイルさんがあっさりカウントを取るので、ガチガチになりながら音を入れた。
メロディーと和音とベースラインを私が一手に引き受けてはいるのだが、曲自体はそれほど難しくない。
普段はもうちょっと遊べるのだが今は緊張して無理だ、とにかく必死にラファイルさんの音を追った。
それでも弾いていると、ラファイルさんの音が包み込んでくれるような気がして、安心感に包まれてくる。
だんだん緊張が解け、体がいつもの調子を思い出してくれる。
曲が進むにつれて、装飾的な和音を追加できるようにもなった。
終わる頃になって、ようやくまともなアンサンブルっぽくなった。
それでも弾き終えたときには、気が張り詰めていたせいで手が震え出した。
だが、
「マーニャちゃんよかったよー。めっちゃいい曲だね!
メロディー以外、この譜面と全然違うことしてる。即興なの?すごいじゃん」
なぜかノンナさんがすごく褒めてくださった。
そしてやっぱりマーニャになるらしい。
「即興ができるならお稽古事とは訳が違うな、さすがラーファの助手だね」
いやいやいやだからアマチュアですって。
プロのみなさんに褒められて大変恐縮である。
「じゃ、このメロディーはオーリャ。
ここからのメロディーはラッパで。
バイオリンとチェロはまだ作ってないけどいい感じに。ホルンは、後ろで流れてる感じに入れてくれるといいな。
エリはマリーナにドラムパートを教わってくれ。太鼓は使わずシンバルのみだから」
ラファイルさんがテキパキ指示を出す。
なんですかそのアバウトな感じ。丸投げじゃないですか。
そして私がドラムパートをプロに教えるってどういうこと……!
「よろしくね、マリーナさん。ラーファに聞いたけどドラムいけるんだって?
ラーファが助手にするだけあるね。この曲でどんな音が欲しいのか教えて」
「すいませんほんと私プロじゃないので図々しいんですが」
素人に教わるなんてとんでもないだろうと思うが、ドラムのエリさん(日本人感覚だと女性名に聞こえてしまうがエリクの呼び名として普通らしい)ことエリクさんは嫌な顔一つせずに私の話を聞いてくれた。
この人も、ラファイルさんと同様、素人だからどうというより新しい音楽に興味が強いようで、
シンバルでビートを刻むという初めての体験に目がキラキラしていた。
エリクさんはマーチングドラムのトップで、ストロークは速いのも複雑なのも、それはもう素晴らしいものを持っていらっしゃった。
だがこの世界になかったライドシンバルを私とラファイルさんが初めて導入したのだ、種類にも使い方にも当然驚いていた。
そしてやはり普段はきっちり決まったことを演奏するから、「こんな感じで」と投げられドラム譜がないのは初めてだった。
それを新鮮で面白いと喜んでくださって、そして私の知るドラムのことについてもいろいろと話がはずんだ。そしてあっという間に、私のして欲しいことを伝えると飲み込んでくださった。
もうプロってほんとパないわ。
ラファイルさんにいつもそう思わされているので、もはやいちいち驚くよりも、そうやって流すことをすっかり覚えてしまった私だった。
推敲中に気付いたんですが、オーケストラと吹奏楽って吹き方違うんだろうか……?
両立できるんでしょうか。すみません作者はどちらも経験ないため、奏法の違いがあるのか知らないのです。
ちなみに吹奏からジャズに転向するときっと必ず「ジャズの吹き方」に直されます。




