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20:音楽バカの生き様


学校の方もしばらくはビクビクしてしまったが、頑張って行った。

ラファイルさんが元学部長に抗議してくださった上、現学部長(ラファイルさんの元指導教官だった)にも報告し、今後私に影響がないように計らってくださったのだ。


思い返せば、元いたところではジャズもクラシック要素が強いものもあるし、芸術的価値も高い。

下町のバーでやるようなものからコンサートホールでやるようなものまで幅広いのだ。

ジャズピアニストが、クラシックのピアノ協奏曲をやってるのだって聴いたことがある。アドリブになってたけど。

でもCDになってるってことは、クラシック側だって楽譜通りでない演奏を認めてるってことだよね。

昔はクラシックの演奏会で、同じ曲でも即興演奏もあったとか。


それに現代クラシックは結構複雑な和音を使ってて、なんかもうクラシックだジャズだ分けて考えることに意味があるとは思えない。

どっちも凄いし美しいんだから。

素人考えかもしれないけど、聴衆の多くは音楽のプロではないんだし。



そんなことをラファイルさんに話しているうちに、私は少しあの元学部長に対抗意識が出てきたのだ。

聖なるなんとかってセリフがもう胡散臭いと勢い余って言ったところ、ラファイルさんには大ウケした。

正統なとか伝統とか言って異質なものを受け入れない人はたくさんいるだろうし、それは仕方がないけど、それに阻まれて萎縮する必要はなく、堂々と演ればいい。

私は演奏技術もないしアレだけど、ラファイルさんなら遠からず私の伝えたジャズを芸術に昇華してくれると思う。

ヴァシリーさんみたいな、クラシックがどうにもダメっていう演奏家の居場所になれる可能性は十分にあるし、そうなればこの世界におけるジャズの意味合いはとても重要なものになる。

個性の強い学生さんはほかにもいて、ラファイルさんは既に本気でジャズ・ロック科の創設を視野に入れているそうだ。


ただ、今ある制度にヅカヅカ入っていくのもそれはそれで図々しすぎるというか厚顔な感じになってしまっても嫌なので、プライベートレッスンでそういうことをすればいいんじゃないかな、という提案もした。

私は既存のものに真っ向から対抗するのが苦手だから……

それに重要なのは、学んだ後だ。

いくら芸術に仕立て上げても、他人に受け入れられなければそれで生活はできないのだ。

仕事を持ちながら音楽活動をするというインディーズみたいなこともなくはないが、素晴らしい技術はそれなりの評価や対価を得られるようになってほしい。


ジャズやロックの始まりは大衆音楽だから、草の根から始めるのが近道かなぁ。


若者の反抗エネルギーだったロックだって、時代を経れば、国王の住まう宮殿で演奏することだってできるようになるんだから。


私の世界であったそんな話に、ラファイルさんはとても感動してくれた。


「いいさ、ならここでもそういう歴史を作ろう、俺たちで。

あんたの話には、いつも未来がある。

楽しみだな」


「はい。やりましょう、私でもできることなら、なんでも力になります」


とつられて力強く頷いたものの。


……あれ?


サラッと「俺たちで」て言いましたよね?

貴方と誰の話!?

いや貴方のサポートはしますけど私が一端を担えるようなレベルのもんじゃないでしょ!


この人は私のレベルを忘れてるんじゃなかろうか……


ラファイルさんの力になるというのは本当にするつもりだが、顔は若干引きつったかもしれない。


「新しいことに抵抗勢力は付き物だ。阻まれてもやり続ける、それだけだ。

最悪この家でいくらでもできるんだ、文句言われようが構うもんか。

それが音楽バカの生き様だぜ」


うん、ほんとにそうだ。

絶対、こうした音楽を求めてる人もいるはずだ。

音楽は聖なるもののためだけじゃない。


ラファイルさんは、この世界の音楽界の頂点にいるような人なのに、こういう考えができるのがすごくカッコいい。

しかも、だからといってクラシックを捨てるのではなく、クラシックにも変わらず真摯に向き合って大切にしている。

この人こそ聖人だよと私はあの元学部長に心の中でぶつけてやった。


***


週末、屋敷に荷物が届いた。


中身はシンバルが一枚。


リズムビート用のライドシンバルだ。


まだ試作段階なので、使ってみて具合を教えてほしいと職人さんから言われたのだが、


そんなことより新しいシンバルにすっかりテンションが上がってしまい、ラファイルさんと二人ではしゃぎながら叩きまくった。


確かにスティックの音が残り、私の知っているライドっぽい音に近付いていていい感じだったので、テンションはさらにダダ上がりである。

それを聞いて、ラファイルさんも私の欲しい音がなんとなく分かってきたようで、改良にはどこをどうすればいいか、とシンバルを何度もひっくり返しては考えていた。


その日は二人して文字通りの一日中、ライドシンバルを叩いて過ごしたのだった。


シンバルスタンドやハイハット、タム類ができるにはまだまだ時間がかかりそうだが、

週明けから忙しくなってしまうラファイルさんにはちょうどよかったようである。

というのも、下手に早く揃うと仕事そっちのけで没頭しそうだから、だという。


うんそうだね。そうなりそう。

この人は徹夜で叩き続けそうだ。

納品は、パレードが済み年末のコンサートが終わってからにしてもらうことにした。

でもライドシンバルだけはどうにも練習に必要だからそのまま使うことにする。


この日も夜中まで個人練習と合わせるのを繰り返しながら練習し、ひと休みと思って控え室のソファーにもたれていたところ、またも私は寝落ちしてしまったのだった。


…………

…………


なんか、ガヤガヤする……


人の声?


あれ?私また控え室で寝てた……?


前と同じく、ソファーに横になっていて、ちゃんと毛布がかけられていた。


ラファイルさんは?


体を起こすと、隣のソファーにラファイルさんが寝ていた跡らしき毛布が無造作に置いてあった。


それに、隣の広い音楽室に、人が何人もいるような話し声がする。


えっ?

人?

お客さん?


ヤバい。めっちゃ寝起き。

部屋に戻ってシャワーして着替えてきたいけど出て行けない感じだよねこれ。


ていうか何で人がいるんだろう?ラファイルさんが呼ぶ以外ないよね?


そんなことを思って動けないでいると、扉の前でラファイルさんの声がした。


「ちょっと、先に音出ししててくれな」

「ラーファそっちの部屋に荷物置かせてくれよ」

「今ダメだ、ちょっと片付け。待ってて」


ラファイルさんが素早くこちらに入ってきて、扉を閉めて即座に鍵をかけた。

何事かとびっくりしている私に近づいて、小声で言ってきた、


「悪い、楽団の仲間を呼んでたのに寝過ごして起こせなかった。

そっちの部屋から出て、身支度整えてきてくれ」

「えぇぇ、はい」

「朝飯食ってきたらいいから。俺も準備してくる」


楽団の仲間ですと?なんでですか……聞いてないよ?


ラファイルさんにぐいぐい押されて私は広い音楽室と反対方向へ脱出した。

訳がわからないまま急いで自室に戻り、シャワーをして着替え、言われた通りに朝ごはんをいただきに行った。


うんあれはマズイよね、控え室でラファイルさんが女子と寝てたって状況は。

何にもなくても何かあったと誤解される。

てか知ってたら早く切り上げてちゃんと部屋で寝たのにー。言っといてよー。


お仲間がいるのならと、メイクもしっかりした。

とはいってもメイク技術に大して興味もない私は、頑張ってもナチュラルメイク程度にしかできない。

つくづく一般女子力の低さを感じる、が、一方でこれでいいとも思っている。

女子力より断然音楽にテンション上がるし、カッコいい方が好きだから。


元が別に可愛くないから寄ってくる男などそうそういないが、

それでも背伸びして女子っぽくした結果寄ってきた男の人って、音楽バカの本性が露呈したら引くと思う。男は友達くらいが一番楽しくていい。

友達なら、無理して可愛くとか考えなくていいし。


朝ごはんの席で、また練習中にラファイルさんと寝落ちしていたことを、メイドさんたちに呆れられてしまった。

でも、怒られたりはしなかった。

「若いっていいわねぇ」

と言われ、温かく見守ってくれているような。

うん、練習しまくって寝落ち、ちょっと籐は立ってるけど青春ぽくてなんかいい。


ラファイルさんも後からやってきて手短にごはんを済ませ、再び音楽室へと向かったのだった。


>国王の住まう宮殿で演奏することだってできる

元ネタは、英国のエリザベス女王即位50周年記念で開催されたロックコンサート。英国出身アーティストを中心に、国内外から名だたるアーティストたちが勢揃い。宮殿の屋根にて英国国歌がギターで奏でられ、ライブ会場のほか宮殿内でアーティストが演奏して中継する場面も。

確か放送見て感動してCD買ったなぁ( ´∀`)

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