表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/110

1:楽器に囲まれています


広ーい窓から薄日が差し込んでいて、部屋の様子はよく見える。


体を起こしたものの、驚きすぎて立つのも忘れていた。



……え、と。


立派なグランドピアノだ。


しかも、胴が長いタイプの。

コンサートグランドピアノとまではいかないかもしれないが、一般家庭に置いてあるものよりは上のクラスのピアノだ。


それに大太鼓、小太鼓。シンバルまである。両手で持って鳴らすやつ。


ドラムセットじゃないからクラシック用かな。


ティンパニもある!


部屋の壁際には、クラシックかアコースティックギターがスタンドにーー木製のスタンドだーー何本も立てかけてあるし、

なんだかバカでかい棚のような家具があると思えば、ガラス張りの開き戸の向こうには、バイオリンからコントラバスまで、いい楽器だとしたら(なんとなくだがいい楽器なんだろう)全部で何千万とか何億とかいくんじゃないかという弦楽器が収納されている。


ーーこ、これ、宝物庫じゃん!


すっかり興奮してしまって、今度は倒れていたことも忘れて立ち上がり、楽器たちの間をゆっくり観察して回った。



久しぶりだ、こんなに気持ちが高ぶるのは。


もう長いこと、こんなワクワクする気持ちを忘れていた気がする。


そうだった、私は、音楽がこんなに好きだったんだ。


楽器を見ればこんなにも興奮してしまうのは、小さい頃からそうだった。


残念ながらその情熱に見合った才能は持ち合わせておらず、趣味でずっと音楽に親しんできただけだが。


ああ、弾きたい。


ここの楽器たちを弾き倒したい。


勝手に人様の楽器を触ったらダメだけど。



……てか、そうだ。


ここは。



本当に今更なのだが、自分が倒れていたところを振り返っても、肩にかけていたはずのカバンがなかったのに気づいた。


パンツスーツ姿の、着の身着のまま。


……どうしよう。これ。


何でカバンがないんだろう。

財布もスマホも全部カバンの中だ。


どうしよう。


どうすればいいのか全く、分からなかった。


ここはどこ。


とりあえず、部屋の様子を見て、部屋から出てみようか。


誰か人がいたらどうしよう。


助けてもらいたいというより、見知らぬ人に助けてくださいなんて言うのがためらわれる。

いい人かどうかもわからないし。


人に話しかけるというのが、私はかなり嫌いだ。


だから仕事も毎日が苦痛だ。


接客や営業よりはマシだろうが、会社の人たちにでも話しかけるのはいまだに緊張する。


でもとにかく、状況だけ確認してみよう。

ここにずっといるわけにもいかないのだし。



楽器のことはちょっと置いておいて、部屋の様子を見て回った。


とにかく天井が高い。2階、いや3階分はあろうかという高さで、窓も上の方まであって、掃除をどうしているんだろうとどうでもいいことを考えてしまった。


ピアノの向こうに、大きな扉がある。


そっと開けてみようとするがーー



開かない。


ーーええー……?


何でー?


ノブを回すとガチャガチャいうから、多分外から鍵がかかっている。


しかも、この内側には鍵らしきものがない。


閉じ込め状態って……


誰かが来るまで出れないじゃん。


派手に部屋の中で喚いて助けを呼ぶのもなんだかためらわれた。


外を人の通るような音が全くしないのだ。


でも楽器があるし、埃をかぶっていないから、定期的にここに来る人はいると思う。


でも、見つけられたとしても、侵入者と思われたら嫌だな。


どう言い訳というか、事情説明しよう……



状況はまだうまく飲み込めていないし、冷静に判断できている気がしない。



窓の方へ行ってみる。


外は、中庭だろうか。


特に植木も何もない芝生を挟んで向こう側に、3階っぽい建物が見える。


明らかにヨーロッパ系の建物だ。


しかも、かなり豪華な部類の。


ほんとここ、なんなの?


そもそも、日本?じゃないとか?いやどう見ても日本じゃないよね。


そして、はたとある推論に至った、


……異世界。タイムトラベル。



いやいやいやいや。


なんでやねん!


関西出身でもないのにそんなツッコミが思わず脳内で繰り広げられる。


だがとにかく、今いた場所とは違うところにいる、それだけは事実だった。


夢の中かもしれないけれど、夢を見ている間というのは夢の世界が現実だと認識している、


嫌な夢だったとき、夢から醒めてほっとしたことが何度もある。


早く、醒めればいい……



……いや。


これ、会社行かなくてよくない?


そのことに思わず嬉しくなってしまったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ