新婚旅行編 11
ふと気づくと、薄暗い部屋にいて、ベッドに寝ていた。
ーーああ、帰ってきたんだっけ。ラファイルさんは……
サロンの終了後、緊張やらテンションが上がったのやら国王陛下からお言葉を頂いたやらで、キャパオーバー状態になって倒れたのを思い出した。
誰か(多分ラファイルさんと、こちらの御者さん)二人がかりに肩を貸してもらって、ふらふらなんとか歩いて馬車に乗ったあたりまではぼんやり覚えている。
その先は、多分意識が途切れたか、眠ってしまったんだと思う。
ドレスも、部屋着に替えられていた。
そろそろと体を起こしてみる。
疲労感が結構あるが、起きることはできた。
ラファイルさんは……
階下から楽器の音がしてこないから、練習はしていないのだろう、と思ったら、寝息が聞こえ、寝室のソファーにラファイルさんが寝ていた。
なんで?
私はベッドから降りて、夫のそばに寄った。
あーこれ、深い眠りに入ってそう。起こしても起きないやつ。
あいにくこちらの屋敷には、寝室にピアノがなく、音で起こそうというのができない。
でも、ソファーで寝てもらうのも悪いので、ものは試しにと起こしてみる。
「ラーファ。ラーファシュカ」
「ん……」
おや、思いの外覚醒早い?
どことなく寝苦しそうな……
「ラーファシュカ。ね、ベッドで寝よう」
「……マルーシャ……」
呼ばれたが、ラファイルさんはまだ目覚めてはいないような。
寝言ですか。
「……マルーセニカ」
「いますよ、ここに。……起きて、ラーファシュカ」
ラファイルさんがどうにも寝苦しそうになったので、揺り動かして手を握った。
「……あ」
「ラーファシュカ」
「マルーセニカ……大丈夫か」
やっと覚醒したラファイルさんが、いきなり起き上がり、私を抱きしめてソファーに座らせた。
「ごめん、マルーセニカ、無理をさせた。こんなことになるなんて思ってなかった……」
「えっと……
なにが、ラーファシュカ?」
「目が覚めて、よかった」
えっと今何の心配をされているんでしょうか。
よくわからないまま、ラファイルさんに抱きしめられていた。
「医者はただの気疲れだって言ってたけど、どこか変なところはないか?」
「う、うん、まだちょっとだるいだけ……てかどうしたの?別にあなたが謝ることなんて」
「いや……陛下があんたをあそこまで気にいるとは予想してなかったんだよ。
ほんとに演奏済んだらすぐ引き下がるつもりだったのに、俺が余計なこと言ったから」
「ううん、ラーファシュカ、ちゃんと私を守ってくれてたよ?……それで安心しちゃって、気が緩んだんだと思う。やーほんと、生まれながらの貴族なら大丈夫だっただろうけどね、私ああいう場、多分得意にはなれないわ」
「……よかった、行ってしまわなくて」
「え、どこに行くって?」
「……王女の教育係、って言われただろ。なんかそのせいか、さっきあんたが王宮に勤めに行くって言い出す夢見たんだよ……すげー焦った……」
寝苦しそうだったのはそのせいか。
「何でよ、私がラーファシュカから離れるわけないでしょ。ほんとに、あなたのいないところで生きたくないから、私」
「……本来なら、公爵夫人クラスの名誉職だぜ」
「私がそんなの興味ないって知ってるでしょ」
「……まぁ、それは……」
「あんな緊張するところ、絶対無理だってば、多分毎回倒れる。
ていうかほんと、どんな名誉職より、あなたの助手がいいから」
ラファイルさんは私のそんな言葉が嬉しかったようだ。
私にすりすりしながら、ぼそっとつぶやいた、
「来年もって、陛下に申し上げちまったな……失敗した……」
「え、なんで?演奏なら別に」
「またスカウトされたらかなわん。もうマルーセニカを外には出したくない」
「ちょっと何言ってんの」
「ほんと、そんな勢いだよ、俺だけが見れたらいいし俺だけしか見て欲しくない」
わー。
これはあれ、軟禁?したい系ですか。
いやまぁ音楽さえ自由にできるなら、私は家から出ないのは結構大丈夫だけど。てか仕事に行けませんやん。
ラファイルさんは私を抱きしめたまま、離そうとしない。
「でもさぁ、ほかの音だっていろいろ聴いて、それでラーファの音聞いて、やっぱラーファの音がいい!ってなるのがいいんだけどなぁ」
「……そう?」
「だって絶対そこには行き着くよ。私は何よりラーファの音が何より好きだもん」
ラファイルさんがまたすりすりしてきた。やっぱりかわいい。
「ラーファシュカ」
私の方を見てきた夫に、軽くキスをした。
私からいくのは結構珍しいことだが、私を守ってくれたこの人に、精一杯の気持ちを伝えたくて。
ラファイルさんが私の顔周りを固定して、更にキスを続けてきた。
この人はほとんど表面だけでキスをする人だけど、その仕方が最初に比べてだんだんエロくなってきている。やばい痴女が発現して襲いたくなりそう。
ラファイルさんが唇を離して、また抱きしめてくる。
あれ、これ以上行かない感じ?
「あっちで寝よう?ていうか何でベッドじゃないの?」
「いや……」
あ。なんか言いにくそうなパターン。
「続き、してもいいよ」
あ。目つき一瞬変わった。期待しましたね今。
続きというのは本番前の補充の続きである。
「いや、それは、あんた疲れてんだし、今日はやめといたほうがいい。
無理はするな」
「別に、大丈夫だけど……」
「……結婚前あんたのこと襲わずに済んでたのが信じらんねぇ……」
ぼそっとそんなことを言っている。
何度か危なくなったけど。
「一度覚えちゃったら、そんなもんじゃない?
でも私も、盛り上がらないように気をつけてたからね」
「そうなの?」
「そりゃそうだよ。我慢してたんだよ、私だって修道女じゃあるまいし、好きな人に触れられたらその先に行きたくもなるよ」
「……そうなのか……
…………
あークソ、悶々として損した」
「えっ?」
「だからあんた反応悪いからさ、俺もその先ためらってたんだよ、あんたが音楽で慕ってくれるのは疑ってなかったけど、男としてはどうかってさ、自信は……あんまなかった」
「えー……好きだってちゃんと言ったよね私?
だってしょうがないじゃん、婚前はまずいよ。デビューも控えてたし」
「そうだけどさ……
…………
まあいい、これからやればいいだけだしな」
「そうだね。もう堂々とできる」
手を握り合って体を寄せ合うが、ラファイルさんはまた私から離れた。
「……でもほんとに今日は休んだ方がいい。俺は、こっちで寝るから」
「そんな心配しなくても……」
「いやマジで、そっちで寝たら多分やっちゃうから」
「だから、いいって」
一体私たちは何の押し問答をしているんだ。じれったくなって、夫の膝の上にまたがってやった。
「じゃあ私もこっちで寝るよ。心配は……してくれてありがと。
でもほんと、大丈夫だから」
「ちょ、マルーセニカ」
ラファイルさん、軽く動揺。
でも理性とは裏腹にその気なのは、見れば分かるよ。
夫の首に腕を回して、唇を触れ合わせると、ちゃんと応えてくれる。
何回かそうして、ラファイルさんは私の唇を更に捕まえようとしてくる。
合間に漏れる互いの吐息が聴こえて、体の内側が熱くなりそうな。
「……マルーセニカ、ベッドに……」
「うん」
私たちはベッドに上がって、存分に愛し合った。
本当のところ、私は疲れていたけれど、ラファイルさんに全て委ねてされるがままになっているのが至福だった。
夢中になる中でも私が大丈夫か気にしてくれる夫に、更にねだってしまった私はもう痴女確定である。
知らなかったわ自分がこんなだなんて。夫にしか発動しないけど。
「マルーセニカ、かわいい」
夫が私の耳元で囁くのを、その晩何度もきいた。
翌日、思った以上に疲れがどっときて、ほぼ一日ベッドから出られなかったが、後悔はしていない。
次回で新婚旅行編ラストとなります。イチャイチャは今回が最後。




