第9話 そしてドワーフに暮れる。
『人は見かけに依らない』
長く生きていれば、よく聞く言葉である。
だが、悲しいかな人は見掛けで判断し、また実際見掛け
通りな事も余多有る。
歳を重ねると心根は自ずと顔に出てしまう。
それはまるで年輪の様に・・・
ドワーフと云う種族は人間の寿命を遥かに越えて存在
する種族である。
長寿で有名なエルフには及ばない物の、それでも遥かに
永い時をこのドワーフの夫妻は共に越えて来たはずだ。
妻のルビラさんは、作業小屋の脇に有る休憩所の様な所
に人好きする笑顔でお茶の準備をしていた。
夫のボルグさんはと言うと、初めて会った時はこれぞ
ドワーフと言った長く豊かな髭に鋭い眼光で、まさに
頑固職人の呈を為していたのだが、今や鋭い眼光は消え
嬉しくて堪らないのだろうか?目尻は下がり、ドスの利
いた低い声もしなくなり、正に優しいお爺ちゃん?
好好爺な様相を呈して俺と戯れていた。
「ほ〜ら高い高〜い」
そして今、俺は何故か?カナディアンバックブリーカー
からハイジャックバックブリーカーの連続技の餌食に
なっていた。
アンタあれか?前世は『モルモンの暗殺者』だろ?
助けてパパン!ってアンタ何処を見ている!
息子の腰が危険でピンチなんだぞ!
ガチで『使えねぇブロディだなおいっ!!』
お茶の準備が整った所でやっと俺は解放された。
もう、疲れたよママン。
「そんで、オイゲン今日はどんな得物が欲しいんだ?」
ボルグさんは職人モードに復帰した。
パパンとボルグさんは仕事モードで専門的な難しい話を
している。
そんな2人を余所に、俺はルビラさんの膝に抱かれて
お菓子を頂いている。
「孫が出来たらこんなに幸せなのかねぇ?」
ルビラさんの口から思わず出た一言だった。
太陽が傾いてきたので、パパンと俺は家に帰る事にした
「また来いよ(来てね)」
2人にもみくちゃにされさがら、お土産のクッキーも
沢山貰えた。
でも、アンタら普通にプロレス技かけるやん?
マーシャは俺ほど頑丈じゃ無いからもう少し体が大きく
なったらかな?
「お父さんの新しいナイフって、いつ出来るの?」
今日の目的の成果をパパンに尋ねる。
「う〜ん?どうかな?材料が少し特殊だから入り次第
やってくれるそうだけどね?」
「特殊な材料ってな〜に?」
「ドラゴンの糞だよ」
・・・・・ドラゴンの糞?・・ドラゴン?・・燃えよ?
パパン!この世界にはドラゴンがいるの?
コモドじゃなくて、中日じゃないドラゴンがいるの?
この世界、翔んでもねぇ位ファンタジーが過ぎない?
「お父さんはドラゴンを見たことあるの?」
「ハハハッ!ドラゴン自体は見たこと無いけど、足跡は
見たことあるぞ!」
・・俺はヅッコケルのを必死に我慢した。
え?足跡だけでそんなに胸張れるの?
だが、次の言葉でそれは戦慄に変わる。
「ドラゴンに破壊された都市の調査に行ったからね」
ドラゴン、前世の世界では想像の世界の動物であり
そして、最強の代名詞、破壊の象徴、力の権化
俺は守り切れるか?そんな存在から妹を?大切な家族を
俺の命と引き換え程度のレートなら安いモンだろう。
でも、壊滅的なダメージを受けた後の世界で誰が妹を
守る?
俺は妹を守りたい、なんて温い目的なんかじゃない。
守り切りたいのだ、孫に囲まれた穏やかな老後まで。
おおよそ、人が望める幸せを手にして欲しいのだ。
俺の体が強張り、震えているのを勘違いしたパパンが
「大丈夫!お父さんがドラゴンなんてやっつけるからね」
等と意味不明な供述を始めた。
『いや、アンタは使えないブロディだよ』
今日の事でパパン株は大暴落の世界恐慌だ。
さぁ、パパンにドラゴンよりも恐ろしい今、此処に有る
危機を思い出して貰おう。
「お父さん、早く帰ろう?お母さんがご飯を作って
待っているだろうからさ」
パパンは俺を肩に担ぐと「マクート掴まれ!」と告げ
走り出した。
尚、未公認ではあるが前世の陸上短距離の世界記録は
余裕で越えてたと思う。
『そんなにママンの料理がイヤかよ、解るけど』