第8話 結局ドワーフ
この家で自我を得てから3年の月日が流れている。
父親はオイゲン元騎士団・団長、現在は猟師。
『見た目はブロディ』である。
母親はエレノア アルスター公爵家令嬢 現在は猟師の妻
である。
何故、この組み合わせが夫婦に為れたのか?
まだ、この世界の事など何一つ知らない俺には想像しか
出来ないが、それでもこの組み合わせが夫婦に為るには
余程のイレギュラーな事が有ったのだろう。
しかし、そんな俺から見ても2人の夫婦仲は良好だ。
理想の夫婦を2人は体現していた。
そんな夫婦の子供に為れて俺とマーシャは幸せ者だ。
たとえ、血の繋がらない親子だとしても・・・
それでも、俺達親子は確かな愛情で確かに結ばれている
きっと、この世界でも血の繋がりが有っても争う家族は
存在するのだろう。
だけど俺は断言出来る、この家族は絶対に争わない。
どのような危機が訪れても確かな愛情と言う絆で乗り越
えて行ける。
そう、ママンのメシマズと言う今、此処に有る危機も
俺達親子の絆で乗り越え・・・られませんでした。
いや、ママン?
あんた何でただの白湯で此処までの事が出来るん?
俺の舌が『毒物判定飲むな危険』と、警鐘を
鳴らしているんですけど?
お湯を沸かしただけで、毒物生成ってアンタ何処から
この呪いを拾って来たんだい?
パパン、アンタ!スゲェよ!良く今まで生きて来れたな!!
心の底から尊敬するぜ。
マーシャに至っては湯気を浴びただけで気絶したぜ!
俺は理解した、今日の此処に至るまで俺達の命はパパン
が体を張って守ってくれていた事を、だからパパン!
俺の分迄飲んでくれ!
パパンはハイライトの消えた瞳で飲み干した。
パパン、アンタの骨は俺が必ず拾ってやるぜ。
『命懸けお茶』を乗り越えて俺とパパンはお出かけだ。
隣に住むドワーフのボルグさんに新しいナイフを拵えて
貰う為に。
我が家の敷地を抜けて、街道に続く小路を歩く俺の右手
には草原と云うには小さく、原っぱと云うにはかなり
広い空き地が広がり、その奥でラッケ・スワーニュと
呼ばれる湖が太陽の光をキラキラと反射していた。
左手には森が広がり木々の向こうには十数メートルの
小さな岩山が有った。
程無く街道に出て、左に曲がり岩山を回り込む形でまた
左に曲がる、こちらの小路は両方木々が立ち並びまるで
森の中にいるような感じだ。
どんどん小路を進んで行くと、不意に森が開け湖が見え
て来た。
湖の畔には、小さな小屋が煙突から煙を勢い良く吐き
出していた。
前世の日本なら苦情間違い無しの量である。
その小屋の手前に大きな家が建っていた。
大きな家の手前には広いテラスが有り、ソコで洗濯物を
小柄な女性が干していた。
「ルビラさんこんにちは!」
パパンは大声でルビラと呼ぶ女性に挨拶する。
「あら、オイゲンじゃないかいいらっしゃい!おや?」
ルビラさんは洗濯物を干し終えるとエプロンで手を拭き
ながらこちらにやって来た。
ファンタジーな世界が舞台なら、小説やゲーム等では必
ず出て来るエルフと並ぶ代表的種族ドワーフ。
その設定通りに小さな体躯に逞しく太い手足である。
しかし、俺の知っているドワーフは女性でも髭が生えて
いるのだが?目の前の女性のドワーフには髭は無かった
灰色の豊かなクセの有る髪に小さな顔に大きな茶色の瞳
一言で云うなら、愛嬌の有る可愛いおばちゃんである。
そんな可愛いおばちゃんの瞳が俺を見つめていた。
「はじめまして、マクートと言います」
俺は元気良く彼女に挨拶をした。
途端に彼女は笑顔になり、俺を抱きしめた。
「オイゲン、この子何処で拾って来たんだい?」
ルビラさんは真っ直ぐ危険球を全力で投げてきた。
しかし、パパンも動じない。
「ヤだなぁルビラさんマクートは家の子ですよ」
「ほら、目元と口元はエレノアにそっくりでしょ?」
ルビラさんは俺の顔をまじまじと見つめて
「そう言えばそうだね、アンタにゃ似てないね」
と、最高の笑顔でまた俺を抱きしめた。
えぇっと、ルビラさん、アンタ前世は人間発電所だろ?
でなきゃ、こんな強烈なベアハッグ出来ないもん。
ほら?口から俺の魂が・・俺は慌ててタップした。
「ゴメンねぇ、アンタみたいに可愛い子供を見たのは
久しぶりだったからねぇ」
ルビラさんは謝罪しながら俺に頬擦りしている。
短い手足で抱きしめればそれは危険な殺人技に昇華する
事を学び、今は所謂お姫様抱っこで有る。
「ルビラさん、僕歩けるよ」
遠回しに降ろしてくれと頼む。
「いんや!此処は危ないからね、アタシが抱っこして
やるから安心しな!」
パパンに何とかしてと、目で語りかける。
マクート、諦めて可愛がって貰えのサインがパパンから
送られる。
『使えないブロディだなおい!』
湖の畔に有る作業小屋はむせる様な熱気と、鉄を叩く
金属音に溢れていた、俺はルビラさんに抱かれながら
その作業を見つめていた。
鉄を叩くドワーフは此方の存在に気付くこと無く、ただ
無心に細心の注意を払い、大胆に鉄を打ち付けている。
真っ赤に熱した鉄を水の中に入れて冷却する、鉄に籠っ
た熱は逃場を求めて水蒸気を上げる。
やがて、作業は一段落したのかハンマーを脇に置き
俺達に振り返った。
「よう!オイゲン今日はどうした?」
その声は低く、えらくドスの利いた声だった。
(マーシャが居たら泣いてた泣いてたな・・)
それ程の声だった。
ボルグと呼ばれるドワーフは正にドワーフであった。
頭に巻いた布からはみ出た灰色の髪。
太い眉毛に、鋭い眼光、そして顔半分は髭に覆われて
口元は見えない。
「とにかく、此処では何だ、外で話そうか」
作業中は一切此方を見なかったのにまるで最初から
気付いていた振る舞いで有る。
パパンの後ろに隠れる様にいたせいか、ボルグさんから
は死角になって俺とルビラさんには気付かなかったの
だろう、ボルグさんは目を見開き大声で訪ねた。
「ルビラ、そのガキどっから拾って来たんだ!」
ドワーフって子供は拾って来る種族何だろうか?