第6話 それでも俺はやってやる。
「時は忍び足で訪れては去るらしい」
byオヤジの持ってた誰かのCD。
いつの間にか月日は流れ季節は赤ん坊には少々厳しい夏
がやって来た。
この頃になると、俺も妹も首がすわり俺はイナバウアー
からのコロリンパっ!!が出来る様に成っていた。
いや、ひっくり返って腹這いに成るだけなんだけどさ。
因みにマーシャはまだ出来ない。(フフゥ〜ン)
こんな所で小さくドヤる兄のマクート零歳児だ。
いいじゃん、どうせ後数年で背中も見えない位に、大き
く空けられて、将来は両親からもいない子扱いされる
可能性が有るんだもん。
パパンからはゴミを見るような目で見られ、ママンから
は存在しないモノ扱いされて、おしめすら替えてくれな
くなるかも知れない。
アカン、俺の人生終了迄、空飛ぶ戦艦が帰って来るより
も早く終了しそうだ。
乳歯すら生え揃わない乳幼児が外で生きて行くのは無理
だ、せめて孤児院の有る所に棄てて下さい。
そんな暗い未来を思い浮かべ、今にも泣きそうな顔でマ
マンを見つめていたら、優しく微笑みながら俺を抱きし
めてくれた。
「どうしたの?お兄ちゃん?イヤな夢でも見たの?」
「ママは此処に居ますからねぇ〜、心配しなくていい
のよ?」
俺の両脇を抱えて優しい眼差しで俺を見つめる女性は
溢れんばかりの母性で俺を抱きしめてくれる。
いや、その「お兄ちゃん」が問題なんですよママン。
母親は公爵家の長女、父親は騎士団の団長、妹は聖女。
俺だけただの「お兄ちゃん」って・・・・
格好付けて「妹は俺が守り抜く(キリッ)」ってさぁ
俺って、物凄く痛いヤツじゃん?
泣きたくなるよ?いや、ガチでさぁ。
人生って、知らない方が幸せな事って有るよね。
ママンの胸に顔を埋めて泣き出してしまいそうな気持ち
を必死に我慢する。
甘えたいのに上手に甘えられない、いつかイヤ明日にも
自分は棄てられてしまうのではないか?
そんな恐怖に囚われてただ、俺はママンの胸にしがみ
付く。
震える俺の背中を優しく抱き抱えながら
「あなたに言ってもまだ解らないでしょうけど」
そう、前置きママンは自分の昔話を俺に聞かせ始めた。
「ママはねぇ、昔死んでしまいたくなるような悲しい
事が有ってね、大好きな家族とも離されて生きて行か
なければ成らなくなったの」
突然のママンの衝撃的な独白に俺は驚いて顔をあげる。
「あら?あなたはもう言葉が判るのかしらね?」
彼女は笑って俺の頬をぷにぷに触って笑ってる。
「もう、何処か誰も知らない場所で魔物に食べられて
私はもう終わるんだって、思っていたのね」フフ
小さく笑って話を続ける。
「そんな事を考えていたらね、パパがね『もう人生を
諦めたのなら残りの人生俺にくれ』って言ってくれた
の」
「その後にもまた悲しい出来事がやって来たけどあの人
はどんな時も自分だって辛いのに私を支えてくれたの」
「そして、今はあなた達に出逢えたわ」
そう笑ってママンは頬擦りしてくる。
「ん〜すべすべして気持ちいい」
笑いながら、俺の頬に優しくキスをする。
「私はあなた達の本当のママじゃ無いけど、でもね?
どんなに嫌われても良いの、私にあなた達のママをやらせて?お願い」
ママンはトンデモ無い爆弾発言をしながら目尻に涙を
浮かべて泣き出しそうな瞳で俺を見つめていた。
「あぁぁうぅ」俺は小さな手のひらで、その涙を拭おう
と手を必死に伸ばす。
「フフッあなたは本当もう言葉を理解してるのかしら?」
そう呟き彼女は深く俺を抱きしめた。
それは言葉よりももっと深く、そしてこれ以上無い位
判りやすい形で俺達を愛していると伝えて来た。
色々と衝撃的過ぎる事実を伝えられてしまったがママン
の愛情は本物だ、そして多分パパンも・・だよね?
いつか全ての事実を打ち明けられる日が来るのだろう。
でも、そんな日が来なくても関係無い位の愛情で繋がっ
ていれば問題無い。
そうだ!!やってやる、聖女だろうが何だろうがマーシャ
は俺のたった1人の妹だ、俺達を生んだ女性は別人だろ
うが、ママンは彼女だ!他の誰でもない。
ついでにパパンもね。
何で俺には前世の記憶が有るのかは永遠に解らなくても
構わない。
この記憶が俺の現世の家族を守り続けるのに必要ならば
トコトン使い倒してやる!
やってやるさ。
俺はマーシャのそして家族の守護者(お兄ちゃん)に
なってみせる!
力んでしまったら、股関に生温かいモノが広がって来る
「あら?お兄ちゃんはおしめの交換かしら?」
「さぁ、キレイキレイにしましょうねえ」
笑いながら、ママンは俺のオムツを替え始めた。
それは、それはとても素晴らしい笑顔でしたともさ
えぇ、本当に。
「あぁぁうった!」
(一思いにやって来れ!)