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聖女の守護者(お兄ちゃん)  作者: 山石 土成
32/52

第32話 紅に豚





肌を刺す乾いた冷たい風が、大陸を貫く山々から吹き下

ろす。

その冷たい風に悠然と佇み、良く晴れた青空を見上げ

今日も穏やかに過ごせそうな予感に、頬を緩ませて息を

吐く。


最初の頃は全てが忌々しかった、己が3歳の餓鬼に敗れ

『禁断魔法のエスクレイグ』を己れの主に、仕掛けられ

自分が『森の賢者』が、3歳の餓鬼にも仕え無ければなら

なく成った事も、忌々しかった。

初めの頃は、如何にこの餓鬼を始末するか?そればかり

を考えていたが、何故か己れの知略を持って命令を科し

ながらも、餓鬼を始末出来ると北叟笑んでいたが全てを

見破られ、口にするのもおぞましいしっぺ返しが己れに

返ってくるだけで有った。


「デッチ」と新な名前と共に、餓鬼にこき使われ、既に

『森の賢者』の矜持は喪われつつ有った。

しかし、喪われたからこそ、見えて来る物もある。


己れはこの餓鬼のように御館様を笑わせる事など、した

事は1度も無かった、四聖の1つ玄武の従者として他の

四聖の従者に、後れを取らぬ様に研鑽はした。

そのお陰で魔法と森の知識は、従者一の実力を手に入れ

他の四聖に一目を置かれる程に成れた。

しかし、それだけで有った。

御館様はこんな己れを『友』と呼んでくれ、重宝されて

いるが、この餓鬼のように戯いも無い話で笑わせる等

己れの良知の外で有った。


四聖序列四位とは、人の領域の遥か外の存在であり

その力を巡り、人間同士の見るに堪えない争いもこの目

で見てきた、しかしこの餓鬼は事も有ろうか御館様に

向かって「使えない」等と、無礼千万な事を口にするが

裏を返せば、御館様を『友』としてしか見て無いので

有る、付け加えるならば『珍しい亀』程度の扱いだ。


己れはこの餓鬼のような事は出来ない、御館様は初め

から四聖玄武であり、己れは従者だ。

御館様を四聖以前の『個』で見ること等出来はしない。

あぁ!忌々しい!3歳の餓鬼に教えられる等とは!

あぁ!忌々しい!この状況を悪く無いと思う己れが!

あぁ!忌々しい!笑ってしまう己れが1番忌々しい!


あぁ、本当に穏やかな冬晴れの日である。

家の軒下に吊るされた干し柿を見て、1つに手を伸ばす

あの餓鬼に教わり、この事だけは感謝している。

冬に新な甘味が手に入ったのだ、今では己れの好物でも

あり、来年はもっと多く、沢山の干し柿を作ろう。

笑顔で干し柿を1つ頬張ると、不意に視線を感じて左を

見れば、壁越しに餓鬼の妹が此方を伺っていた、イヤ?

干し柿が欲しいのだろうか?1つを手に取り、妹に差し

出して見ると、恥じらいながらも笑顔で此方に来て

干し柿を受けとる、それで何処かへ行くと思いきや妹は

己れの膝にちょこんと座り、干し柿を食べ始めた。

己れは驚き、少女の頭を見つめると不意に振り向き

己れに笑顔を見せてきた。

驚きである、最初は己れを見れば泣いて隠れていたのに

今では笑顔を見せてくれるではないか!

己れの心に何とも言えない、暖かいものを感じる初めて

の事だが、悪く無い。

頬が緩むのが己れにも判る、しかし悪く無い。

本当に忌々しいものよな、人の笑顔とは此方まで笑って

しまうではないか。


あの餓鬼の下品なニヤケ面とは程遠いな同じ顔なのに。


少女は腹が膨れたら眠く成ったのか?微睡み始めた。

この様な所では体を壊すことは、己れにも判る子供とは

それ程、弱い者なのだあの餓鬼は例外だがな。

少女の父親の大男が、子供を探していたのだろう其奴に

子供を預け、己れは放った小鳥達の帰りを待つとしよう

あぁ、今日は何もない良い1日になりそうだ。

頬を緩め空を見上げる。



本当に忌々しい事に問題は夕暮れ近くにもたらされた。



「ぶえっくしゅん!!」

うおぉ、寒みぃぜぇ〜!くしゃみの1つも出るもんだ。

俺は帝国騎士ガイネストと戦った、クリスタルの部屋に

来ていた、勿論真夜中にで有る。

ガイネストの残した戦利品の品定めを、やってしまおう

と考えて、此処に来たわけだ。

勿論、部屋の主のターブランも一緒だ!

しかしそれは暫く延期に成った、魔物の出没情報で有る


(して、目撃した場所はどの辺りなのだ?)

「はっ、此処を中心とした北東方面、白鳥湖の嘴より

やや北側で御座います」

(近いな?)

「此処より先は森が拡がっており、また白鳥砦の方も

この寒さであまり調査は為されて下りませぬ」

寒いから、パトロールをサボっていたら厄介な問題が

発生した訳ね?

「砦に押し付ける事は出来るのか?」

厄介事は人に任せるに限る!

「出来ればそうしてぇですが、アイツらの目的は此処

ですぜぇ」

デッチは何故か俺と話す時は下町の遊び人?風味である

「それは確定情報なのか?」

「確定と言うより十中八九、此処でございっしょう」

「根拠は?」

「そいつは言えねぇ」

俺に出せない情報だが精度は高いのか?

ターブランも目を瞑り黙っている、まぁ人に言えない事

位は有るわな?四聖だし?

「此方の戦力は?デッチ以外に誰かいるか?」

「戦うのは己れのみでいきやす」

俺は半目にデッチを見る(大丈夫か?コイツ?)

(マクートお主の心配も判るがな?コヤツも其なりに

場数を踏んだ猛者なのよ、今回は我らに任せて見てくれぬか?)

(ターブランの判断に異論は無いがもう少し調査した方が

良いぞ?敵の種類と数が全く判らんで、仕掛けるのは

下策の極みだからな?)

(マクートの言う事は最もだがな、小鳥達もコレが限界

なのよ、来た事が判っただけでも行幸よ)

俺は偵察の鳥頭っプリに頭痛が痛い思いだ。


仏暁過ぎの夜明け前、己れは小鳥達の報告を元に目星を

付けた場所で構える。

此処まで近づいたのだ恐らくこれが、最後の野営になる

だろう、そしてこの季節は大山脈からの、厳しい吹き

下ろしが有る、それを避けようとするならば、此処以外

の場所は無い。


己れの予想は的中した、『敵』がいたのだ、茶褐色の

肌、大柄な体に太く長い手足、そして最大の特徴は顔

豚面である、『敵はオークその数5』己れならば殲滅

出来る。

全てを抹殺出来る場所に陣取り、『魔法・不可視弾』を

選択する。


「目を覚ますことなく逝け」

誰に聞かせる訳でもない呟きと共に、己れの眼前に5個の

魔方陣が浮かび上がる。

狙いを定め魔弾を放つ刹那、風を切る音が己れに向けて

近付く『不味い』直感で判断し、その場を飛び退く。

先程までいた場所に、錆び付いた斧が突き刺さっていた

忌々しい、居ないと判断した見張りがいた。

寝ていた五匹のオークも起き出した、全てが最悪だ

奇襲は失敗、しかも斧を投げたヤツは更に不味い。

『紅い肌のオーク』タダでさえ力強いオークが数段上の

力を持ち知能も有る、己れは誘い出された可能性すら

有った。

忌々しい事だ、オーク如きに己れが後れを取る等

恥じ以外の何者でもない、心は熱くなるが頭は冷静に

判断し撤退を選択する、行き掛けの駄賃としてまだ覚醒

していない、手前二匹のオークを魔弾で始末して夜が

明けきらない、暗い森に飛び込み逃走する。


忌々しい、又もや御館様の期待に応える事が出来な

かった、もっと忌々しいことは『あの餓鬼』の顔が

己れの脳裏に浮かぶ事であった。

「期待していますぜ!旦那」


昨夜、大見得を切って出陣したデッチが排除を失敗した

と、報告してきやがった!この残念賢者が!!

「デッチく〜ん?昨夜勇ましく出て行ったよねぇ?」

俺はコブラツイストで、デッチの体を締め上げる。

「旦那!旦那!アバラが!アバラが痛てぇですって」

「また、行き当たりばったりで攻撃を仕掛けたんじゃ

無いだろうねぇ?」

「・・・・・・・・すいやせん」

「デッチく〜ん!!!」

「いだだだだ、アバラが!アバラがぁ〜!」


相手は「オーク」さすがファンタジー世界いるだろう?

と思ったらやっぱり居たよ!

ゴブリン同様、小説、ゲーム、果てはR-18作品まで

隅々まで渡っての『悪役』である。

その手の作品ならば絶倫であるが、所詮は「雑魚」で

あるが、この世界では「雑魚」所か大人が三人一組で

やっと一匹と対等の『脅威の存在』である。

しかも『紅い肌のオーク』つまり上位種、リーダーが

存在している、『組織化された部隊』との戦闘になる

相手が6匹から4匹に減ったのは、良い知らせだが

油断で殲滅失敗は大ポカだ、よって更に締め上げる。

「アバラが!アバラがぁ〜!」


「森に罠は仕掛けられないのか?」

「へぇ、この辺は森の浅瀬に当たる為、魔素が不足して

いて魔物を屠る様な罠は仕掛けられませんし、オークは

鼻が良いから匂いでバレます」

「罠に頼ろう!」は却下かぁ。

「オークが仕掛けるとしたら、いつ頃だ?」

「確実に深夜でやす」

「理由は?」

「真夜中が1番魔力の消費が激しいんで」

「あん?何それ?」

「魂と魔力は一緒に身体を巡ることは御館様に聞きまし

たよね?」

「あぁ、聞いてる」

「その身体の巡りが深夜は一段と遅くなることは?」

「あぁ、生活リズムの話になるのか!」

「生活リズム?」

「イヤ、こちらの話だ」

夜になる前に仕掛けられたら『ブロディを使おう』作戦

発動だな!


その日の深夜、日付が変わる頃(前世感覚)デッチの読み

通りオークが4匹襲撃して来た。


作戦その① 相手に知能が有るならそれも利用しよう。

紅いオークは知能が有るらしい、ならば必ず襲撃前は

偵察を現場に放つはずだ、それを利用する。

小鳥の情報で夕刻に、2匹のオークが偵察に来たらしい

デッチには、事前にバレバレの罠を幾つか仕掛けさせ

周辺に匂いもたっぷりと付けさせた。

コレで侵入路と目的地迄のルートを特定させる。

アチラは俺達を舐めている様だ、此方の予想通りの行動

を取って来た。


作戦その② 志〇後ろ!後ろ!。

オーク4匹が縦列隊形で侵入してくる、オークの武器は

大型戦闘斧が1、残りは木の棍棒であるどちらも森での

使用は向かない武器だ、お約束を守ってくれて一安心で

ある、さてと仕掛けますか?


4匹のオークが、俺の潜む場所の側を通り過ぎて行く

この目で初めて見るオークの感想は『デケェ!』だ

スーパーヘビーの外国人レスラーよりもデケェぞ!

そして、やっぱり?何故か?4匹ともフル〇ンだ

寒いからか?ブランブランはしていない。

おまけに体臭が強い!臭い!気持ち悪い!

豚さんが、生きたままトラックで運ばれているのを

見た事が有る人はいるだろうか?

そのトラックの臭いを嗅いだ事は?その臭いだよ!


あ〜前世のトラウマが甦るわぁ〜、鼻を押さえ4匹目が

通り過ぎた、音を立てずに静かに立ち上がり、下半身に

魔力を回し一気に最後尾のオークを急襲する。


最後尾のオークの背中に帝国騎士から拝借したナイフを

突き立てる、オークの身体は厚い脂肪と太い筋肉で構成

されている、魔素が集合し結合した身体であり心臓部の

魔石に細かい網の目状の、毛細血管の様な魔力通路が

身体中を張り巡らせている、ソコに俺がナイフを通じて

一気に俺の魔力を流し込み、オークの魔力の巡りを阻害

してやると、オークは声を出す間も無く魔力の塵に帰る

読み通りだ、ターブランに以前聞いて魔物には内臓が

無いのではないか?そんな疑問をデッチに聞いて見た。

「旦那?何、今更常識的な事を聞くんで?」

悪かったね!俺はまだ常識を知らないの3歳だから!

コブラツイストが拷問コブラに変わった瞬間である。


さて、油断なく慎重に『志〇後ろ!後ろ!作戦』を継続

である、相手はまだ一匹減ったことを認識していない

今の内に減らせるだけ、減らす。

次の最後尾のオーク、3匹目のヤツにも同じく背中に

ナイフを突き立て同じく、魔力を一気に流し込み魔力の

巡りを阻害する、しかしここで予想外の事が起こる。

このオーク最期に根性を見せて仲間に知らせたのだ!

紅いオークが振り向き俺を視認すると、俺に『咆哮』を

浴びせて来た。


大声を聞いて体がおかしく成るなんて、鍛えが足りない

んじゃない?

と、思われるかもしれないが『デカイ音』は立派な

音響兵器である。


現代の海上自衛隊の護衛艦に搭載されているCIWSという

バルカン砲見たいな兵器をご存知だろうか?

そのバルカン砲の発泡音を聞いた事は?

アレの発泡音は鼓膜を限界以上に揺らし、耳を押さえて

も音の波が脳を身体の内臓を、水分が有る所を音の波が

揺らし捲って身体を抜けて行くので有る、その不快度数

は前世のNo.1であり、おしっこしておいて良かった!

が俺の感想だ、だって暫く体に力が入らなかったもん!


この『咆哮』はそれと同等の効果を発揮してくれやがる

因みにまだ漏らしてはいない、3歳でもがまん汁!


俺は左手を突き出し、魔力の玉を作り限界迄、圧縮し

更に魔力を無理矢理詰め込む、すると風船が張り裂ける

様な音と共に、反発した魔力が閃光となって周りを

照らす。

「デッチ!!」

「へい!」

デッチの魔弾がオークのいる辺りに打ち込まれる。


デッチとの打ち合わせでは、俺が光を放ったら出来る

限りの魔弾をオークがいる辺りに撃ち込め!

である、限られた時間では綿密な連携等は望めない。

シンプルに『こうしろ!』と、言った方が理解も早い


紅いオークは己れの得物である、大型戦闘斧を盾に魔弾

を防ぎやり過ごすが、先頭に立っていたオークは魔弾を

浴びて魔力の塵に帰る。

くそったれが!此処までに紅いオークは排除したかった

が残ったのはコイツのみで有る、やるしか無いか。



さぁ、GIANT KILLINGと行こうか。



作戦その③ 後は野となれ山となれ

ぶっちゃけ、コレを作戦と呼んで良いのか?と疑問に

思うだろう?実は俺もだ!

もう、此処まで来たら変態虎以外の四聖に助力を仰ごう

ぜ!(サムズアップ)

である、何とか最後の一匹にしたのに残ったのがよりに

よってコイツかい!!


紅いオークが俺を睨みながら斧を構える、斧何て護衛艦

の破壊斧しか見たことが無いが、ヤツの持っている

大型戦闘斧はかなりの威圧感を放って、ジリジリと

距離を詰めてくる。

対する俺の構は自衛隊警棒術・中段ナイフバージョン

である。

映画やドラマならナイフの構えは、逆手なのだろう。

しかしこちらは、ファンタジー世界のリアルである

自分から不利になるマネはしない、そんな持ち方を

したら、攻めは限定され守りは皆無でどうするの?

である、順手ならば手首の角度で複数の選択肢が生まれ

攻守一体、自由自在である。


ジリジリと近付く紅いオークはある場所で、ピタリと

止まるこの先はヤツの斧の射程だ、リーチも破壊力も

あっちが圧倒的に上だ、しかし!地の理は俺にある。

互いに息を深く吸い込み、口から短く出す。

俺と紅いオークが同時に仕掛ける、俺は左斜め前に踏み

出して誘う、紅いオークは軸足を回し、左足を内に入れ

追撃の体勢を取る、身体のバネを最大に絞り大きな斧が

俺を目掛けて振り抜かれる前に、俺と斧の間に一本の木

がそこに割って入る、斧が幹に半分以上食い込み激しく

揺れるが倒れる気配は無い。

斧が抜かれる前に俺は反転して右前に前進する

俺の頭上に紅いオークの左肘が見える、ソコを内側から

外へ回すようにナイフで切り付け、降りたナイフで次に

オークの左膝を外から内へ撫で斬りにする。


紅いオークを切り付けた時に魔力も一緒に流したのだが

手足では致命傷を与えられないのか?

だが、気付いた事もある魔力を流して関節を切れば

ソコは固定されるのである、斧が抜け無いと判断した

紅いオークは斧を見切り、素手で俺に挑んで来た。

体格差を考えれば、まだまだ俺の不利は動かない

俺は振り下ろされた右腕の外側を、滑る様に前に出て

軽く飛びそこに有る、オークの脇の下をナイフで切り

一気に離れる、不格好ながらも繰り出した右足の蹴りを

かわすためだ。

紅いオークは両腕を固定され、自由に動く右足をバタ

つかせて俺に向き直る。


コレで終わらせる!俺は覚悟を決めて右足の甲へ魔力を

集めて硬化させて走り出す。

紅いオークは最後の抵抗に俺に噛み付こうとして口を

開ける!俺はヤツの下顎目掛けて脚を繰り出し叫ぶ!!


「イナズマァァァ!!!」


「稲妻レッグラリアット」

かつてとある団体の、第三の男と呼ばれた男の得意技だ

その優しそうな農協のおっちゃん見たいな風貌で、損を

してしまい下克上上等な団体では、大きな戦績は残せな

かったが日本のプロレス界でこの技といえば!!

プロレスファン百人に聞けば千人がこの男の名前を

挙げる。

もし、それ以外の名前を出すヤツがいたらソイツは病的

な変態である、隔離した方が良い。


骨?と金属?がぶつかり合う音が夜の森に響く!

紅いオークは顎を潰しながらもまだ、倒れない。


その時、俺の脳裏に東洋の大巨人の言葉が甦る。

「必殺技を出しても決まらないなら、何度でもだすんで

すよ、こちらも苦しいが相手はもっと苦しいんですから

だから、決まるまで出すんです、その為に鍛えてきたん

ですからね」


そうです!兄貴!俺は逝ってこなければならない!


その潰れた下顎に向けて再度放つ!砕けろ!

「イナヅマァァァ!!!」


振り返る、まだ倒れない!なんとしぶとい!

茶渋よりもしぶとい!しぶとすぎる!


ならば、そのがら空きの後頭部に向かって放つまで!

「イナヅマァァァ!!!」


脚に確かな手応え?脚応え?を感じた俺は

ゆっくり振り向く、紅いオークは倒れない!意地でも

倒れない!しかし限界が来たのか魔力の塵にゆっくり

帰ってゆく、俺を睨みながら。


紅いオークは最後の最期まで俺を睨み消えてゆく。

「アンタ頑丈にも程があるって」

消えたオークに向け呟いた。



夜が明けて今日も天気は良さそうだ、日課を科し一息し

冬の日向を楽しむ、暖かくは無いが風が無いのでとても

過ごしやすい冬の一時、己れを見つけた妹が笑顔で此方

に駆けてくる。

全く、転びそうになるからハラハラしてしまう。

妹は己れの膝に今日も座り体を預ける、この妹はこんな

に小さいのだな、アレも同じか?

昨日、紅いオークと死闘を繰り広げ今は薪割りに精を出

す。

何とも元気な事よな。

吊るされた干し柿を2つ取り1つを妹にわたすと

「ありがちょ」笑顔で己れに礼をいう妹を見て

頬が緩む、思わず頭を撫でるときゃっきゃっと笑う

ああ、忌々しいモノだ!己れの心が暖かくなるのが解る

この気持ちを己れは何と言うのか解らんのだ。

本当に忌々しいモノだ。




































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