第20話 knocking on heavens head
秋の訪れが一段と感じられる様になったある日の晩
「マクート、明日俺と砦に行くぞ」
家族三人ピタリと止まる。
ママンは眼光鋭く、パパンを睨む。
俺は何を言ってるのだ?このブロディ?と
飽きれ顔である。
マーシャは理解出来ずに回りを見ていた。
うん、マーシャは気にせずにお食べ〜。
事の起こりは前回のフルリン騒動である。
魔物の出没は、町の警備上及びこの領の最優先調査対象
であり、報告や通報はこの街に住む領民の義務である。
つまり、パパンは義務を果たした。
それで終わりじゃないの?
「お父さんが義務を果たしたんでしょ?何で僕が砦に
行くの?」
と、素直に質問する。
「そうなんだが、砦の連中が3歳児にゴブリンを討伐出来
るわけ無いと言って、魔石を見せても取り合わんのだ」
いやぁ、目眩を感じるわぁ。
そうだよ、砦の人が常識人だよ!アンタ何馬鹿正直に
『家の息子がやりましたスゴイでしょ?まだ、3歳なんで
すよ?それなのにゴブリン倒しちゃったエヘヘ』
なんて言ってんだろうが!
ほら見ろ!ママンの顔を見て見ろ!パパン!!
何、目をそらしてるんだよ!!
あっ!マーシャは見ちゃ駄目よ?
お兄ちゃんを見てなさい。っね?
「貴方、少しお話が有ります」
そう言ってママンはパパンを引き摺って行った。
『アバヨ、ブロディ』
翌日の朝、土砂降りを祈った俺の願い虚しく快晴である
「マクート、気をつけてね」
船着き場でママンは俺の顔を両手で包み優しい笑顔で
語りかける。
マーシャは『お兄ちゃんいっちゃうの?やだぁ』と
ママンにしがみついてグズっている。
俺はマーシャの頭を撫でながら
「お土産持って帰るから良い子で待ってるんだよ?」
となだめたが、ママンに抱き付き拗ねてしまったのか?
此方を振り向いてはくれなかった。
パパンはママンに「すぐ帰る」と伝えていたが
物凄い形相で「必ず!ですよ!変な事はゴメンです」
と、パパンに強く伝えていた。
パパン、タジタジである因みにそれ以上下がったら湖に
落ちるぞぉブロディ?
この湖『ラッケ・スワーニュ』は上から見ると鶴が
羽ばたく姿に似ているので『白鳥湖』とも言われている
この辺の住民の大事な水源であり、防衛上の要衝でも
ある。
俺の住む世界はラーベント大陸という、菱形が2つ縦に
連なる形で存在する大陸である。
大きさは北アメリカ大陸と南アメリカ大陸を足した広さ
をしており、北大陸、南大陸と通称で呼ばれ、俺達の
住む国はポルト・ランケ王国と呼ばれ、北と南大陸が連
なる所に位置する国であり、東はオルクス大山脈と呼ば
れる北と南大陸を真ん中から縦断する形で東西に分ける
山脈があり、山の向こうはガラン大帝国が支配していた
俺達の住むシャール辺境領は南大陸側に位置するオルク
ス大山脈の麓に位置する2つの国境を有する辺境領である。
東はオルクス大山脈の向こう、ガラン大帝国があり
南にはテノーラ王国と国境を有しており、南北陸路の
交通の要衝であり、南から攻めるにはこの湖を水源とし
て確保するため、最初に激戦が予想される場所でもある。
つまり、此処の砦にはこの国でも精強な部隊が配置され
猛者揃いの砦に『3歳の息子がゴブリン倒しちゃった』
なんてアホな事抜かしたパパンはマヂで何を考えてんだ?
石造りの堅牢な建物の一室、採光に必要最低限の窓から
差し込む光に照らされた室内は、余程身分の高い者が
使用する部屋で有ると出張していた。
黒檀の無垢材のテーブルの上には紫丹を削りだしで誂え
た逸品物の万年筆が配置され、窓を正面に右は精密な
シャール辺境領の地図が掛けられ反対側は国旗と領旗が
交わる形で配置されていた。
鉄刀木で造られた重厚な扉からノックが
響く。
「入れ」短く返答する声に、多くの責任を持たされた者
特有の低く響く声が答える。
「失礼します」声は女性特有の柔らかい声に幾分の厳を
含んだ声が入って来る。
「此方が昨日の報告書、そして此方は本日の予定です」
木製の綴りに鋏まれた書類が2つ提出された。
書類を渡された壮年の男性は思い出した様に呟く
「そういえば今日は『鉄弓』が来るな」
初めて聞く人間は、解らない程の小さな感情の波が乗せ
られた声は、聞き慣れた者からは(随分弾んでいるな)と
感じる程である。
「『鉄弓』の噂は本当なのでしょうか?」
女性は質問する。
「本当だよ」
壮年の男性は左目だけを上げ女性を睨む。
睨まれた女性は息を呑みながら
「失礼しました、司令」
と、頭を下げた。
その後は、紙が捲れる音のみがする重い空気に包まれた
青い空、白い雲、透き通る湖面、滑る様に進む小舟は
右に行けば『シェール・エラン』この領の領都に出る。
左に行けば通称『白鳥砦』この領に有る2つの砦の1つ
である。
そこはオルクス大山脈の麓に広がる森林を前面にした
『対ガラン、及び魔物』の最終防衛線でもあった。
俺とパパンは『白鳥砦』向かって舵を切った。
(大体、この手の話は物凄い美人の司令官がいてさ!
強面の男どもを顎でこき使うんだぜ?)
(マクート、それはお主の前世で在ろう?此処ではまず
そんな事は無いな)
速攻で俺の友人は夢を潰しに来やがる。
(ターブラン現実って厳しいんだぜ?夢位見よう?)
(ふぅ、マーシャのお土産忘れるなよ?)
あっ!この亀ちゃん呆れてるぅ。
テレパシーで他愛もない話をしながら俺とパパンは
砦に進む。
因みに現在、マーシャへのお土産として魚釣りをしています、釣果は既に三匹だ。
(マーシャ、今晩もお腹一杯お食べ)
そうこうしてる間に、小舟は『白鳥砦』に到着した。
「猟師オイゲンだ!呼ばれてきたぞ!扉を開けろ!」
パパン!!大声出すなら教えてよ!
・・・・・少しチビッた幼児だもん。
桟橋に小舟を付け、砦の城門に常駐する兵にパパンは
大声で命令する。
(おぉ出来るブロディ降臨だぁ)
どんな形であれ、お呼ばれしたので砦に入れられてしま
った、ここで『そんな話は聞いてない』って言われたら
速攻で帰ったのに!
俺は仕事をしただけの門場を睨む。
高い塀の内側に入り、やっぱり広い砦の中をパパンに
肩車されながら進む。
やはり砦の兵隊は強いのだろう、皆背筋を伸ばして行動
している、本当に強い兵隊は日常生活を見れば察しは
付く、ちゃんと正しく、厳しい訓練をすれば兵隊は
兵になる。
(江田島の雰囲気に似てるな)
俺が初めて抱いた砦の感想である。
ただ、家のパパンもガタイはデカク周りの兵隊より
頭1つはデカイ。
(何か、周りの人はJrヘビーって感じ?まぁ家のパパン
はスーパーヘビーで間違い無いのだが)
等と無意味な妄想をしていたら、『あれが鉄弓』
等とぼそぼそ小声で話す人達が増えてきた。
「オイゲン!!」
パパンを呼ぶ声の方を見ると以下にも強面の軍曹です!な男が呼び止める。(アンタ前世は生傷男だろ?)
「オーデ生きていたか!」
「お前こそよくぞ、生きていてくれた信じていたぞ」
むさ苦しい男どもの暑い包容を眼下にしながら俺は
何しにここに来たんだっけ?
と、目的が解らなくなってきた。
『生傷男』オーデに案内されて俺達は司令室へと向かう
俺はあれ?応接室でないの?司令室って見ちゃいけない
モノがたくさん有るよ?と、疑問に思ったがスタスタ
案内されて司令室前である。
扉をノックして「オーデであります、オイゲンをお連れ
しました」
「入れっ」
短いやり取りを聞き、俺達は部屋に入ると司令官が
正面の机に座って此方を見ていた。
うん、鍛え上げられた肉体に知性を感じるあたり
出来る高級将校って感じである。
しかし、俺にはどこからど〜みても『お兄ちゃん』
にしか見えない。
だって、さっきから頭の中でスピニング・トーホールド
がエンドレスリピートしているもん。
そんなおれを余所に話が進む。
「お久しぶりです、先輩」いきなりにこやかに話す司令
「よせ!捨てた過去の話だ」
なんだろう?俺の知らない所でハードボイルドな話が
進んでるぅ。
「そちらがご自慢の?」
「あぁ、自慢の息子、マクートだ」
と、勢い良く俺を掲げ上げるパパン。
バカ!ヤメロ!こんな低い天井でお前がそんな事を
したら!!
ゴギン!!!
鈍い音を立てて俺の頭が天井の梁にめり込む。
俺は三途の川をぷよぷよ浮いて渡っていた。
対岸には前世のおばあちゃんがいた。
「おばあ〜ちゃ〜ん!」
俺はおばあちゃんを大声で呼んだ。
うん、間違いなくあれは前世のおばあちゃんだ。
だけどおばあちゃん?
何で、おじいちゃんをジャイアントスイングで回して
いるの?
おばあちゃんがおじいちゃんを砲丸投げ宜しく
此方に投げてきた。
いや、室〇ポーズはいいから・・・
投げられたおじいちゃんはフライングクロスチョップ
で俺に飛んできた。
こんなバカな方法で俺は再びこの世界に戻った。
もうちょっとマシに還せない?




