第15話 凄むオバケでロール
この世界でも太陽は東の空から上がり、西の空に沈ん
で行き、季節は『春、夏、秋、冬』の四季がある。
1日は『朝、日中、正天、日後、夕時、宵時、夜』
と大雑把に分類されているが、夏と冬の日照時間の関係
何だろうけど、午後の分類はやたらと細かい。
そして、家族全員が体内時計を有して居り、これが案外
正確に機能していて、家族の生活リズムに為っている。
この家族では2番目に目覚める俺は、早起きに分類され
る。
これはアレか?前世では自衛隊と運送業というブラック
を通り越した別の異次元的な闇の世界の住人だった事が
関係してるのか?
そして、朝1番にする事と言えば!出すものは出す!
スッキリした所で俺の1日が始まる、先ずは井戸からの
水汲みだ、力仕事だからパパンがすれば何も問題は無い
が、パパンの仕事は猟師だ。
猟師はまだ明けない空の下、狩場に赴き獲物を仕留めて
帰ってくる。
仕留めた獲物は直ぐに解体して、保存処理しなければ
直ぐにダメになってしまうから、解体した後に家族の
水汲み何かした日には、動物の脂まみれの水で顔を洗い
歯を磨く、何て出来ると思う?
その為以前はママンがやっていたのだが、水汲みで苦労
するママンを見るに耐えられなかった俺は、自分から勝手に水汲みをするようになった。
魔力を体に循環させれば、大した苦労はしないから別に
構わないのだが、ママンはまだ3歳の俺にさせたくは無い
のだろう、最初は猛反対していたが・・・
『お父さん見たくカッコ良く成りたぁ〜い』
と無邪気さを武器にパパンを此方の陣営に引き込みママ
ンの説得に当たって、今に至るのだ。
(フッフッフッ!馬鹿とブロディはこう使うのだよ)
それに今では単純にマンパワーが倍増していた。
「デッチ、その水はここに移せ」
「ヘェ〜い」
デッチと名付けられた『元・森の賢者』現、俺の手下の
お猿が両肩に掲げられたバケツの水を家の樽に移して行く。
「よし、次は引き続き食べられる果実の探索、及びキノ
コの捜索、そして保存食を作るのに最適な薬草の手配を
してこい」
「・・・ウェ〜い」
あの野郎最初は毒キノコを持って来やがったのだか所がドッコイ、俺には手にした物の情報が頭に浮かぶ能力が有るのだ。
(アジシメジア・毒性弱・食べるな危険)
「デッチくぅ〜ん?これ食べて見てよ」
俺はスッゴク素敵な笑顔でヤツに毒キノコを食わせて
やった。
まあ、流石元・森の賢者か?「食べられる」が食べた後
は命令に含まれなかった所を突いた作戦の様だが甘いな
事の次第の発覚後、「〇して下さい!!」と嘆願する
程の罰を与えたので、今では従順な振りをしている。
えっ、罰?男の急所に魔力を集めて締め上げただけだよ
潰れるギリギリの所を3日ほどね!
さて、朝食の準備をする前にマーシャを起こさないとな
俺は天使が眠るベッドに足を運ぶ。
俺の双子の妹、マーシャは未だに夢の中の住人だ。
その穏やかで可愛いらしい寝顔は天使その者である。
その天使の枕元には俺のあげたオカリナと友人?となった亀のターブランがあった。
(おはようターブラン)
(フム、もう朝か?早くにご苦労マクート)
流石、『四聖序列四位』ラスボスは優雅な目覚めである
以前、流石に喋る亀ちゃんは不味いので何とかしてこの
玄武さんと意志の疎通は出来ないか?
と、相談したらあっさりと『出来るぞ』と言って来た。
何でも『四聖同士』はこうして話し合うそうなので
言葉は口にしないそうだ。
実際、四聖は各々種族も口の造りもちがうのでこうする
らしい、鳥もいれば獣もいる、止めは龍である。
思い浮かぶ言葉を魔力に乗せて相手に伝えるテレパシー
その物である。
「流石、四聖、凄い魔法を使うな」と言ったら
「この程度は魔法でも何でもない呼吸と同じモノだ」
言われてしまった。
四聖さん半端ねぇっす。
左手に魔力を移しターブランの口の前に持って行く。
ターブランはその魔力をチロチロと小さな舌で舐めている。
ターブランには物理的に食事は要らない、この様に魔力
を口にして活動するのだ。
何てお得でエコな事だろう!その上、虫も湧かず予防接種も要らない何て!素晴らしい友人だ。
そんな素晴らしい友人に感動していたら、マーシャも
朝日の眩しさに目を覚ます。
「うぅぅん、もうあしゃぁ?」
この天使さんは寝惚け気味である。
目をゴシゴシ擦って目覚めようとしている、天使さんに
「おはようマーシャ、朝の準備をしようね」
「うぅぅん、おはょあお兄ひゃん」
「さぁ、ターブランにも挨拶をしようね」
と、マーシャの目の前にターブランを持ってくる。
ターブランを視界に入れたマーシャは途端に元気になり
「おはよう!ターブラン」と元気に挨拶をして頬擦り
している。
フム!「マーシャに豊かな情操教育を」作戦は順調だ。
さて、朝食の準備をするか
。
この世界の普通の家庭ではお母さんが食事の準備をして
家族皆で食べるのが一般的だが、我が家ではそうは問屋
が卸さない。
「料理は愛情」等といわれるが、それは食べる相手の体
調を思いやり、栄養価や塩分摂取の量を考えた献立の
作成を意図した言葉である。
例え愛情が有っても毒物の作成は最早、愛情では無い
それは試練と呼ばれるものだ。
その試練と向き合い日々勝利を重ねたパパンはソコだけは、尊敬出来るぞ?間違ってもマネしないけどね。
朝食の献立は小麦粉を練り込んだインドのナンみたいな
パンにキノコで出汁を取った野菜スープ、そして先日
解体して燻して保存処理したウサギの肉をテーブルに並
べた。
「マクート毎日悪いわね」とシュンとして元気の無い
ママンの手を取って。
「お母さんには笑って欲しいからしてるだけだよ?
美味しかったら、美味しいって笑って欲しいな」
必殺の無邪気な笑顔をママンに浴びせる。
「ありがとうマクート、美味しく戴くわね」
ママンは元気良く、朝食を食べ始めた。
パパン?ソコで涙流して食ってるよ。
今日もお互い命を永らえたなパパン。
朝食を食べた後は各々、仕事の時間で有るのだ。
パパンは仕留めた獲物をお金に変えるため舟で街へ向い
ママンはレースを編んでそれを家計の足しにする。
俺から見てもママンの作ったレースは素晴らしい出来で
有る。
なのにどうして、アノ呪いのようなメシマズなんだ?
さて、普通の子供は遊んで体力をつけるのだがマーシャ
はママンのレース編みに興味があるのか、ママンの隣に
座りターブランと一緒にレース編みを眺めていた。
俺はと云うと、今朝、野に放ったデッチがある程度の
収穫を経て帰って来ていた。
今回はアケビと無花果である。
フム、両方とも日本の地方では野山や庭先に植生してい
る果実である。
「秋になると橙色になる果実もあるか?」
「へぇ、ソレは渋クテ食べレタもんじゃネェっす」
おおっ!渋柿発見!
「秋に実ったら持ってこい、工夫すれば食べられる」
「えェェ食べルンですカ?」
「人間の知恵を舐めるなよ?デッチ?」
「へへぇェェ〜」
お猿は身体埋没するように頭を下げる。
フムフム、暫くは使い物になるかな?
ニヤリと俺はデッチを見つめ、今後の冬に向けた準備に
思い勤しむのである。
現代日本では電気とガス等のインフラで、冬でも生命は
維持出来るが、このファンタジー溢れる世界は魔法は有
れど、インフラは存在しないのである。
だから、冬の期間は命懸けのサバイバルレースが強制的に開催されるのである。
だから日々の生活は冬への蓄えを如何に増やすか?
を主眼において生活するので有る。
仮にも3歳迄は生きてこれたので、パパンとママンは有効に生活してきたので有ろう。
俺はその手助け、彩りを添えるよう協力しようとしているのである
しかし、デッチが次に差し出したモノはこの世界特有の
イレギュラーを出してきた。
「ゴブリンどもノ魔石です」
「ゴブリン?」
「ヘェ、最近コノ辺りで余程ノ未練を持っタ霊魂が亡く
ナッタ様デ闇の魔力ニ惹カレテ魔物ドもモコノ辺りマデ
下ガッテ来テます」
「ふ〜ん、闇の魔力ねぇ」
俺は、鈍く光るグレイのガラスチックな魔石を掲げて呟いた。
こういったファンタジーな出来事はこの世界のラスボス
に聞くのが手っ取り早い。
俺はその日の夜、眠る前にターブランとのテレパシー回線を繋げた。
(そんでデッチが持って来たのがゴブリンの魔石だ)
(為る程な、確かに最近は闇の魔力か異様に増えて
いたのだが、そういう事だったのか)
(魔物って闇の魔力に敏感なのか?)
(フム、本能に忠実と言うべきで有ろうな)
(魂と魔力は共に混ざり合うモノなのだよ、マクートの肉体にも魂があるが、体の何処にあるかわからんだろう?)
(確かに魂はあるが、体の何処に?ってシロモノだな)
(魂は体の至る所、血液や細胞等有りとあらゆる場所に
存在するモノなのだ、1つだけ等では無いのだよ。
そして、闇の魔力とは人の魂の残した残思、怨念や未練
等の負の感情に振り切れたモノである。
そうして闇の魔力は生体、即ち生身の人間に執着するの
だよ。
そして魔物達は闇の魔力が在るところに肉体が存在していることを知り、闇の魔力をたどり彷徨うのだ。
肉体を持たぬ魔物達の本能は肉体への渇望、執着だ。
魔石という、魔物達の魂の結晶とも言うべき本能が肉体
を求めるのだ。
そんな魔物達の悲願は肉体の取得なのだよ。)
(なんか、壮大な世界の話になってきたな)
(そうだな、この世界の根幹に近くもあるな。
因みに闇の魔力を纏う魂は圧倒的に女性が多いのだよ)
(ヘェ、そりゃなんで?)
(己が産み落とした子供を置いて死ぬ事は耐え難い苦痛
なのだろうよ、そんな未練が闇と成り魔物を呼び寄せる
ほれ、其処の女の魂もそんなモノで有ろうな?)
(またまた、ターブランは俺を脅かそうって・・・)
振り向いた俺は、見てしまった。
髪の毛が闇の魔力の粒子を纏い、蛇の様なウネウネと
蠢く様子と此方に強烈な怨みの籠った視線。
「どぅうえぇたぁぁぁ!!!!」
俺は叫び声を上げてしまった、いや上げるってコレは!
そして漏らした事も俺は悪く無い。
悪く無いったら、悪く無い!!




