パイル村 日常
「本当に呪いたい人生だった」
場末の病院、白い部屋にぼそぼその声が響きわたる。
もう、何年もここで寝たまま。
この部屋に物は置いてなく、あるのはベットと掛けてあるカレンダー。
まっさらなそのカレンダーからは何ひとつ情報は受け取れない。
体には無数の管が繋がっているが、ガラクタほど価値も、時間も無いのは明白だった。
こんな事までして生き続けるなんて、苦痛で仕方ないし、そんなのまるで、植物じゃないか。
チクリと何かが視界に飛び込む。
「眩しい......」
ガラス越しの小窓から強い西陽が射している。
空の赤さで、今日が終わるのだと気付かされるが、目を覆いたくなるくらいに眩しい。
しかし、この細い手足じゃ起き上がることも、手をかざすこともできはしない。
ほんとうに、クソみたいな人生だった。
だけどこの人生もようやく終わる。
明日はもう、あの空を見ることはないだろう。
自分の死を悟るってこんな気持ちなのかな。
意味の無い投薬も
鼻を突き刺すアルコール臭も
親の顔より見た白天井も
やっと.....
太陽はいつも希望とともに昇り始め、絶望とともに沈んでいく。
見るのはいつも夕暮れだった。
しかし、今際の際まで美しく光り輝くその姿には、
憧憬と侮蔑とが入り交じったグチャグチャな感情を抱いてしまう。
「ああ、やっぱ眩しいな......」
願わくば、生まれ変わることが出来たなら、二度目の命が与えられるなら、あの太陽のように
どうか................
どうか..........................
*
東の大陸と呼ばれるこの土地のさらに東の田舎村。
彼等にとってはいつもの光景。しかし、他所人から見ればそれは少々…いや、大分おかしな光景だろう。
ドタバタと
今日も騒がしくドアが開く。
「いってーな、じいちゃん何すんだ!!」
「バカもの、お前が呆けてばかりおるからじゃ!
その根性叩き直してくれるわい!」
じいちゃんと呼ぶその少年は8歳になったばかりのやんちゃな少年、いや、クソガキである。
それに相対するは、60は過ぎたであろう1人の老人。最近の口癖は、「腰が痛いのぉー」
少年は昼寝でもしてたのか口のまわりにはヨダレの跡がついている。
「まったく、勉強中に眠りおって。何度起こしても起きんからこうなるのじゃ!」
え?嘘だよね。さっき起こす声とか聞こえなかったよ?
「ぜってーウソだろ.................クソジジイ」半目を向く少年だが
あ、
「ほほぉぅ?じいちゃんにクソジジイとはいい度胸じゃないか!」
「え?言ってない、言ってない、言ってない!!」ブンブン首を振って言いながら、少年の足はゆっくりと弧をえがきはじめる。
「嘘を吐くな!ワシの耳年齢は18歳じゃ!」
「ぎゃあああああぁぁぁぁ!ゴメンナサーイ!!」
東の東の田舎村
いつもの村にいつもの景色
そして、いつもの様に追いかけっこが始まる。
「元はといえば勉強が退屈なせいだ!俺は体を動かす方が好きなんだ!」
「ほう、リオンがそう言うのなら」と老人はニヤリと口元に三日月をつくる。その刹那、老人の姿は見えなくなっていた。
「それなら、体を使って勉強の大切さを学んでこーい!!」リオンのすぐ後ろに現れた老人は彼を遥か彼方まで蹴り飛ばす。
「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!」
「もぅ、またリオンを蹴飛ばしてるの?カロンさん。」
そう呼んだのは一人の少女。
「お?マリーちゃんじゃないか」
「はいコレ、お父さんが2人にって。でも、リオンが帰ってくるのは夜になりそうね。」
「そうじゃな!なら、夜にでもいただこう!毎度すまんな。」ガハハハハと豪快に笑いながらカロン は答えた。
その日、村人達の間ですごい速さで移動する流れ星の目撃情報が出るも、彼らはなんら気にはしない。
今夜の酒の肴になるくらいだろう。
それがこのパイル村にとっての日常だ。
太陽は真上に昇り、時刻は昼を過ぎた頃。
「クソジジイーーーーーーーーーー!」
悲痛な少年の叫びだけが木霊していた。
今日もパイル村は平和である。