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color:Agate「赤い悲劇と決意」

 ジェードが髪を切られたことは既に教師の耳には届いていそうでしたが、そのことをジェード自身は問題にしようとはしませんでした。でも後でエクリュは、カントにこっそりこんなことを言われました。


「バフを許してやって。あいつはジェードとエクリュが仲良くしてるのが気に食わないみたいなんだ。自分の友達を取られたと思ってる。だからジェードを目の敵にして、その腹いせにやったんだ。いやだね、男の嫉妬って」と。


 彼はバフの世話役みたいになっています。彼はバフの機嫌が悪くならないようになにかと手を貸してはいるものの、本音は疲れているようです。彼自身はジェードに対して特別な感情はないらしく、それは好きでも嫌いでもないということです。彼は彼で大変なんだなぁと思うエクリュでした。



「なんだよあいつ、もっと不細工だと思ったのに……」

「というより、ハンサムだよね」

 残念がるバフに皮肉を言うカント。笑われるような姿にしてやるつもりだったバフでしたが、結果はその逆。隠れていた美少年の顔が顕になっただけでした。ジェードは不気味で根暗な少年から、凛とした美少年になり、周囲の彼を見る目も変わりました。親しくなろうとして、声をかけてくる者まで現れます。それでもジェード自身は、中身が変わったわけではないので、その変化に戸惑うばかりでした。


 こうやってジェードの人気が出て誰もジェードを馬鹿にする奴がいなくなれば、バフもジェードを虐めにくくなるだろう。そんなことを考えていたエクリュでしたが、彼は大事なことを忘れていました。ジェードが狙われるのは学校の中だけではありません。家の中がもっとも危険だったということを。

「あれから“おかあさん”とはどうなったの?」

「なるべく顔を合わせないように距離を置いてる」

「そうなんだ。でもそのほうがいいかもね。この前言ってたけど、おかあさんが余計怒るからって黙って虐待されてたら君がボロボロになっちゃう。だからってやり返すのもよくないし、距離を置くのは正しいかもね」

「うん」とジェードは微笑しました。



 そんなある日のことでした。ジェードに対する虐めもなくなってすっかり平穏な学校生活が送れるようようになり、エクリュは気持ちのよい朝を迎えていました。教室に入ると「おはよう」とバフがつるんでいる三人組にも元気に挨拶します。先生が来て朝のホームルームが始まる頃になってからジェードは登校してきました。途端教室がざわめきます。「どうしたの?」と尋ねる声にもジェードは何も答えようとせず、自分の席に着きました。ジェード!?――エクリュだけがその理由を察します。それがジェードの“おかあさん”の虐待だと。間もなくして教室に先生が入ってきました。「起立!」と日直が号令をかけます。反射的に皆起立しますが、ジェードのことが気になってか、あちこちで私語が飛び交います。先生がやっとその異変に気付きました。

「ニーム。どうしたんだ、その顔は!?」と驚いた表情でジェードに尋ねます。ジェードの顔には紫の痣ができていました。昨日まではなかった怪我です。おそらくそれが誰の仕業なのか分かっているのはエクリュだけでしょう。ジェードの家庭の事情を先生はきっと知りません。するとジェードは笑みを浮かべてこう言いました。


「ベッドから落ちたんです」


「そうか、気を付けろよ」と先生はあっさりそれで納得してしまいます。それから普通にホームルームが始まりました。



「エクリュ?」

 ホームルームが終わって先生が教室を後にすると、エクリュはすぐさまジェードの所へ行き、彼の手を引っ張って教室から連れ出しました。


 廊下に出てその隅っこのほうで話を切り出します。

「さっき先生に言ったこと、嘘だよね?」

「ああ、あれ?」とジェードがすっとんきょうな声を出します。エクリュが歯噛みして続けます。

「本当はやられたんでしょ?“あの人に”」

 ジェードは、何も答えませんでした。

「酷い……っ!」

 エクリュの顔が歪んで瞳に涙が溜まっていきます。

「泣かないで、エクリュ」とエクリュの頭を撫でて慰めるジェード。「酷いよ、酷いよ……!」と呻くエクリュを優しい目で見詰める彼はとても哀しそうでした。

「ねえ、なんであの人はジェードにこんな酷いことをするの? ジェードは何も悪いことしてないんだよね? 何が気に入らないのか知らないけど、だからってこんなことするなんて許せない! ジェード、もうそんな家から逃げようよ。これ以上君が酷い目に遭うのを見てられない! 僕と一緒に家を出よう? そしてあの人に訴えよう。“あなたが虐待をやめるまで家には帰らない”って!」

 エクリュは大事な友を守りたい一心でした。ジェードを助けたい。あの恐ろしくて理不尽な母親から。ジェードは誰にでも優しくて、こんな虐待にも耐えるほど心が強くて。でもこんなことはもうやめさせなくてはいけない。黙っていてはいけない。僕が、僕が彼を守る。ジェードを虐待から救ってあげるんだ!


「ありがとう、エクリュ」


 ジェードは異を唱えませんでした。

「ありがとう……」

 そう繰り返すと、エクリュを腕の中に包み込みました。


七話のイメージカラーはアガットです。深紅のリアルな血の色を表わしています。

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