color:Violet「嫉妬」
それからエクリュは前髪を伸ばし始めました。ジェードは一度話してみたら結構話しやすかったこともあり、エクリュのほうから話しかけて自然と話す機会が増えていきました。一緒に登下校していたバフは、そんな彼と前ほど話さなくなりました。エクリュ以外にもつるんでいた仲間がいたので、今は彼らと仲良くしているようです。そうなると帰りも別々になっていきました。バフはその仲間たちと。エクリュはジェードと一緒に帰るようになりました。だからといって仲違いしたつもりはないエクリュでしたが、憎しみを込めて睨む視線をジェードはいつも感じていました。
「なかなか伸びないなぁ……」
自分の前髪を指で引っ張ったり、手で押さえたりしながらエクリュは言いました。休み時間になるとエクリュがジェードの席に行くのは日課になっていました。二人で窓際に向かいます。だいたいいつもその端っこのほうに凭れておしゃべりしていましたが
「?」
今日はそこにバフたちが陣取っていました。
「おはよう」
横を通る時エクリュとジェードがバフ他二人に声をかけましたが、バフだけがその声を無視しました。ジェードの視線がバフを捕えます。不敵な表情でした。お前になんか挨拶してやらねえよ、と嘲笑うように。ジェードは気にしませんでした。エクリュに追随するように歩いて数人分程離れた場所に落ち着いて会話を楽しみます。
「縛ると早く伸びるらしいよ」
「そうなんだ?」
ふざけてエクリュの前髪を後ろに撫でつけるジェード。
「あはははは」
「ちょっと恥ずかしいからやめてよ!」
剥き出しになったエクリュのおでこを見てジェードが笑い、エクリュは慌てて後ろに撫でつけられた髪を前に下ろしました。
「あはははは」
「まだ笑ってるし……」
軽く切れるエクリュ。それは和気靄靄として微笑ましい光景でした。
「仲いいね、あの二人」
バフの仲間の一人でカントという痩せ型の少年が言いました。
「ちっ」
バフは舌打ちしました。彼にはそれが気に入らなかったのです。
「おはよう」
ある朝でした。制服を着て、背中に学校指定の四角い鞄を背負って家を出たエクリュは、前を歩いていた少年に声をかけました。バフです。彼もエクリュと同じ鞄を背負って、同じ学校の制服を着ています。
二人は家が近い幼馴染ではありますが、待ち合わせは特にしていません。ただ同じ時間帯に歩いているとこうして遭遇するので、そのまま一緒に学校へ行っていただけでした。バフが彼を見て怪訝そうな顔をします。
「お前さぁ、なんでそんなに前髪伸ばしてんの?」
「うん、ちょっとね」
歯切れの悪いエクリュを嘲笑するように、バフはフッと鼻から息を吐き出しました。
「“あいつ”の真似か?」
「……」
「だっせぇ」そう悪態を吐くバフ。
彼は何も答えられないエクリュを冷ややかに一瞥すると、エクリュから離れるように歩く速度を速めました。だいぶ引き離されて、エクリュは追い付こうとするのをやめました。
三話のイメージカラーは「Violet」です。バイオレットは菫色ともいい、ピンクとブルーが混ざった明るくも暗くも見える絶妙な色なので、嫉妬を表わす色に選びました。