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color:Minuet「溜め息」

「はあ……」

 一人の少年の重たい溜め息が、喧騒の中に漂いました。朝の教室は登校してきた生徒たちが、他愛もない会話をして賑わっていました。溜め息を吐いた少年のもとに、一人の少年が歩いてきます。

「何、溜め息なんか吐いてんだよ」

 彼は幼馴染のバフです。彼は励ますように少年――エクリュの背中をどつきました。

 エクリュが苦笑いして誤魔化します。

「また“あいつ”のこと気にしてんのか?」

「うん……」

「ほっとけって、話しかけられたくないから“あんな頭”してんだろ」

 バフが言う“あいつ”とは、クラスメイトのある少年のことでした。彼はいつも一人で、クラスの誰ともコミュニケーションを取ろうとしません。エクリュはそのことがとても気になっていました。目にかかるほど長い前髪が、暗い印象を与えています。エクリュが沈黙していると、バフが今度は自分がため息を吐いて、エクリュの席から立ち去りました。

 バフはああ言いましたが、エクリュはやはり心配でした。話しかけてみようかな。そう思って席を立ち、その少年の席まで向かいます。


「おはよう」


 その声に少年はゆっくりとした動作で頭を上げました。バサッと長い髪が顔にかかって表情を隠します。

「おはよう……」とか細い声が返ってきました。

 エクリュが好意的な笑顔で続けます。

「ジェードくんて、なんでそんなに前髪伸ばしてるの?」

「……」

 少年――ジェードは沈黙に落ちました。視界を塞ぐ長い前髪を掻き分けもせず沈黙を続けます。

「髪、うっとうしくない?」

 エクリュにはそれが心を閉ざす象徴のように見えて、心配であると同時に素顔を見てみたいという好奇心もありました。手でその長い前髪を払いのけたい衝動が沸いてきて、そこに向かって手を伸ばします。そーっと……

「……!」

 さっとジェードがそれを交わし、席を立って教室から出て行ってしまいました。

「あ」

 エクリュは手を伸ばしたまま、しばらく呆然と立ち尽くしていました。

サブタイトルの「color」はイメージカラーを表わしています。「Minuet」は薄い水色に近い紫です。

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