第9話 狂い咲きの季節 5
渚の奴は、それなりに働き者だ。
その点は認めてやってもいい。だが、家計に余裕があるわけでもない。
なぜか?
毎月、かなりの額の支払いがあるから。もちろん、渚がギャンブルや買物で散財したりするわけじゃなく。また、あたしが法外な小遣いをせびっているわけでもない。
ただの償いだ。
過去を金で清算する。誰が、いつ考えついたのか知らないが、反吐がでるような話だと思う。
金を誠意に変換するのはチンピラだけで十分だ。人の気持ちや人生を、金で償えるわけがない。
まして、人の命を。
しかし、何物にも代え難いなら、たいがいの物と交換可能な金で支払うしかない。人間というのは、どうしてこうも不器用で不完全なのだろう。どうして、神様は人間を作り直さなかったのだろう。
あたしの疑問など歯牙にもかけず、神様は人間を作り直すことはなく、世の中は金を中心に回っていく。
その渦にのみこまれて踠いている漂流物。
それが人間。そしてあたしは、渚のお腹にくっついて、泳ぎもせずにああだこうだ言っているコバンザメで。人間ですらない。
あたしは、渚を蔑みながら、その実、自分自身を蔑んでいるのだ。




