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第6話 青春ミサイル 20


 これまで、何回、転校を繰り返してきただろう。親父が本格的な転勤族になったのは小六の頃から。年に一回ないし二回はあった。


 転校の多い子供は、とても社交的になるか、とても内向的になるかの二択だ。俺は、もちろん後者で。


 だって、誰かと友達になっても長くて一年、下手すれば数ヶ月でお別れだ。それなら、最初からそっとしておけばいい。


 1-1=0


 100ー100=0


 それが千でも万でも、億でも兆でも、結果は同じだ。人生だって同じ。結果は0だ。


 だから、この学校でも、友達を作ろうなんて気持ちはなかった。そもそも友達の作り方も忘れてしまった。


 友達は作るものじゃない、いつの間にか出来ているものだって? そんなこと、当たり前のことを当たり前と思える奴の言葉だ。


 俺は、そうじゃない。


 無口な転校生にも話しかけてくれる奇特なクラスメイトも一巡し、箸にも棒にもかからないような俺をそっとしておいてやろうと、みんなが思い始めたころ。

 それでも、しつこく声をかけてくる男がいた。俺とは真逆で、明るくて社交的でいつの間にか話の中心にいるような。


 そいつの名前は、佐倉直也。


 なぜか、そっとしておいてくれない。気の無い返事しかしない俺に、挨拶から雑談から妙に絡んでくるのだ。


 その日も……


 俺は、そっと海野美月の横顔を見ていた。窓の外を眺めるようにしながら。目の端に彼女がいるだけで幸せだった。


 彼女を好きになったことは否定しない。


 ただし、彼女に声をかけるとか、まして付き合いたいとか、そんなことは微塵も思っていない。友達を作れない男に恋人なんて作れるわけがないんだ。綺麗な絵画を見るように、遠目に眺めているだけ。


 決して日の目を見ることのない淡い想い。栓をして、鍵をかけて、心の海に沈めれば、辛いことなど何もない。


 きっと付き合っている相手もいるだろう。彼女が恋人と腕を組んで歩いていても、キスをしていても、絵画を見るように楽しむことができる。俺にはその自信がある。なんの自慢にもならないが。絵画の鑑賞者は、絵画の中に入ることはできない。


 その日の絵画は、初夏の光を受け、窓枠の額縁に切り取られていた。


 海野美月。


 長い黒髪と白い肌が綺麗なコントラストとなって。女の子というよりは女性らしさを感じさせる。ボーイッシュでショートカット、いつも日に焼けて真っ黒だった朝比奈恵とは、まるでタイプが違う。唯一似ているのはその目だ。優しさの中に意志の強さを感じさせ、きらきらと日の光を反射するような。


 今日も仲の良い友達の雨宮うずめと楽しそうに話をしている。なんの話をしているのだろう。そう思って見ていると、どかっと前の席に佐倉直也が座った。にやにやと俺の顔を見ながら、


 いま、見てたろ?


などと言う。


 首を振って否定しても、どっちがタイプなんだとしつこく聞いてくる。本命を言うよりは良いかと思い、雨宮うずめを見ていたと話を切ろうとしたが、


 え? マジで?


と、予想外に真剣な表情だ。さらに、帰りちょっと付き合ってよときた。どうやら選択を誤ったらしい。


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