第42話 青春ミサイル 2
猫の目のように、金色に光って。
渚さんの肩越しに見えたのは、泣きはらした子供のような海野美月だった。路地裏の一角に、縮こまって体育座りをしていた。
こちらを見上げた美月の目は金色で、着ている服は、黒地に金の刺繍が入った、いかにもなジャージ。ケイの金色の目と、キラキラ輝く恵の目と、ユラユラと水槽に映って揺れていた美月の目と重なり合う。
美月だよな。
自分に問いかけるように声に出していた。雨に濡れた黒髪と金色の目が街灯の光を受けてきらきらと瞬き、しかし、答えはない。
俺は立ち上がり、渚さんを抱えて、歩くたびに揺れ動く街灯りの下、ゆらゆらと歩いた。振り向かなくても、美月が付いてきているとわかる。
黙々と歩いてタクシー乗り場へ向かった。車を捕まえ、美月と渚さんのアパートへ。
車の窓の外を、点在する光が流れていく。
美月にとってどうだったかは分からないけれど、俺にとっては不思議と穏やかな時間で、いつまでも車に揺られていたかった。
だが、タクシーは容赦なく目的地に着いた。
アパートの中へ渚さんを連れて行き、どうにかこうにか体を拭いて布団へ寝かせた。
その間、美月とは必要なこと以外は話さず、ただ、その不安げな様子と、ケイと美月が混じったような格好が印象的だった。
安心したのか、渚さんはすぐに眠りに落ちた。気付くと、美月と二人だけだ。何を話せば、あるいは何を聞けば良いか、それとも黙って帰るべきか迷っていると、不意に、美月が口を開いた。
ねぇ、ケイだってことは、すぐにわかった? そう、わかったのね。じゃあ、どうして、プレイヤーネームがケイだったかは?
そう問われて俺は、やっと自分の直感が正しかったと確信した。朝比奈恵の音読みで、ケイだ。しかし、どうして名前が違っていたのか。そのことを問うと、美月、あるいはケイ、あるいは恵は、
過去と名前を捨てたかった
と、つぶやいた。




