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第41話 狂い咲きの季節 21


 やっと見つけた。


 と泣きそうな声が聞こえて、顔を上げた私の目に映ったのは、ずぶ濡れの渚だった。雨の中、傘もささずに、ずっと探し回っていたのだろう。


 どうして?


 どうして、私なんかを探すの? そう問いかけても、渚は力なく微笑むだけだ。働き過ぎで、目の下のクマが取れることもない。

 柔らかな眼差しと穏やかな表情は、この世界で生きていくには優しすぎるんだ。渚は、そっと私を抱きしめると、髪を撫でながら、帰ろうと言う。素直に頷くことができなくて、渚を押しやって叫んだ。


 なんでだよ! もっと嫌なやつになれよ。全部、おまえのせいってわけじゃないだろう? 違うだろ。違うって言えよ!


 押しやった渚の体は思った以上に軽く、その場にうずくまるように。


 渚?


 と声をかけた私は、渚の顔が熱っぽく苦しげなこと、渚が塞いでいた視界の先に圭一が立っていることにやっと気付いた。


 暗がりの中で、表情は見えない。


 圭一は腰を落として渚の肩に手を回し、大丈夫ですかと声をかけていた。立ち上がらせながら、横目で私を見る。美月だよな? 一緒に探してたんだよ。


 渚は、具合が悪いのに雨の中を走り回っていたらしい。体が濡れて余計に悪くなったのだろう。あるいは私を見つけて、ほっとして気が緩んでしまったのか、一人で立つのも辛いみたいだった。


 半ば背負うようにして、圭一が渚を連れて歩き出した。数歩先で、首だけ振り返っていう。


 なにしてんだ。早く帰ろうぜ。


 何も聞かず、非難めいたことも言わず、私が立ち上がるのを待っている。この切ない世界で、二人とも、どうしてそんなに優しい。


 ぐじゅぐじゅの泥濘ぬかるみを踏んで、一歩ずつ、私は表通りへと歩き出す。



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