第36話 青春ミサイル 5
ダブルデートを終えてのバイト。
目立った進展はないものの、佐倉直也は雨宮うずめと仲良くやっている。俺の方はというと、なぜか前にも増してぎこちなく。
海野美月との関係は、一進一退。
水族館では悪くない感じだったのに。などと思うあたり、変に意識して、変に期待しているのかもしれない。期待値を、ゼロに戻さなければ。
そんな風に思う時、どうしてだろう、ずっと会えないまま、コーラも奢れないままのゲームセンターのジャージ女、ケイのことを思い出してしまう。
いつかまた会えるだろうか。
考え事をしているとお客さんだ。飲食店は暇な時と忙しい時の差が激しい。続けて何組も入ってくる。
おい、まだか。早く案内しろよ。
と後から来た一組が、柄悪く急かしてくる。はい、ただいまと応じながら、事務所にいるはずの美月と店長に、ホールへの応援を頼みに行った。
普段はノックしてから入るが、今日はそうも言っていられない。遅ぇぞ、早くしろ! と、いきった声が響いているのだ。
がちゃり、ドアを開けると。
ソファに座って足を投げ出している美月と、その前で、小さくなって、まるで土下座でもしているような雰囲気の渚さんだ。その姿に、俺は声をかけられずにいた。二人がそそくさと立ち上がり、美月が、お客さんだねとホールへ向かった。
と、何やら揉めているような声が。
さっきからうるさく声を上げていた若い男女が、案内の順番を抜かそうとして注意され、他の客とトラブルになっていたのだ。
間に挟まれて困惑した様子の美月。
助けに行かなきゃと思いながらも、さっき見た光景が気になって出遅れた。すると、店長がさっと行って美月を引かせ、仲裁に入った。
客の若い男が、標的を店長に変えて怒鳴り声をあげる。連れの女は面白がって囃し立てるし、あわよくば詫びを取ろうというような雰囲気だ。
しかし、店長は意外なほど落ち着いた様子で。他のお客様の迷惑ですからお帰りください、と、きっぱり言い切った。
激昂した男が、店長に摑みかかる。
俊敏に動いたのは美月だった。男の手を、ぱしりと払い落として。帰ってください、と睨みつける。
背後からでも、その怒りがわかる。
何をそれほどに怒っているのか。騒いでいた男女にも、ただのトラブルへの怒りではないものが伝わったのか、捨て台詞を吐いて店を出て行った。
他の客からは、胸のすくような対応に拍手が起こり、店長が頭を下げながら席へ案内していく。
美月が動かずにいたので、ようやく動けるようになった俺は、自分の情けなさを悔いながら、残りの客の案内に向かった。美月の表情は分からなかったが、脇を通り過ぎる時、小さなつぶやきが聞こえた。
……していいのは、あたしだけだ。
思いつめたような異様な声音に、さっと振り返ったが、その時には、もう美月は背を向けておしぼりを取りに行くところだった。




