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第35話 狂い咲きの季節 18


 風早圭一が帰った後、私は泣いた。


 なんの涙か。そんなことはどうだっていい。私は、いつも一人で、その日も一人で。部屋にこもって泣いた。古い名前を捨て、新しい名前を使うようになってから、泣いたのは初めてだった。


 こんなにも近くに圭一がいるというのに。志功とあたしのことを知る数少ない人だというのに。


 すべてを話してしまいたい。


 いっそのこと、すべて。悪いことも嫌なことも辛いことも投げ出したいことも逃げ出したいことも、すべて。でも、私は、私には、勇気がない。


 戦う勇気も無ければ、逃げる勇気も無い。ただ、渚の優しさにつけ込んで、泣きながら抱っこされたがる幼児のようだ。ドアに鍵をかけ、窓にはカーテン、部屋にこもって丸くなっているしかないのか。


 渚、渚、渚。


 わたしの渚、あたしの渚、そして、私の渚。私たちから根こそぎ奪い、だからこそ、根こそぎ与えてくれる人。


 私は、貴方が私をどう思っているのか、私が貴方をどう思っているのか、知りたくて、知りたくない。二律背反の気持ちに引き裂かれる。

 どうして、わたしを愛してくれないのか。どうして、あたしを叱ってくれないのか。どうして、私を抱きしめてくれないのか。


 泣きはらした目が腫れぼったく、髪も乱れ、不細工な私を鏡が写し出していた。鏡の中のソレは、私から目を背けて、もう一度、声を殺して泣いた。


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