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第34話 青春ミサイル 6


 佐倉直也と雨宮うずめ、2人の間に進展はなかったようだ。言えば自分に返ってくるから口には出さないが、チキン野郎め。


 雨宮は雨宮で、店長が好きだと言っていたわりに、最初の5分を除いて一番楽しんでいた。


 楽しめるのは才能だ。


 雨が降ろうが、槍が降ろうがは言い過ぎとしても、物事を楽しめるのは素晴らしいことだ。


 もちろん努力もあるだろう。楽しめるように普段から為すべきことをしているとか、状況を楽しむように努めるとか。


 だが、きっと才能だってある。


 俺は、楽しめるはずの状況を楽しめず。楽しめないはずの状況も楽しめない。心の端に鎖のようなものがあって、無造作に足を踏み出すことを躊躇ためらわせる。この鎖が何なのかは分からない。素直な気持ち、表情、想い、欲望、純粋さを押し留める何か。


 佐倉のように素直に、雨宮のように素敵に生きていければ、どんなにか。


 雨宮は、理屈でなく、自分の気持ちに正直でしなやかだ。店長を好きだと言う時の心に嘘はなく、佐倉と一緒に水族館を回る楽しさにも嘘はない。

 あこがれ的な好きと、ともだち的な好き。

 たぶん、どちらにも嘘はなく、どちらも成り立つのだろう。心を言葉で縛るのは愚か者の行為。言葉に吊られるのがオチだ。


 直也のために、その手をすり抜ける雨宮をいつか捕らえられるよう祈りながら、俺は家路に着く。


 海野美月を自宅へ送り届けて一人。


 暗い田舎道をとぼとぼ歩いていると、海野を送り届けた時のことが頭に浮かんできて仕方がない。


 あまり上等とは言えないアパート。別れ際、また学校でと挨拶を交わしていると、人の気配を感じたのか、中からドアが開いて、出てきたのは、美月の叔父、店長の海野渚さんだった。


 困惑した様子だったけれど、それは、こちらこその話。一瞬、父親かと思ったけれど違った。いつもの優しい声で、送ってきてくれたんだね、ありがとう、って。じゃあねと奥から美月の声がして、玄関のドアが閉まり、鍵をする音が聞こえた。


 なぜ、叔父さんと一緒のアパートにいるのか疑問に思いながら立ち去りがたく。しかし、光を漏らしていた窓のカーテンが音を立てて閉められ、追い立てられるようにその場を離れた。


 そしていま、一人で、とぼとぼと、田舎道を、虫の音とともに、歩いている。


 やっぱり、状況を楽しむのは難しい。


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