第33話 狂い咲きの季節 17
深海魚のコーナーは面白かった。
どうして、あんなにヘンテコなのだろう。ブサイクで格好悪くて。タコとは思えないような潰れ面のメンダコ、ぬるぬるでぷっくぷくのホテイウオ、おもちゃみたいに大きな目をしたヨロイザメ。
陸にあげても7日は生きると言われるナヌカザメ。その卵は奇妙な形で、人魚の財布と呼ばれている。
そんな奇妙奇天烈、愉快な生物の中で、あたしの目を釘付けにしたのは、ダイオウグソクムシだ。巨大な海のダンゴムシ。
死んでるのか生きてるのか、外見からは分からない。意外と速く泳ぐとか、身体を丸めたりもするらしいけど、動かない時は、ひたすら動かない。
じっと見ていても触覚すら動かさず。ピクリとも動かない岩のように頑固な姿に、本当は、もう死んでいるんじゃないのかと思う。その姿は、まるで、
あたしみたいだな。
思わず、つぶやいていた。そのつぶやきを拾ったのか、圭一が怪訝な顔で見てきたので、そろそろ合流しようかと言って逃げ出した。
圭一といると調子が狂う。
あたしなのか、わたしなのか、私なのか。剥き出しの自分を鏡で見せられているみたいだ。深海魚は、浅瀬では生きられない。
ナヌカザメは、陸にあげれば、わずか7日で死ぬんだ。あたしは、きっと3日ともたないだろう。
だからなのか。
帰り道、みんなバラバラに別れて行き。最後まで一緒になった圭一に、まともに挨拶もせず。
あたしと渚が一緒に暮らしていることを、圭一はどう思ったろう。
誰か、あたしを深海の生物として展示してくれないものか。ひねくれて、ねじけて、いじけた、ヘンテコな生物。
あたしは、どうして、あたしなんだろう。




