第32話 青春ミサイル 7
どうして、こうなったのか。
慣れてきたとはいえ、2人だと沈黙が続く海野美月と、水族館のベンチでぼうっとしている。
犯人は佐倉直也だ。
雨宮うずめにダブルデートに誘われた。そう言って有頂天になっていた。それはいいが、おまけの2人のことは考えてくれたのだろうか。
この俺、風早圭一と、海野美月と。
雨宮はいろいろ勘違いしているはずだ。佐倉と海野をペアに仕立てようとしている、と思ったが。
現場にあらわれた雨宮は、いつもの自由気ままな様子はどこへやら。海野の陰に隠れて、こそこそとやってきた。
海野に言われるまま、されるがまま。
ダブルデートを持ちかけた本人が、いまさらになって照れてきたのか。ムードメーカーの雨宮がこの様子では、とギクシャクしていたのも最初の5分ほどで。
誰と誰がペアだとか、そんなことはおかまいなしに。雨宮は、魚だぁ! 亀だぁ! 蛸だぁ! と声をあげながら、子供のように、あっちへ行き、こっちへ行き。
最初のうちは全員で付いて回っていたものの、そういった馬力というか気力というか、ありていに言って元気の少ない俺と海野は、次第に置いていかれるようになり。雨宮のお守りは佐倉に任せて。
二人でベンチに座っていた。
黙っていると気まずいのと、走り回って喉も渇いたので飲み物を買おうと思い。海野に何か飲むかと聞くと、少し迷ってから、コーラでと返ってきた。俺はなんとなくライフガードを選び、あの日から会えていないジャージ女、ケイのことを思い出していた。
沈黙を飲み物でガード。
何か話題がないかと館内のあちこちに目をやっていると、深海生物のコーナーだ。特設展だって、見に行ってみる? と海野に聞くと、こくんと頷いた。
深海生物のコーナーは地味ながら興味深いもので、定番のメンダコからホテイウオ、ナヌカザメの卵まで、愉快な生物が展示されていた。
ゴジラっぽい顔つきのヨロイザメの剥製もあり、わりと面白い。海野はというと。
死んだように動かない、ダイオウグソクムシの水槽に張り付いて。じっと動かずに。あたしみたいだな、ぽつりとつぶやいた。
え? と声に出た俺に気付いてか、あたふたと立ち上がると、うずめたちと合流しようか。そう言って、特設コーナーを出て行く。
なにか引っかかる感じがあった。
しかし、それを考える間もなく、楽しげな様子の佐倉直也と雨宮うずめに合流して、アシカのショーやペンギンの散歩などを堪能し、その日のデートはお開きとなった。




