第31話 狂い咲きの季節 16
風早圭一は、事故のことを知った。
誰から聞いたのか分からないけれど、わたしの叔父でキャッツの店長、海野渚が、平坂志功を轢いて死なせてしまったことを。
しかし、圭一はそのことを話題にすることはなく、胸に納めたようだった。
見た目より強い。
そう思った。わたしのように、当て付けのように渚と接することもなく。わたしは失われた仲の良い叔父と姪を演じて。
美月として、圭一とどう接すれば良いか分からないまま。ただ、いたずらに日が過ぎていく。お互いに話し下手で、ぽつりぽつりと言葉を交わすくらいだ。
ジャージに着替えて、カラコンとウィッグで武装しなければ、話すことすらままならない。
わたしは弱い。
いくら剣道で修練しても弱いままだ。何も受け止められないし、何も吐き出せない。じっと風が凪ぐのを待つ。
圭一との関係もバイト仲間以上になることはない。そう思っていたのに。降って湧いたような話で、ダブルデートをすることになった。犯人は、もちろん雨宮うずめだ。わたしの親友にして、お節介な早とちり娘、しかし、可愛い生き物である。
うずめは、同じバイト仲間の佐倉直也がわたしのことを好きだと勘違いしている。そして何かと世話を焼いてくっつけようとしていた。
でも、ここ数ヶ月で確信した。
佐倉くんは、間違いなく、うずめのことが好きだ。うずめは、彼がわたしを見ていると思っていたみたいだけれど、わたしと一緒にいるうずめを見ていたんだ。
表情や声の調子、態度を見ていれば、佐倉くんが好きなのはうずめだと誰だってわかる。気付いてないのは、当の本人だけ。
ダブルデートに行くのは良いけど、この勘違いだけは正してやらないと。
わたしの話を最初は笑って聞いていたうずめだったが、佐倉くんがうずめを好きだという証拠を、あれやこれやと挙げていくと、思い当たる節もあってか、だんだん静かになり、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。
本当に、そう思う?
かぼそい声で聞いてくるので、愛媛の100%ジュース並みに間違いない! と断言。うずめは、
ど、ど、ど、どうしよう。
うちからダブルデートって誘っちゃったよ。だって、そんな、そんなのわかんないし。ど、ど、ど、どうしたらいいの? 断る? 断ったらいいの?
などと、目に見えるほど狼狽して、あわわわとなっていた。自分から誘っておいて断るとか、何を言っているのやら。わたしは、ちょっぴり意地悪な気持ちにもなって。自分で誘ったんだから、行かなきゃダメでしょ〜と止めを刺した。
がっくり、うなだれて。手を震わせているうずめは、まさに罠にかかった小動物のよう。自分から罠にかかりにいったようなものだけれど。
まったくもって、可愛い生き物である。
と思いつつ、圭一の顔が浮かんでくるのを止めることができず。わたし自身、少し頰が熱くなっていることに気付いていた。




