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第25話 狂い咲きの季節 13


 わたしは、東雲しののめさんが苦手だ。


 バイト先のキャッツの副店長で、眼鏡美人の東雲翼さん。どちらかと言うとおっとりした性格のわたしと違って、きびきびと手早く能率的に事を済ます人。


 悪い人じゃないのは分かってる。苦手なのは、性格の違いなのかな。


 いや、たぶんそうじゃない。

 渚のことを聞かれるのが嫌なのだ。わたしと渚が二人で暮らしていることを知っているのは東雲さんだけ。事あるごとに、渚の家での様子とか趣味とかいろいろ聞かれる。

 なぜ叔父と姪が二人で暮らしているのか、そんなことまでは聞いてこないけど、疑問に思っていること、聞きたくて仕方ないことも伝わってくる。


 だから苦手なんだ。


 いつ聞かれるか、どう返事すれば角が立たないか、そんなことを思うから。だから、


 ……本当に、そうかな。


 自分の心ほど分からないものはないし、分かりたくないものもない。わたしは自分の心を覗き込みたくない。だから、東雲さんが苦手なんだ。


 東雲さんは渚のことが好きなんだろう。じゃあ、渚はどう思っているのかな。自分の心すら分からないのに、人の心なんて分かるわけがないよ。東雲さんの顔を見て、声を聞くと、自分の内側が、どうしようもなく、ざらつくんだ。


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