第24話 青春ミサイル 11
夏休み明け、まだバイトを続けている。
なかなか居心地がいい。相変わらず海野美月とは打ち解けないが、無言でいても辛いということはなく。
海野の叔父だという店長の海野渚さんは穏やかな優しい人だし、副店長の東雲翼さんは、ちょっとキツイところはあっても、さばさばした性格で。何より美人だ。
同級生の佐倉直也と雨宮うずめは、ともに明るく社交的で、俺みたいな無口な男にも平気で絡んでくる。
こうした繋がりが面倒くさいと思う反面、嬉しくもあって。最近は、常連の奥様方から指名を受けて注文を取りに行くほど。
にゃは、人気者だねぇ。
と声をかけてきたのは雨宮うずめだ。誰とでも屈託なく付き合い、距離を縮められるのは、もはや才能かと思う。
それはさておき、ふわふわした雰囲気の雨宮だが、意外と仕事は迅速丁寧だ。一緒にテーブルの小物を補充して回る。
そう言えばさ、
と、疑問に思ってきたことを口に出してみた。他の人には言うなと頼まれていた幼馴染の朝比奈恵と平坂志功のことだ。
夏休みに地元を訪ねてみたこと、どちらも引っ越していたことを伝えると、少し黙り込んで、雨宮はぽつりと意外なことを言った。
うちは渚さんが好きなんさ。
驚いた俺を見て、しまったという顔をして。雨宮は、秘密ね、美月にも言ってないからなどと言う。
それにしても店長か、直也も可哀想にと思いながら合掌する。なんで手を合わせてんの? と言われて、何でもないと誤魔化しながら、それと俺の幼馴染とどう関係があるのか聞いてみた。雨宮は、その理由を話してくれた。
渚さんって優しいじゃない?
抱擁力があるっていうか、大人っていうか。まあ、大人なんだけど。顔も美月と同系統でハンサムだし。
店長のことが気になるようになって、でも、大人の男性だし、どうしていいか分からなくて。ネットで名前検索してみたんだ。
SNSとかやってないかなって思って。そしたら、ネットニュースの記事が出てきて。渚さん、昔、交通事故で人を死なせたみたいでさ。
その相手が、平坂志功って。
話し終えて俺の様子を気にかける雨宮だったが、俺自身は、雨宮が何の話をしているのか、誰が誰を死なせたのかよく分かっていなかった。
志功が死んだなんて、そんなことは有り得ない。きっと同姓同名の別の誰かのはずだと、そう思い込もうとしていた。
しかし、そもそも珍しい名前だし、事故の場所や被害者の年齢から、別人ということはまず無さそうだった。家族が引っ越していたこととも辻褄が合う。
俺は、手のひらに掴みかけていた物が、音を立てて崩れ落ちて行くのを感じていた。




