第21話 狂い咲きの季節 11
女に生まれなければ良かった。
あたしは、いつもそう思ってきた。ただ、女の方が便利なのは否定しない。長い黒髪に控えめな化粧、大人しめの私服から、金色のウイッグ、金色のカラコンをつけてきつめの化粧をしたら、真っ赤な帽子、黒地に金の刺繍が入ったジャージ姿へ。
貸しロッカーに着替えを準備してある。
よっぽど近くでガン見するならともかく、遠目には、海野美月と思う奴はいないだろう。あたしは、この街で誰も知る者のいない朝比奈恵に戻る。
いや、風早圭一だけは別だったっけな。けど、あいつだって小学生の頃しか知らないんだ。
良くも悪くも女は化ける。
あの頃、あたしは真っ直ぐなスポーツ少女で、いつも日に焼けて真っ黒。餌に向かう猫も真っ青なほど、標的に向かって真っしぐら。元気で、素直で、正直で、走るのに邪魔な髪は短く切って、男子と間違われるほどだった。
さすがの奴も、気付くまいて。
少し得意になって。同時に、少し寂しい。ふん、ばかばかしい。あたしは人知れず死んだ地中の虫だ。掘り起こしたって何も良いことはない。けど、もしも、誰かが掘り起こしてくれたら、そうしたら、あたしは、また息ができるのかな。
着替え終わったあたしは、いつものように街をさまよう。カラオケやゲーセンへも一人で行き、自由と哀しさを満喫する。
ゲーセンでは、やり込んでいる音ゲーの店舗ランキングをチェックして、誰かに抜かれていたら抜き返すまでやる。恵の音読みで、プレイヤーネームはKだ。朝比奈恵として唯一他人とつながっているのはこれだけ。
寂しく仄暗い喜び。
ところが、それを邪魔してくる奴が現れたんだ。プレイヤーネームはK1で。格闘技好きかよと一人で突っ込んでやった。けいいちとも読めるなと思うあたり、あたしは少し変になっているのかも。どこの誰だか知らないが、ナンバーワンは譲らない。




