第17話 狂い咲きの季節 9
桜の樹の下には屍体が埋まっている。
梶井基次郎の想像した世界がどんな世界なのか、私には分からない。この短編を読んで思うのは、冬には虫であり、夏には草と化す冬虫夏草だ。
寄生した菌類が虫を殺し、死んだ虫から茸が生えるだけのことだが、私の想像の中では、屍体を苗床にして、妖しく美しい花々が狂い咲く。
言葉は、人によって少しずつ違うイメージを纏う。核となる部分が重なり合いつつも、別の生き物のように思える。一口に猫と言っても、実際の猫が、あの猫とこの猫とその猫とが違うように。
私には、道行く人々、皆が、足元に屍体を引き摺っているように思えてならない。過去という屍体を。
血を吹き出してでも、足元の屍体を引き千切って捨ててしまいたい。そう思う。しかし、おそらくその時こそ気付くのだ。
引き千切って捨てられる屍体こそが自分自身なのだと。そして、苗床を奪われた花々は、萎れ、枯れて、消えてしまう。だから、重たくても、苦しくても、私は足を引き摺って歩く。
なるほど、貴方もそうですか。そうでしょう、そうでしょう。でも、どうか、私の屍体を一緒に運んでは貰えませんか。それとも、すでに誰かが一緒に運んでくれているのかしらん。
それは、もしかすると渚なのかな。そうじゃない。そうは思いたくない。もう考えるのは止めよう。




