98話 切り込み隊長の猛攻
「今日は休みと聞いていたが……お前がそんな格好をするとはな」
カウフタンが言う、そんな格好とはどういうことか。
わからずクオンの方を見ると説明してくれた。
「カウフマン殿も、切り込み隊長殿も、まあ私服なんてあまり考えていないタイプっすから、そのことを指摘しているんすよ」
そういえば、切り込み隊長の私服、なんとなく町の人たちよりも少し小奇麗だ。
それでいて、あの無骨な戦士の雰囲気が出ている。
剣を下げてなくても、歴戦の勇者という風貌を残している。
「このコーデこそ、オフィリア様とステファニさんのコーデっす」
「そ、そこまであのふたりが関わっているのか!?」
「はいっす」
「本気すぎるぞ……」
驚愕のアイに、絶句するウルシャ。
カウフタンへの猛攻っぷりに、防戦一方のカウフタン。
「セディさんだー」
そして、今までカウフタンにつきまとっていた子供ふたりが、切り込み隊長の足にまとわりつく。
大男の彼が小さくしゃがんでも、子どもたちよりも大きい。
そしてまた大きな手で頭を撫でてやり、にこりと笑う。
強い男は小さな子どもたちに優しい。
単純でありふれているが、実際に見せられるとこれはきゅんきゅんくるはず!
「いいっす。並の女の子なら一発で落ちるっす」
「クオン、だがカウフタンは並じゃないぞ」
「わかってるっすよ」
何言ってるのきみたち?
すごい楽しんでるよね?
俺も楽しんでいるけどね!!
この猛攻に、カウフタンはどう迎え撃つのか!!
「茶番だな。ステファニの差金か?」
「「「「おおおっ」」」」
見ていた俺、アイ、クオン、ケアニスが感嘆の声をあげた。
確かにカウフタンは並じゃなかった!
敵陣の中で単騎で戦い続ける男、カウフマン。
カウフタンの心の中で、男は戦場を駆ける。
男に戻りたいと思っているカウフマンにとって、ステファニは最大の強敵として立ちふさがる。
それを正面から迎え撃つ、心の中のカウフマン。
「あのカウフマンの迅速な用兵は、ステファニから学んでいたのかもしれないな」
アイがそんなことを言う。
確かにそうなのかもしれないと思わせる。
「セディ。言い寄るのは止めはしない。裏にステファニとオフィリア様がいる以上、止めるのは無理だろうからな」
「…………」
「だが、私は結婚などしないぞ」
「……ふっ、あなたの心の内はわかっているつもりですよ」
なんだと!?
切り込み隊長の反応に、見張っている俺たちは驚愕する。
「こう言うとあなたに失礼かもしれませんが、あなたからは兄であるカウフマン隊長と同じ精神性を感じます」
「あの人はこうと決めたら必ず実行する。心変わりをすることはなく、変わらないまま今までやっていたことと反対のこともやる。目的のためには手段は選ばない。そんな心の強い人でした」
「セディ、もしかして……」
気付いているのか?
そうなのか?
事情を話した人たちの中で、カウフタンがカウフマンとはっきり気付いたのは……ステファニだけだと言うのに。
「ただ剣の力、武の力だけではなく、全てにおいて強さを求めたカウフマン隊長……きっと自らもそうありたいと思い、さらには、そういう人を求めた。その中に俺がいたことを嬉しく思ってますよ」
「セディ」
今のは……カウフタンの中のカウフマンの心に響いたぞ!
すごい、すごい攻防だ。
これならカウフタンにも心に隙が生まれるかもしれない!!
「これはもう気付いていると言っていいかな」
「うんうん、気付いてるぞ切り込み隊長」
「いえ、どうでしょうか」
俺とアイに口をはさむウルシャ。
「気付いているなら、こんな遠回りなことはしないのではないでしょうか」
「むっ、なるほど。切り込み隊長っぽくない」
アイと俺は、ウルシャの慧眼に感心しつつ、カウフタンたちの様子を見守る。
「しかし、カウフマン隊長が求めた強さはまさに剣だけではないのです。その強さの体現者は……ステファニさんが近しい」
「セディ……わかるか、それが。ということは私のことに気付いて――」
「だがしかし、彼女は女性です、カウフタン隊長代理。彼女はカウフマン隊長というあなたの兄とすでに結婚しています。だからあなたの恋はどうしたって片思いに終わるんですよ!」
おおっと、これは辛い。
すごく辛い。
カウフタン、絶句。
気付いてない上に、一番痛いところを突かれて、開きかけた心の扉が強固に閉ざされた!!
「だからこそ、彼女のことは諦めて、この俺のことを見てくれませんか!」
「セディ。うんわかった。わかったから今日のところは帰ってくれ」
花束をひったくるようにもらい、ぺぺっと手で帰れ帰れするカウフタンがつれない。
切り込み隊長セディは、とぼとぼと帰っていった。
見ていた俺たちも声がでなかったが、最初にアイが口を開いた。
「すごくいいところまで行ったぞ、セディ。あきらめるな」
アイの心優しいエールに、皆がうなずいた。




