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94話 カウフタンの拒絶

 もし手にグラスやカップを持っていたら、そのまま落としてバリーンと割れることを容易に想像できるくらい、ケアニスがショックを受けていた。


 そんなにしたかったのか、カウフタン見学会。

 適当にでっち上げたこちらとしては、そんな期待するほどのコンテンツは用意できてないので申し訳ない気分でいっぱいになる。


「私はカウフタンさんと会えないのですか……」


 気力を振り絞ってショックに耐えるようにプルプル震えている。

 可愛そう過ぎて見るに耐えない。


「そこまでお会いすることを望まれてましたか……本当に申し訳ございません」


「い、いえ、こちらこそ突然押しかけるような感じで、女の子になった子をじっくりと観察したいというワガママを押し通そうとしただけですから」


「いやケアニスは悪くないぞ。悪いのは見学拒否をしたカウフタンだ。アイたちの事情を知っているくせに」


 アイがフォローを入れるが、ケアニスは気丈に首を横に振る。


「アイさん、そう言ってくださってありがとうございます。しかし、いくら堕天した悪魔といえど、見られることを拒絶するいたいけな女の子の家に押しかけて丸一日密着取材を強行するのはあまりにも非情すぎると思いますし」


「う、うん、それは非情だ」


 思わず同意してしまうほどのケアニスの欲望を聞いて、アイはさっそくフォローを止めた。

 俺もドン引きだが仕方ない。

 このまま落ち込まれている状態で、キルケたちの総戦力の襲撃を受けたら、ケアニスのモチベーションの低さで押し負けるとか目も当てられない。


「ケアニスさん。もしカウフタンが見学を拒絶しても、俺は女の子になっても大丈夫な方法や根拠を探す手伝いをします」


「ほんとですか?」


「はい」


「あ、ありがとうございます。嬉しいです」


 ショックから完全に立ち直り、まるで真力が漏れ出ているようなキラキラ感の笑顔を見せてくれた。


「あの、ケアニス様」


 オフィリアが、ケアニスにおずおずと話しかけた。


「カウフタン見学会まではお約束できませんが、会えるようにすることは私がお約束いたします」


「ほ、ほんとですか!」


「ええ。そこまで望まれているのであれば、私どもも協力しないわけには参りません。アイ様たちを助けていただいたお礼にはなりませんが」


「いえいえ! アイさんたちはこの世界の救いの道を示す希望です。『神器』である私が守るのは当然ですから。しかし、ご協力感謝します。ぜひ、カウフタンにお会いしたいです」


「はい、おまかせください」


 全てにおいて大人の対応をするオフィリア。

 彼女は、父である前エジン公爵を殺めたカウフマンを許し、衛兵隊の隊長という権限をそのままに部下として使っている。

 常識だけではなく、状況に合わせた冷静で的確な対応力をオフィリアが持っているということだろう。


 だからこそ、この女の子になりたいがために堕天した『神器』に対しても、かゆいところに手が届くような対応ができるのだろう。

 常軌を逸した天才魔法使いと、女の子になった衛兵隊隊長という、じゃじゃ馬どころじゃない暴れ馬たちを手懐けているトップは、やはり違う。


 このままケアニスも手懐けてくれないかな。


「それで食事と湯と部屋を用意してあります。お休みになられてから、カウフタンとの面会時間をご用意いたしますので」


「わかりました。よろしくお願いします」


 素直に言うことを聞くケアニス。

 やはりオフィリアはあなどれない。


 そして会談は終わり、割り当てられた部屋に通された。

 でも何故か、皆が俺の部屋に集まる。

 アイが、寝る準備できたら俺の部屋に集合とか言い出したからだ。


 ということで、俺、アイ、ケアニス、ウルシャ、クオン、と集まった。


「で、これは何するの?」


 お泊り会だから恋バナとか?

 俺、城下町でゆっくり過ごすの初めてだから、なんだか旅行に来た気分ではあるんだよね。

 だからそういう流れになったら、それなりに聞き入ってしまうかも。


「アイは気付いたんだ」


「何に?」


「カウフタンが何故拒絶しているのか」


「何故拒絶してるの?」


「わからん。いやそうじゃなくて。何故拒絶しているのかを知る方法に気付いたんだ」


「……あ、わかった。魔法か。心の中を読む?」


「そうじゃなくて。クオンがアイたちと合流する前に、カウフタンが城下町でどう過ごしていたか、知ってるんじゃないかと」


「あ、そういえばそうか」


 クオンはオフィリアを守るため、俺たちと別れた後はずっと城下町にいた。

 当然、カウフタンがここで何をしていたか、何があったのか、知っているはずだ。


「……まあそうっすよね。そこ聞くっすよね」


 クオンは、まるで重い腰でもあげるような口調で、そんな反応をした。


 拒絶の理由に、クオンは気付いているということか。


「かいつまんで話してくれ、クオン」


「……承知っす」


 若干渋りながらも、クオンは話し始めた。


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