90話 天使vs天使
困惑する俺に気づくことなく、アイは話す。
「亜人たちの力には興味がなかったが、研究するに足る目的ができたぞ。魔法でガンガン操れれば、無敵の軍団ができたりするぞ」
危ない方向に興味持ってませんか?
「それで、亜人の力をどうやって操っているんだ?」
「イセさんしか知らないのでは?」
アイとケアニスがこっちを見てるのがわかる。
運転に集中しててよかった。
今のふたりと目をあわせたくない。
「俺も知らないよ。そうしようと思ってできたわけじゃない」
クオンが言ってた、捕まる寸前に力抜けたという話から、鬼たちに襲わせる前に、力よ抜けろーと念じただけだ。
それがまさかおにゃのこ化するとは思わず。
「使っている本人もわからない。なるほど研究対象ですね」
「だな」
「では、女にする力を使う相手は是非私を! アイさんの研究のための礎になりますっ!」
礎になる気がまったくない好奇心のみ前に出てる視線を感じる。
目だけじゃなくて体ごと、キラキラ輝いているに違いない。
「いいだろう。イセ、その時は力の使用を解禁しよう」
そして俺の大将は、興味本位で力を使わせようとする。
まともな『神器』はいないのか……
ここは俺が堪えねばならぬところか?
『神器』と違う俺の役目ってそういうこと?
サミュエル卿の忠告のおかげで、変なことを考えてしまう。
「おおっ、もうこんなところまで……次の森を抜ければ、城下町につくっすよ」
「「早っ!?」」
クオンが外を見て場所を確認してくれた。
ケアニスが声を出して驚く。
何故かアイも一緒に驚いていた。
「自動車すごいですね。私も欲しい」
「だろ? イセはすごいんだ」
こういう褒められ方は悪い気がしない。
これくらいの好奇心で抑えてくれると助かる。
「では近くまでついたら、一旦止めてもらい、僕がカウフタン殿とオフィリア様に報告に行ってくるっす」
クオンはその宣言どおり、城下町の城壁が見えたあたりで止まったハイエースからひとり飛び降りて行ってしまった。
ライトとエンジン音は目立つので止めてクオンからの連絡を待つことに。
「箱型の家ごとこのスピードで動けるのは便利ですね。天界の技術ならこれくらい作れてもいいのですが、発想がなかったですね」
「元の世界では、広い後部座席を改造してキャンピングカーにしてるっていうのもあるなぁ」
俺はキャンピングカーについて簡単に説明した。
まさに家ごと動ける代物だと、アイたちが喜ぶ。
「他にも業務車両として使われてて、工事工具類を詰め込んだり、緊急医療機械類も一緒に積んだ救急車になったり……」
と説明すると、アイとケアニスだけでなく、ウルシャも食いついてきた。
「工兵や医療兵を短時間で運ぶことができ、しかも運んだその先ですぐに作業ができるというのはメリットが大きいですね」
「まさにそんな感じですね。近所で工事してる場所とか、家を立てている現場とかでも、よく見かけました」
「イセの世界は……戦争上手が多くいるんだな。いかに争いが多く起こっているかがわかる」
いえ、それは戦争とか紛争とか少ないというか、そういうのテレビやパソコンやスマホの中でしか見たことないよっていう世界観で暮らしてきてる人の環境での話だったりするのだが……
今までの俺への感心もあって、とてもそういう説明のし辛い状況が生まれつつある。
「まあ、戦争や紛争は、世界規模で見るとそこらで起こっているかな。俺の周りにはないけど」
と説明をすると、大変な世界から来たなぁと感心の視線を浴びていたたまれなくなる。
「精鋭のみの単独行動をする時にも、こいつは利用できますね。まさに我々の同盟にうってつけです」
言いながら、ケアニスは少し警戒気味に外を見る。
視線の先は、エジン公爵領城下町ではなく、反対側。
それも森の方ではなく、少し上の方。
その様子を見て、ウルシャも外に警戒の視線を向けて……
「っ!? まさか」
「気づかれましたか? さすがウルシャさん。では、アイさんとイセさんの護衛をよろしくお願いします」
言いながら、ケアニスは扉をあけて外に出た。
もうここまでくれば、俺もアイもわかる。
「キルケたちが来てるのか?」
「ええ。あちらも少数精鋭のようです。なのでエジン公爵領を攻めるつもりのものではないですね」
キイィィン! と空気を圧迫するようなものがケアニスから発せられる。
天使の武装を展開したようだ。
見た目にはわからないが、威圧感が一気にあがるから、素人でもわかる。
「迎撃します。ひとまずここを動かないように」
ケアニスは翼をひろげて、砂埃をまきあげて夜空へと飛んでいった。
そして上空で光と光がいきなりぶつかりあう。
小さく中途半端な花火が上空を少しだけ彩る。
こんなのに俺、命狙われてたのかと思うと、ブルッときた。
「いやぁ……ケアニスが仲間になってくれてよかったな」
「まったく」
「天使様たちは、伝承で伝え聞く戦士たちそのものですね。私の剣では対応できません」
唖然とした俺たちは天使たちの戦いを遠目で見ていた。




