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89話 亜人の力

「逆にアイさんが知らないのが意外でした」


魔素(マナ)を使うからか? 魔法を構築し直しに成功してなかったら、興味を持ったかもしれない」


「生き物の体にアクセスするという意味では、魔法よりもずっと効率的で能動的ですよ」


「アイはそういうのに興味なかったから」


「なるほどです」


 アイは洗脳魔法に傾倒してるから、体の変化そのものには興味なかったんだろうなぁ。


「で、亜人の『力』と、イセの『力』とどう似てるの?」


「それは――」


「ちょっと待った」


 話だそうとしてたが、俺が待ったをかけた。

 ケアニスは不思議そうな顔をし、アイは何故止めるって顔をしてこっちを向く。

 運転中だから、ふたりの方をずっと見ていられないのが辛い。


「亜人ってどんな?」


「え? 知らないんですか?」


「うん。俺、こっちの世界にきて短くて」


 ケアニスに説明をする。

 俺はまだこっちに来て1ヶ月前後くらいしか経ってない、この世界のド新人なんだってことを話した。


「鬼、操ってたから、それくらいはわかってると思ってた」


 アイも俺が亜人を知っていると思ってたみたい。


「だって、鬼は亜人だぞ?」


「モンスターか何かと思ってた!?」


「ああ、それは近い存在だからな」


「ざっくりしすぎてますが、概ねあってますね」


 アイとケアニスが、簡単に説明してくれた。

 俺が操っていた鬼は、亜人らしい。

 亜人だからこそ、ああいう人よりもずっと強い身体能力があっても不思議じゃなかったようだ。


「じゃあ、俺がやってみたいに呼び出したり姿を消したり……」


「それはハイエースの『力』だ」


「…………」


 やっぱりわからない。


「えっと、話の腰を折ってごめん。ケアニスさん続けて」


「わかりました」


 ひとまず、俺の鬼たちが亜人という種族であることはわかったのでよしとする。

 あとでウルシャやクオンにでも細かい話を聞いておこう。


「亜人は、魔法とも真力とも違う『力』があります。体に宿る潜在的な力を直接操って、己の肉体そのものを変化させる力です」


 例えば五感をさらに強くしたり、爪を鋭くさせたり、牙を生やしたり。

 皮膚に獣のような強い毛を生やしたり、翼や尻尾を生やしたり、欠損した体の一部を直したり。

 そういう力らしい。


「変身とか変態とかそういうのか。狼になったり虎になったりするわけか」


「いや、そこまでは」


 ケアニスに否定された。

 狼男はいないらしい。


「それって魔素(マナ)を使っての魔法の亜種かと思ってた」


「私たちもそう考えていました」


 ケアニスの私たちというのは、天使たちのことだろう。


「しかし、あの力は魔法の破壊によっても止めることはできませんでした」


「そうか!? そういうことか!」


「はい。魔法に依存しない力です。もし魔法の破壊によって使えなくなっていたら、アイさんのような天才以外は使えない、秘術となっていたでしょう」


「しかも、アイの魔法と違い、あっちは肉体に直接作用……おいそれと使えなくなっていただろうな」


「その力と、俺の力が関係しているっていうのは鬼を操っているからか」


「いえ、そうではなく、女の子にする方です」


 ケアニスは、こっちが本題とばかりに声を弾ませる。


「亜人の力は、身体能力をあげたり、変化させたりして、元々人間くらいの力しか持ってないのに、さらに上の力を振るえるようなものです」


「女の子に変化させているのは、亜人の力と同じ……」


「そうです!」


「しかし、亜人の力は、己だけだろ?」


「だから、魔法によって亜人の力を操っているんですって」


「魔法ってそこまでできたのか!」


「アイさんができてるのがそれですよ!」


「そうか! 亜人の力に対して魔法を使うっていうのは考えてなかったなぁ。思いつかなかった」


「ですね。まさにイセさんが持ち込んだ新たな概念と言えるでしょう」


「だな! うちのイセはすごいだろう!」


「はい!」


 純粋無垢な少年少女に感心されている俺。

 運転に若干集中できないくらい、リスペクトの視線が痛い。


 まさか、エンタメ欲望の果てに生まれたおにゃの子化が、人間と天使の天才たちから尊敬されるとは、誰も思わないだろう。

 現代知識で異世界無双は思わぬところに波及する。


 確かに、俺は大きな波を起こす存在なのかもしれない……


 こんな波、まったく想定できないから、どうしていいかわからないよ!


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