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8話 説明したら引かれた

 リアルな「くっころ」を見て、感慨深い気持ちを抱いていると、アイがウルシャを抱きしめた。


「もう大丈夫だ、ウルシャ!」


 若干震えているウルシャを熱心に励まし、慰めるアイの姿に、子猫を守る母猫の姿を見た。

 立場が逆になってるな。


「イセ! 悪いことには使わないって言ってたじゃないかー」


 確かに、アイを同じようなところまで追い詰めた時に、言った。

 悪いこと……女の子をレ○プ寸前まで持っていくのは悪いことだ。


「反省します」


「心が籠もってない!」


 この世界にもそういう日本的な美意識である、心を込めるという文化があるらしく、少しホッとした。

 であるが故に、俺の行為にも一定の理解をしてもらえるんじゃないかと思った。


「そのですね……先程のはウルシャに俺の『力』を見せないといけないという状況に追い込まれたし、もし示せなければ、送り返されるわけで、そうすると俺、死んでしまいます」


「む……」


「あの状況でやれる限りの全力を出した結果なので……少し大目に見ていただけると幸いかと……」


「そうだな。それはわかるぞ。しかしやりすぎは良くない。しかも……あれで鬼ごっこという遊びとは……」


「あ、そうではないです。あれは鬼ごっこという遊びを越えた、なんて言うんですかね……」


 専門用語的には『ハイエースする』なんだが、どう伝えたらいいものか悩む。


「おい。説明してみろ」


 アイが、こっちをジッと見つめて、結構強く言ってくる。


「最初に鬼たちを呼び出した時、アイを襲ってウルシャと同じような目に合わせたよな」


「アイ様……まさかそんな目に……」


 呆然としていたウルシャが、アイの方を見て、俺の方を見る。

 とても居たたまれない。


「ごめんなさい」


「うむ。謝罪は受け入れる。だがな、また同じように襲って服を脱がせるとか、どうかしているぞ」


「うん。どうかしてる」


「うんじゃないよ! なんで全力を出すとああなるのか説明だ! 早く説明してください!!」


 丁寧に命令されて、俺としてはもう説明するしかないかなと。

 この「なんだこれ、おかしくね?」っていう気持ちを、誰かに共有してほしい気持ちもある。

 それが召喚主なら、共有先としては非常に悪くない。


「……わかった。少し長くなる」


 俺は俺の『力』の元になったエピソードである『ハイエースする』について説明をした。

 かいつまんで説明したところ、落ち着きを取り戻したウルシャの眉間にはシワが寄り、アイも苦々しそうな顔をしている。


「――という感じです」


「「最低だな」」


「まったく……だ」


 俺はがくっと膝をつくほど、落ち込んだ。


「なんで俺、こんな『力』を得てしまったんだ……」


 もう中二病的な意味で、「くっ、俺の力が暴走するっ」とか悩めればまだ良かったのに、ほんとにもうどうしようもないくらい、どうしようもない『力』だった。


「やはりイセの魂に呼応した『力』が与えられたのでは……」


 ウルシャの反応は、とても説得力があって、アイも若干頷いている。


「ちがーう! 俺はこんなの望んでない! だいたいそもそも! 女の子にあんなことやこんなことなんてしたことないんだよぉぉ」


 これが魂の叫びだといわんばかりに俺は訴えたが、女の子ふたりの眉はぴくりとも動かなかった。

 むしろ蔑んだ目でこっちを見るようになった気がする。

 それでも俺は訴える。


「でもさ、だいたいさ、こんなことしてたならさ、なんで俺はこんななんだよ。鬼たちみたいに、もっと屈強な感じになっててもおかしくないじゃん! それにさ、俺ちゃんと止めたよ! 鬼たちの動きに待ったをかけたよ! もし昔っからこんなことしてる奴だったら、止めてないでしょ!!」


 必死に訴えた。

 今の俺が考えうる限りの、違うんだ、そうじゃないんだ、を言葉にした。

 すると、蔑んだ目は俺から外れ、アイとウルシャはお互いに目をあわせた。


「うむむ……どうだ、ウルシャ」


「そうですね。言ってることは間違ってはいないとは思いますが……」


 考えてはくれているものの、俺への信頼は……あまり持ってない感じがしなくもない。

 ぐぬぬ。

 だが、こればかりは『力』で無理矢理言うことを聞かせる的な納得のさせ方では、問題解決にはならない。


 なにやらふたりで相談をし始めたので黙っていることにした。

 俺はひとまず、この見た目からして凶悪っぽく見える鬼たちを引っ込めることにした。


「鬼たちよ。ハイエースに戻れ」


 素直に言うことを聞いて、ぞろぞろと歩いてハイエースの後部座席に入っていく。

 まるで、某日曜やってる国民的アニメのエンディングテーマの最後に小屋に入っていく親子たちの影絵みたいに大人数がするすると入っていく。

 車内を覗くと、中には誰もいない。いる気配もない。


「……ほんとに魔法なんだな」


「そうだな」


 アイが近くまで来ていて、俺と一緒に車内を覗き込んでいた。


「こういう魔法は大昔あった。文献でその効果も読んだ。だが、おぬしの『力』はケタ違いだ。これが召喚されたものの『力』ということか」


 それを聞いた俺は、またあの某ゲームの英霊とか宝具とかの話を思い出す。

 あれの能力って、霊魂的なものに関係していたなというのが頭をかすめた時点で、ぶるぶるっと頭を振った。

 違うったら違う。


「こんな『力』もあるのですね……」


 ショックからだいぶ回復したっぽいウルシャも車内を覗き込み、つぶやく。

 どうやら珍しい力というのがわかった。


「……こんな異世界(ところ)まで来て、こんな『力』なんてなぁ」


「あっ!? そうでしたっ!? 失念しておりました」


 俺が自分の境遇にがっかりとつぶやくのに合わせて、ウルシャがハッとしていた。


「エジン公爵領で謀反があったと、こちらに来る直前に報告がありました!」


「なにっ!?」


 ん? 公爵領?

 異世界ファンタジーっぽい響きを感じ、少しワクワクした。


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