88話 『力』と向き合うこと
俺とアイと話し終えた後、サミュエル卿は信頼のおける傭兵隊の派遣を決定し、魔境城塞へのアクセスを開始した。
魔境城塞の兵力の空白期間を出来る限り少なくするための手をうっている間、俺たちは、エジン公爵領へ戻る準備をする。
その間に、アイはオフィリアに連絡を取る。
今夜のうちにそちらに戻る、と。
その時に、ケアニスを連れて行くことも伝えた。
あちらではどういう反応をするのか。
オフィリアによる代理統治体制で混乱が生じているであろう時に、ケアニスの来訪は寝耳に水だろう。
これくらいなら対応してくれるであろうとは思うが、とてもじゃないけど無理と言われたらどうしようか。
と考えていたのだが……
「無理だったら、AI機関にくればいい。みんな気のいい連中だぞ」
「アイさんの魔法研究の組織ですね。わかりました。まずはそちらに」
ケアニスは素直に聞いてくれた。
クオンとウルシャとも仲良くやっているし、本当にこのまま仲間になってしまうのかもしれない。
「いいなぁ。私も行きたいなぁ」
タブレットがワガママを言い出している。
「師匠はサミュエル卿のお手伝いを終えてから。あとここから出られるようになってから」
「わかったよ。定期連絡をよろしく」
「うん。師匠たちには本当に世話になった」
「いいよ。弟子の成長を見られただけで嬉しいもんだ」
師弟関係は良好で、とてもありがたい。
師匠か弟子が悪堕ちして大変なことになったりしないことを祈る。
そして俺たちは、帰路についた。
ハイエースなら日が登る前にはエジン公爵領城下町まで余裕でたどり着く予定だ。
俺、アイ、ウルシャが前で、広い後部座席にはクオンとケアニスが座る。
シートベルトで窮屈そうにしながらも、ケアニスは始めての車乗りに少し興奮気味だった。
「まるで飛んでいるかのような速度ですねっ。これがイセさんの『力』なんですね」
「この車の力だけどね」
「こいつを操っているなら、それはイセさんの力ですよ。私の真力や、ウルシャさんの剣と同じです」
「そういうふうに捉えておくのはいいね」
『力』の使い方について考える参考になる。
あくまで道具と思えば、それをコントロールしようって気にもなるし。
「僕の格闘術も似たようなものっすよ」
「そういう意味では、アイの魔法だってそうだ」
「みんな同じですね」
「……なるほど」
みんな『力』と向き合って、コントロールしながらやっているとも言えるか。
「ハイエースの『力』、使いこなせるだろうか……」
「安直に女の子に使ったりするなよ」
「しないよ」
そういうのは……もう少し考えてから使う。
「イセさんの女の子にする『力』っていうのは、この馬車もどきの『力』なんですか?」
「…………」
俺はわからなくて、アイの方をちらりと見た。
車の運転中なので、ほんとにちらりとだ。
「そうかもしれないが、違うとアイは考えている」
「魔法ではないと」
「うん。真力とも違うのは間違いないな」
「そうですね」
「だからこの世界の外……イセのいた世界の『力』かと思ったんだが、師匠が言うには医者が手を加えて性転換をすることはあるが、根本的に変えるとは違うらしい」
性転換手術のことかな?
「戦士殿の世界にはそんなものが……」
「医者がそのようなことを無理矢理……」
「いや、無理矢理っていうのは無いから」
クオンが若干ひいている。
ウルシャは、無言で俺との距離をほんの数センチ空けた気がした。
俺の元いた世界が地獄ようなところと認識されつつある!?
「で、あるならば私からもひとつ気付いたことがあります」
「なんだ?」
アイが興味津々に後部座席へ身を乗り出すようにした。
ウルシャに抑えられている。
「亜人たちの『力』に近いかもしれません」
ケアニスはそう口にした。
魔境城塞で、ケアニスが追い返したという亜人たちの『力』。
いったいどういうものだろう?
俺も興味を持ったが、ウルシャもクオンも興味を持ったように見えた。
カウフマンをカウフタンに変えた『力』を見た者たちなら、みんなそうだろう。
「ケアニス、教えてくれ!」
そして、アイが一番食いついた。




